コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「いえ、寧ろこれは光栄な事なんスよ、姉さん」
「え?」
「姉さんや悠真は理仁さんにとって大切な存在なんスよ? だからその大切な人の傍に居るよう命じられるって事は、理仁さんの側で何かをする以上に重大な任務なんスよ。それを任されてる俺は頼られてるって事なんで、凄く光栄で嬉しいっス!」
「……そう、なの?」
「そうっスよ」
「……そっか……」
朔太郎の言葉に驚いたけれど、理仁の大切な人という部分が嬉しかったのと、朔太郎の邪魔になっていなかった事を知れた真彩は安堵の表情を浮かべていた。
「それと、……今こんな時に聞く話じゃないのは分かってるんスけど……一つ聞いてもいいっスか?」
喜ぶ真彩を前にした朔太郎は気になっている事があるらしく、いつになく遠慮がちに問い掛けた。
「何?」
「……姉さんは、理仁さんの事、どう思ってるんですか?」
「どうって……」
「俺が鬼龍組に関わった頃から理仁さんは女に見向きもしなかったんですけど、姉さんの事は常に気に掛けてる。まぁ姉さんたちは家族みたいなものだから当たり前って言えばそうなんだけど、今はもう、それ以上の感情がある気がするんスよね……」
「……理仁さんには良くしてもらって感謝してもし切れないくらい。理仁さんも私たちの事は家族のように大切な存在だって言ってくれたし、私もそう思ってる。ただ、それ以上の感情があるのかと問われると、自分の事だけど、ハッキリとは言えないんだよね」
「……そうなんスね。でもまぁ、それは仕方ない事なのかな。姉さんは悠真の母親だから意識的に『恋愛感情』を遠ざけてるのかも」
「うん、それはある。やっぱり、悠真がいる以上、私は母親だから自分の事よりも悠真を優先しちゃう。恋愛は今はいいかなって思っちゃうしね」
「すみません、変な事聞いて」
「ううん、気にしないで」
朔太郎に理仁への感情を聞かれたものの、未だよく分かっていない真彩は濁して答え、その話はそこで終わってしまう。
こうして真彩たちの居る地下室には比較的穏やかな時間が流れている頃、理仁たちの居る屋敷の外では緊迫した状況に置かれていた。
「わざわざ屋敷まで来るとは、余程の用件か?」
「ああ、すぐに確認したい事があったんでねぇ」
理仁が表へ出ると、箕輪組の若頭、東堂 尚が下っ端二人を引き連れて仁王立ちして構えている。
「ほお?」
「お前なんだろ? 玲香に色々と吹き込んで俺と別れさせたのは?」
「玲香? ああ、あの頭の悪そうな女の事か」
「何だと?」
「あの女とは一度接触はしたが、駒にもならねぇから早々に見切りを付けた。別れた原因は俺じゃなくてお前にあるんじゃねぇのか?」
「お前、俺の女だった奴を悪く言うとか性格悪過ぎだろ? 嘘つくんじゃねぇよ! 玲香はお前に指示されて色々やらされたって言って泣きついて来たんだぞ!?」
話の流れから、どうやら東堂の彼女だった玲香という女が何かの目的の為に理仁に騙され、自分との交際を絶つように指示したのではと疑っていて、その確認にわざわざ出向いて来たようだ。
「身に覚えのねぇ事でとやかく言われる筋合いはねぇよ。第一俺は人を騙して裏でコソコソと何かを企む様な真似はしねぇ。まどろっこしい事は嫌いだからな。それは解ってるだろ?」
「うるせぇ! じゃあ何か? 玲香が俺に嘘ついてるって言うのかよ? アイツは馬鹿かもしれねぇけど、そんな女じゃねぇんだよ!」
けれど、それに身に覚えの無い理仁は東堂を一喝するも、玲香を悪く言われた事に頭の血が上った東堂は諦めるどころか更に詰め寄ってくる。
「はあ……。埒があかねぇな。そんな話をしに来たのならとっとと帰れ」
「ふざけるな! お前がそういう態度なら、こっちにも考えがある。前々から気に入らなかったんだよな、そのすかした態度がよぉ! 組長だからって調子こいてんじゃねぇぞ!」
「テメェこそ、自分の立場分かってて口聞いてんのか? 箕輪組は教育が行き届いてねぇらしいな」
「うるせぇんだよ! テメェこそ、先代が死んだから上がっただけで、組長なんて名ばかりだろーが! 覚えておけよ? 後悔しても知らねぇからなぁ!」
暫く言い合いを繰り返した後、東堂は捨て台詞を吐くと下っ端たちに当たり散らしながら車に乗り込んで去って行った。
「……なんだって言うんだ、一体……」
「兄貴、放っておいても問題ないんですか?」
「……アイツが言ってた玲香って女の事が少し気になるな。何故俺が手引きした事になってるのか……その辺、調べてみてくれ」
「分かりました」
東堂と理仁は古い知り合いで、昔はそれなりに会話を交わすような仲だったものの、互いに敵対する組織に属して以降は適度な距離を保ち続けていた。
だから、東堂があそこまで怒りを露わにしながら理仁に向かってくるという事は余程の事があったという事。女に興味の無い理仁からしてみれば、東堂の女を誑かしたという話は濡れ衣もいいところだ。
しかし、東堂からしてみれば理仁が女に興味があろうが無かろうが、目的の為ならば誑かして自分に好意を持たせる事もある筈だと思っているようで、誤解が解けなかった東堂の動向が気になる理仁は翔太郎に調べるよう任せ、自分は真彩たちの待つ離へと向かって行った。