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第12話:フリーズ
最深部の中枢コアが、光を失った。
カナ(15)は、沈黙した画面を見つめていた。
隣には父・タカユキ(40)と母・ユミ(38)。
けれど、ソウタ(7)の姿は、もうそこにはなかった。
「終わったの……?」
答えはない。
ただ、音もなくパネルが閉じ、空気がすぅっと静まった。
地上。
雪は、完全に止まっていた。
空には色が戻り、朝焼けのような淡い赤が滲んでいた。
ライオン像がゆっくりと崩れはじめていた。
首の角度が落ち、歪んだ頬が砕け、
最後に残っていた片目の光も、ゆっくりと、消えていった。
まぶたのように石が閉じ、像は“眠る”ように口を閉ざした。
「…………」
もう、何も語らない。
何も求めない。
あの声も、命令も、存在そのものも――ただの石になっていった。
山が、静かに軋んだ。
各所で崖が崩れ、地面が緩やかにひび割れ、
これまで現れていた具現化の存在――
風に溶ける音楽、父の影、光る獣――
そのすべてが、霧とともに消えていった。
苦しみを映した声も、過去の断末魔も、
ただ、なにもなかったかのように、
淡く、やわらかく――凍てついて消えた。
マシロ家は、雪のなかを歩いていた。
3人で。
手を繋ぎ、言葉はなくても、
その静かな足音だけが、確かに残されていた。
「ねえ……カナ」
母がぽつりと呟いた。
「ソウタの“祈り”って、どこまで届いたんだろうね」
カナは空を見た。
雪雲はもうない。青が透けていた。
「……きっと、ぜんぶ、だったんだよ」
遠く、かすかに笑い声が聞こえたような気がした。
それは風のせいか、
記憶か――
あるいは、**見守る者の“祈り”**だったのかもしれない。
ライオン像は、すべてを終え、
その巨躯を沈めるように、
雪山の地へ、ゆっくりと崩れ落ちた。
残されたのは、何もない静寂。
けれど、そこには、
決して壊れなかった家族の絆が、確かにあった。
そして、世界は――
二度と、誰かを選ぶことはなかった。
――『フリーズ』 終幕