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子どもたちの賑やかな笑い声が響く。
今日は記念すべき誕生祭。修道院の祭壇画も開いている。
普段よりも豪華な食事を囲み、街には店が並ぶ。
シャンフレックは繁盛した街の様子を、屋敷の高台から眺めていた。
兄のフェアリュクトはすでに王都に戻り、アルージエもルカロに帰った。
ずいぶんと寂しくなったものだ。
「お嬢様、本日はいかがなさいますか? 街にお出かけしますか?」
傍に控えていた侍女のサリナが尋ねる。
景色を眺めるシャンフレックはどこか上の空。
「いえ。私はここで大人しく過ごしているわ。民に顔を見せるのはお父様だけで十分でしょう」
なんだか人前に顔を見せる気にはなれなかった。
サリナも最近は籠りきりのシャンフレックを心配している。
「やはり、アルージエ様がいないと調子が出ませんね」
「どうして彼の名前が出てくるの? 私は別に何も言ってないけど」
「ですが、お嬢様はアルージエ様が発ってからずっと寂しそうです」
サリナの発言は的確だった。
仮にもあんなに自分に好意を寄せてくれて、婚約まで申し込んでくれた人が離れたのだ。寂しいに決まっている。
「これでいいのよ。そもそも、教皇と関わること自体が異常だったのだから」
「うーん……でも、聖下はお嬢様をルカロに招致してくださるのですよね? ルカロに行き、アルージエ様とまた会うべきでは?」
「……困るわ」
そう、シャンフレックは困っていたのだ。
別にアルージエの好意が迷惑というわけではない。
むしろ嬉しいのだが……どうしても立場的な障害が生まれてしまう。
今頃アルージエは教皇として、誕生祭を取り仕切っているのだろう。
ルカロの祭りはヘアルストとは比べ物にならないほど規模が大きい。
彼の苦労が目に浮かぶようだ。
「王都も今日は賑わっていることでしょう。私はおごそかに祝いながら、家の中で一日を過ごすわ」
「……承知しました」
***
「やれやれ。困ったものだな、フェアリュクト」
祭日に急いで戻ってきたフェアリュクト・フェアシュヴィンデ。
彼の護衛対象である第一王子、デュッセルはため息をついた。
王子から呆れた視線を受けたフェアリュクトは特に反省もせず反論する。
「俺の優先順位は知っているだろう? 妹が最優先、次にお前。後にその他もろもろだ」
「ああ。まあ、民に姿を見せる誕生祭までに戻ってきたのなら、そこまで説教はしまい。私はこれより街に出て、笑顔を振りまく仕事があるからな。護衛の君がいなくては困る」
互いに人となりは知っていた。
だからこそ、行動の指針は理解している。
デュッセルは政務が最優先、フェアリュクトは妹が最優先。
これが鉄則だ。
「そういえば、お前の弟はどうなった? 蟄居は解かれたのか?」
「私が父上を何とかした。ユリスも少しは反省したみたいで、政務は終わらせたようだ。記念すべき今日くらいは外出させてやるさ」
「ほう……あの馬鹿王子が政務を? ほとんどシャルに投げていたと記憶しているが」
「そこは私も意外だったな。腐っても王族ということか」
フェアリュクトは首を横に振った。
どうにもきな臭い。
おそらくデュッセルも違和感に気づいているが、あえて指摘していないのだろう。
「責任というものをユリスは知らない。ゆえに、その身をもって知る必要があるのだろうな」
「俺としてはシャルに迷惑をかけなければ何でもいい。あの馬鹿が婚約破棄してくれて清々しているよ。馬鹿が王族だということに問題はあるがな」
婚約破棄については、それなりに問題になっている。
シャンフレックをユリスが手放したということよりも、新たな婚約者が男爵家の娘ということが問題なのだ。それに新婚約者のアマリスは良い噂を聞かない。
「国の未来を憂う必要はない。なぜなら……私が王位を継ぐのだから。ユリスは好きに遊ばせておけ」
デュッセルは不敵に笑った。