テラーノベル
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東京タワー最上部、特別配信ルーム。
ガラス張りの向こうに広がるのは、偽りの平和に酔いしれる東京の夜景。
そして、サーバーの重低音が響く部屋の中央で、一人の女性がモニターの光を浴びて立っていた。
「……栞。あなたに世界を救う資格なんて、ないわ」
冷たく言い放ち、ゆっくりと振り返ったのは
あの日、療養所が襲撃された際に行方不明になっていた、かつての協力者——真由美だった。
「真由美…!?あなた、パンドラを壊すために一緒に……!」
結衣が信じられないといった様子で声を荒らげる。
だが、真由美の瞳には、かつて共有したはずの復讐の炎はなく、ただ冷徹な合理性だけが宿っていた。
「パンドラを壊してどうなった?結局、より巨大な『国家』という怪物が現れただけ。……私は悟ったの。人間には、誰かに支配される『幸福』が必要なんだって。あの偽物の栞はね、私が作った最高傑作よ」
真由美の手元にあるコンソールには
日本中の情報網を統括する「偽・栞」の思考回路が表示されていた。
彼女はパンドラの技術を政府に売り渡し、引き換えに「秩序の演出家」としての地位を手に入れたのだ。
「……っ、…あ、あ……」
私は喉を震わせた。
音は出ない。
けれど、私のペンが震えている。
私はノートに力強く、怒りを込めて書き殴った。
【友達を、利用しないで】
「友達?栞、あなたはいつもそう。自分の声で周りを不幸にしながら、自分だけが被害者のような顔をして……。その喉の傷は、あなたが背負うべき『罪』の印よ」
真由美がエンターキーを叩く。
すると、部屋中のモニターが真っ赤に染まり、私の足元から電子の鎖が伸びて、私の自由を奪った。
「国民への感謝祭まで、あと5分。…栞、あなたはそこで見ていなさい。偽物のあなたが、世界を完全に『浄化』する瞬間をね」
眼下では、タワーを取り囲む何万人もの群衆が
偽物の栞が放つ光に手を伸ばし、狂ったように名前を呼び続けている。
「……シナリオの書き直しが必要ね」
結衣が、腰に隠していた電磁パルス手榴弾を取り出した。
「真由美、あんたの作った退屈な傑作、今ここで私が『没』にしてあげるわ」
「できるかしら? この部屋のセキュリティは、栞の『書く力』も、あなたの破壊工作も、すべて計算済みよ。……残り3分。……さあ、偽りの女神の降臨よ」
真由美の指が、全世界同時中継のボタンにかかる。
その時、私のスマホに、階下で戦っているはずの九条さんから、一瞬だけのノイズ混じりの通信が入った。
『……栞……さん…信じてる……。君の、……本当の声を……』
通信は途切れた。
私は、縛られた手で、ノートの最後のページを破り取った。
そこには、文字ではない、ある「記号」が記されていた。
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深冬芽以