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「すちー」
放課後いつものカフェ
俺が名前を呼ぶとすぐにすちは振り返った
その顔がどこか安心する
「今日遅かったね?」
柔らかい声
約束をしている訳でもないのに当たり前に待っていたかのような発言
それだけで胸が暖かくなる
「ちょっと進路のことで先生に止められてさ」
椅子に座りながら、何でもないふりをした
本当は少しだけ疲れていた
家のことを遠回しに気遣われながら聞かれて、うまく話せなかった
「進学校ってもうそんな話するの?」
「どこの学校もするだろ」
「文理選択とかあっただろ」
「あーどっちにしたっけ」
「おい、嘘だろ…」
お気楽なすちを見ていたら肩の力が少しだけ抜けた気がした
「そっかー」
「じゃあらんらんは決まってないの?」
スプーンでコーヒーを混ぜながら軽い調子で聞いてきた
深くは踏み込まず逃げ道のある聞き方
「あー、俺さ」
「家がちょっと訳ありでまだ決まってないの」
「進学するかもあやふや、かな」
少しだけ本音を吐いてしまった
全部は吐き出せないが少しだけなら、と
「ふーん、そっか」
それだけ
それ以上は何も聞いてこない
驚いた
普通なら気になって聞いてくるだろ
でもすちは何も言わない
その代わりに
「ね、このケーキ美味しそうじゃない?」
メニューを指さす
自然に話題を変えた
その時心の何かが軽くなる気がした
「美味しそう…」
本当に美味しそうで目を輝かせた
「でしょ?」
「デカいし2人で半分こしない?」
無邪気に笑いそう聞いてくる
「する!」
思わず即答してしまった
なんでこんなにも心が暖かく嬉しいんだろう
ケーキが運ばれてくる
思ったより大きくて2人で目を合わせて笑った
「食べよ?」
すちがそう言ってフォークをくれた
「いただきまーす」
1口食べた
甘い
でもそれよりも
向かいで微笑んでケーキを食べるすちの方がなんだか甘く感じた
「美味しいね」
そう言って俺に笑いかけてきた
「うん、美味い」
「あ、らんらん」
「ん?」
すちはずいっと近づいてきた
「え、」
口元を指で触ってきた
「クリーム、ついてたよ?」
少し笑いながら言ってきた
「…はず」
「あははっ、」
「もう、笑いすぎ!」
心臓がうるさい
なんでこんなに
「らんらん?」
ぼーっと考え込んでいたら名前を呼ばれた
「あ、いやごめん、なんでもない」
慌てて目線を逸らす
さっきの進路の話も家の話も、
全部重たかったのに
今はどうでもよくなってる
(なんなんだよ、 )
すちはまたケーキを食べ始める
何も聞いてこない深堀もしない
でも俺のそばにいてくれる
この関係がとても心地いい
帰り道
夕焼けに照らされながら並んで歩く
「ねえ」
「ん?」
「らんらんがどこで何をしていようとさ、らんらんはらんらんだよ」
急にそんなことを言ってきた
「なにそれ、意味わからん」
笑って返した
でも
胸の奥がじわっと熱くなる感覚がした
「進学してもしなくても」
「俺はカフェ行くし」
「らんらんも来るでしょ?」
当たり前のように言う
お前の未来に俺がいる前提で
その言葉に嬉しさと怖さを感じた
離れたくないと
そう思ってしまった
(あれ、俺、)
足が少し止まる
「らんらん? 」
すちが振り向く
夕焼けが横顔を照らした
何も知らない顔
俺のことは何も知らないのに
それでも
「…なんでもない」
また歩き出す
胸の奥が変な感じがする
これ、もしかして、
そう思った時にはもう遅かった
(俺、すちのこと好きなんだ)
確信してしまった
ずっと胸の奥に隠してた感情に
向き合うのが怖くなった
でも、目を背けてはいけないと強く思った