金髪の女性は騒ぎを聞きつけて奥から戻ってきたウィリアムに、鞄から出した書類を突きつけた。
[ミスター・ターナー。……いいえ、ウィル先輩。長年にわたるあなたのストーカー行為にこれ以上我慢できないので、訴えさせていただきますね。今日はその報告に参りました]
婚約者がストーカー行為を働いていたと聞き、スカーレットは目を剥く。
[ウィル!?]
[ち、違うんだ! 彼女とは何も……]
金髪の女性はスカーレットに歩み寄ると、名刺を差し出した。
[初めまして。私はグレース・パーカー。彼の大学の後輩で、先にスキップして卒業した者です]
[グレース・パーカー……]
スカーレットは彼女を知っているのか、グレースへの認識を改めたようだった。
グレースは現在日本で事業を展開しているが、起業をするにあたっての資金は、すべて投資によって稼いだ。
大学の経済学部で優秀な成績を残した彼女は、今はSNSで有名な投資家となっている。
彼女の投資テクニックを学ぶため、フォロワーは数十万人にも及ぶ。
エキセントリックな発言もするためにアンチもいるが、圧倒的に支持者のほうが多い。
俺は〝予定通り〟登場した彼女が繰り広げる寸劇に期待し、微かに笑ったまま壁際に控えていた。
このためにスタッフには『今日、グレース・パーカー様という投資家が、ビジネスの話のためにターナー様を訪れるから、お通ししてくれ』と伝えてあった。
グレースは堂々とソファに座り、脚を組む。
[私は有名人だし美しい。機転も利くし魅力的だわ。だから大学在学中も、様々な人からお誘いを受けたの。……勿論、ウィル先輩にも]
その言葉を聞いてウィリアムは血相を変え、スカーレットは朱唇を噛む。
[彼は私が卒業しても、アプローチを止めなかった。私は何度もハッキリ断ったのに、しつこく迫ってくるの。『俺に手には入らないものはない』と豪語していたから、勘違いしたのかしらね?]
スカーレットは目の下をヒクつかせている。
[卒業後に資金を貯めた私は、日本に住まいを移したわ。そこで新生活を送ろうと思ったのに、常にウィル先輩が雇った探偵がうろつき回り、私の行動を監視してきた。私は旧知の仲である彼……、神楽坂暁人氏に偽りの夫役を頼み、誤魔化そうとした。……でも今回、ウィル先輩は婚約者を連れて表向きビジネスとして訪日した。……スカーレットさんの事を、SNSの裏アカウントでは『妥当な相手』と言っていたのに、見せびらかすように商談の場にも連れてくるものだから、笑っちゃうわね。……その裏で、日本で私にコンタクトを取り、最後にプロポーズできないか試みてるんだから、本当にバカみたい]
立ち尽くしたスカーレットは、真実を聞かされて真っ赤になって怒っている。
[ウィル! 結局はあなたが浮気を繰り返しているんじゃない! 日本について行きたいと言った時に渋ったのは、この女に会うつもりだったからなのね!? マーティンから日本行きを聞くまで、私は何も知らなかった。言われるまでは日本に行く事も秘密にしておくつもりだったんでしょう!]
スカーレットはヒステリックに叫び、身振り手振りでウィリアムを責める。
[そうやってすぐ感情的になるところが嫌いなんだ! お前は顔がいいしジャクソンホールディングスの令嬢だから、結婚相手に相応しいと思ったが、束縛が強すぎるし我が儘すぎる!]
[婚約者の浮気を疑うのが束縛なの!? あなたはいつも女性とレストランやバーに行ってたじゃない! 友達だっていうから放っておいたけど、ずーっと我慢してきたのよ! なのに……っ]
スカーレットの声が、涙で崩れる。
[マーティンから聞いたわ。『兄さんは色んな女性と関係して不誠実だから、結婚を考え直した方がいい』って。でもあなたを信じた! 好きだったからよ! でも日本に来てヨシノという女を見つけて、嫌な予感がしたわ。……でもそうじゃない。あなたの〝本命〟は別の女性だった! ~~~~この女ったらし!!]
スカーレットは叩きつけるように言い、ウィリアムにビンタをした。
そして荒々しく部屋の奥へ行くと、荷物を纏め始める。
[レティ、どこへ行くつもりだ!?]
[帰国するわ! そしてパパに婚約解消したって言うの! 融資の話もなし! あなたとはもう金輪際関わらないから、どこででも好きな女といちゃついて!]
ウィリアムは呆然としたまま立ち尽くし、絶望した顔でグレースを見る。
コメント
1件
芳乃ちゃんに酷いことをしたレティは許せないけど、諸悪の根源へ鉄槌を下したのは👍