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前書き
今回の話には、第一部 二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)、
『361.成瀬川土左衛門 (挿絵あり)』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
二匹が笑い合っていると、先程飛び立ったダイサギが中洲に降り立ち、近付きながら言った。
「メダカ王、待たせた、鳥の王、御出座し」
どうやら首尾良く『鳥の王』を連れてきてくれたらしい。
どこだろう、そんな思いで水面から顔を出して、キョロキョロと回りを見回してみたナッキとサニーの周辺が、突然薄暗く変わった。
不意に射した影は徐々に大きく転じて行き、あっと言う間に中洲の殆(ほとん)どを夜の様に変えてしまうのであった。
ブワサッ! バサバサァッ!
明らかにサイズ感がおかしい鳥が中洲に降り立ち、全ての水鳥が頭(こうべ)を下げて平伏(へいふく)している。
巨大なナッキの全長と比べても数倍は有ろうかと言うその鳥は、青み掛かった灰色の背に白い腹、漆黒の鋭い嘴(くちばし)を持ち、両の瞳は燃えるような赤である。
後肢(こうし)は鮮やかな黄色で、所々に見える肌色は薄っすらとした水色をしているらしく、何と言うか…… ガチャガチャした印象を受ける。
「待たせたな『美しヶ池』とやらの『メダカの王様』、余がこの川周辺の鳥を率いるヘロンである、何やら頼みがあるとか? 聞き入れるかどうかは内容によるが、申してみよ、一体何を望む?」
カラフルな巨鳥は流暢に言った。
ナッキは明快に答える。
「はじめましてヘロン王、僕はナッキ、『メダカの王様』です! 森の中のカメの長老に聞いてお願いに来たんだ! 僕の池にトンボ達が死の種を蒔いたんだよ! このままでは池は死に絶える…… どうかトンボを説得して虐殺を止めて欲しいんです! お願いします! どうかどうか――――」
目がチカチカする大きな鳥、ヘロンは言葉を被せてくる。
「カメの長老? と言うとキトラの爺さんだな? んーと、ナッキ王よ、お前の池って若しかして『ペジオの池』、だったりするのか?」
ナッキは一所懸命に思い出しながら答える。
「うん、確かに長老はペジオの池って言っていたけどね、僕たちは『美しヶ池』って呼んでるんだ! ギンブナとメダカ、カエルとモロコとウグイ、色んな種族が助け合って暮らす僕たちの王国さ!」
「ふむ……」
独特の色彩センスでその身を飾ったヘロン王は、少しの間、瞑目(めいもく)してから真っ直ぐにナッキを見つめて言う。
「よかろう! トンボを説得する役、請け負おうではないか!」
ナッキは喜色満面だ。
「ほ、本当に! やった、これで助かるぞぉ!」
「やったねナッキィ!」
巨大なヘロンは真紅の目を更に真っ赤に血走らせながら叫ぶ。
「無論本当だとも! 我ヘロン、かつて、鳥の神ストラスの器にしてハタンガの鳥の王は『メダカの王様』ナッキ王の依頼に応えてトンボの説得に当たろう! 彼奴等(きやつら)が聞き入れなければ一戦も辞せず! 後は我々鳥族にお任せあれぃ!」
「うわぁ、ありがとうヘロン王! 本当になんてお礼を言っていいかぁ――――」
「ただし、我が願いを一つ叶えてくれるのなら! と言う条件付でだがな」
なるほど、タダではないらしい…… そりゃそうか、そんなうまい話なんて中々無いだろうしな。
ナッキも同じ様に感じているようだ、おずおずと言った感じで聞くのであった。
「願い…… それってぇ、どーいうー?」
ヘロンは硬い筈の嘴の根元をニヤリと持ち上げて答える。
「なに簡単な事だよ、我と我の眷属、水鳥たちを『美しヶ池』の仲間に加えてくれ! 今後はそなたに従う、忠誠を受け入れてくれ、『メダカの王様』ナッキ王よ!」
「へ?」
ヘロンの願いは王国入りだった。
急転直下、想像していなかった言葉にコクコクと頷きを返すナッキ。
兎に角、ナッキに家来、空飛ぶ子分が増えたようである。
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