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6. ◇無礼な管理人
夫のマンションに着いた私は、鍵を持たされていなかったため、
管理人室を訪れ、事情を説明した。
「502号室の嶋啓吾の妻なんですが、鍵を貸して
いただけませんか」と。
管理人はじろじろと私を無遠慮に見て言った。
「失礼ですが、嶋さんの奥さんってあなたじゃないでしょ?
おかしなことを言いますね」
「え? いえ、妻です。
どうしてそんなことおっしゃるんですか。
私はこちらへ来たのは初めてです。
どうして嶋の妻が私ではないと、断言できるんですか?
私のほうが吃驚してます」
私は声を震わせながら小さな声を振り絞り、管理人に聞いた。
「初めて来た?
それこそおかしなこと言いますね。
私はもう何度も嶋さんの奥さんとはお会いしたことがあるからですよ。
兎に角嶋さん本人に確認しないことには鍵はお貸しできません、
あしからず。
何かあったら責任問題になりますからね」
終始訝しみながら管理人は、話は終わったとばかり自分の椅子に座り
私との会話のために開けていた透明ガラス窓を締めてしまった。
何なの?
何? あの失礼極まりない態度。
別の嶋と勘違いしているに違いない……そう思った。
どうしよう、困った。
疲れているので、近場で身体を休められるSHOPを探そうと思い、
踵を返したところ、懐かしい顔の夫がちょうどエントランスに入って
来るところが見えた。
夫の横には夫と手を繋ぎ、楽し気に語りかけている美しい女性がいた。
なに! どーなってるの?
その女《ひと》は誰……。
私は頭の中が真っ白になり、そこで思考が停止してしまった。
呆然と彼らの様子に見入っている私と、顔をこちらに向けた夫との視線が
絡まった。
身体が勝手に動いた。