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半ば強引に実里くんを保健室に連れて行くと、先生がちょうど職員室に用事があるらしく席を外すため、私が手当をすることにした。
実里くんを椅子に座らせ、私はしゃがみながら手当をする。
「手際良いね」
「小さい頃から自分でやってたからかな」
「……ふうん」
自分から話振ってきたのに、実里くんは興味なさそうな反応だった。
まあでも、彼は私に関心はほとんどないのだろう。ただ、王子役がほしいだけ。
……その理由すら教えてくれないけど。
「実里くん、傷はしっかり手当しないとだめだよ」
「じゃあ……傷できたら、あんたが手当して」
「え?」
驚いて目を見開いたまま実里くんを見上げる。すると、ため息が降ってきた。
「冗談も通じないわけ? てか、間抜けな顔してこっち見ないでくれない」
「な!」
口をぱくぱくとさせながら、呆気にとられて硬直する。
「早く手動かしてよ」
苛立を必死に押込めながら口をへの字にする。本当に失礼な人。
「心配して損した」
ぼそっとこぼした独り言を、実里くんは聞き逃さなかったようだった。
「……心配?」
「うん」
消毒が終わり絆創膏を貼って、実里くんの手を放す。
立ち上がり、救急箱に使った物を元通りに仕舞っていると、私の右手を実里くんが掴んだ。それによって絆創膏の箱が床に落ちてしまう。
「ちょっ、」
「心配って俺を? 同情じゃなくて?」
「え……ただ元気なさそうで怪我もしてるし、心配したんだけど……それっておかしい?」
向けられる視線は切なげで逸らせなかった。
「……そんな元気ない顔してた?」
「う、うん。なにかに傷ついてるみたいだったけど」
あんたになにがわかるとか言われてしまうかなと思っていたけれど、力なく実里くんが微笑む。そして、私の肩が掴まれ体が前方に引き寄せられる。
「え……」
気づけば実里くんと私は、お互いの心臓の音が伝わるくらい密着していた。
「み、の…」
「黙って」
耳元で実里くんの声がして、緊張が加速する。
ち、近い。緊張してるの絶対伝わってる。
「少しでいいから……こうさせて」
消えそうなほど小さな声だった。
「なんで俺……こんなに弱ってんだろ」
背中に回された腕に更にぎゅっと力を込められる。その腕の熱が体を包むように浸透してくる。
「誰にもこのこと言わないで」
「……うん」
口調は強気だけれど、凄みは感じられなくて少し可愛らしいだなんで思ってしまった。
「……っ!」
実里くんの吐息が首筋にかかり、どくりと大きく脈を打つ。
「一つ忠告」
腕の力が緩められた。実里くんが離れ、向かい合うようになり視線が重なった。
「あいつに弱みを見せないほうがいい。……人を遊び道具にしか思ってない。最悪なヤツだ」
実里くんの手が私の頭の上にのせられた。その手はあたたかくて、優しい。
「せいぜい気をつけて」
頭の上で力を込められ、実里くんが立ち上がる。
「い、痛い!」
実里くんが私を見下ろしながら、おかしそうに笑う。その様子は先程までの弱々しさは消えていて、平常運転の実里くんだった。
「手、どーも」
そう言って実里くんは保健室から出て行ってしまう。残された私は力なく床に座り込み、落ちたままの絆創膏の箱をぼんやりと見つめていた。