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第1話 旅立ち
2128年8月9日
最終戦争が勃発した。エネルギー資源の枯渇、食料品の供給難。それぞれの国が不満を募らせて、隣国との緊張状態の糸が切れるのに時間はかからなかった。
ひとつのいざこざが全てに火をつける。自国を守るという大儀のため、私利私欲のために各国が侵攻を始めた。
全て塵になるとは知らずに進み続けた。
結果的に町は消え、森も大地も消えた。放射能がばら撒かれた地上では人類は暮らすことが出来なくなった。
やがて人類は、地下での生活を余儀なくされた。
僕はそう聞いた。当時は特に疑いもしなかった。僕が物覚えつく頃には地下都市の生活に慣れていた。僕に両親はいない。両親は僕を抱えてシェルターへ走った。防護マスクは一つしかなく、僕にしてくれたらしい。両親は汚染され、地下都市へ入れてくれなかったと聞いている。
僕を育ててくれたのは、「みんなのおばあちゃん」と呼ばれているカミラだ。
カミラは俺が16歳になるまで、面倒を見てくれた。カミラのことは、母親のように思っていた。10歳になるまではある程度の食料や支給品を無償でもらえた。その後はカミラにお世話になったり、自分で労働することで通貨を集めたりしていた。
カミラにはとても感謝している。いつか何か恩返しがしたい。
この地下都市は、階級ごとに、いくつものに区切りわけされている
僕はCブロック。Bブロックに進むには潤沢な資金を持っているものが通過できる。
ゲートの前には警備兵がいる。数か月に一度誰かが侵入しようとするが毎回処分されている。
僕はそれを眺める度に、悲しくなった。
でも、カミラをBブロックに行かせてあげたい。
ここでの通貨はスクラップが一般的。他にも貴重品、地上での物資が高価な物となる。
食料はBブロックから配給されるが、通貨が必要。きっとあちらには、畑や真水を精製する機械があるのだろう。
Cブロックの住人は、危険を冒してまで地上へ出る。帰って来なかった者も少なくない。
でも、僕は少しでもカミラに恩返しがしたい。
明日地上へ出ることを決意した。地上で良いものが手に入れることができれば
カミラがBブロックに行ける日も近くなる。
前日の夜は緊張と怖さで寝られなかった。
そこにカミラがやってきた。
「ネロ、どうしたの?不安そうな顔して」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと考えごとをしていただけだよ」
カミラが僕のベッドの横にあった、マスクとフィルターをみて手を握る
「ネロ、、バカなことはしないで」カミラが心配そうに言う
「僕はもう成人したんだ、カミラに恩返しがしたいんだ」
「ネロ。聞いて、あなたは勇気がある素敵な子だよ。けど生きていてほしい。それだけなの」カミラは僕を強く抱きしめる。
「カミラ、ありがとう。ここまで育ててくれたこと。でもこれは僕の意思。少しのわがままを聞いて欲しいんだ」
パンっ!!!
カミラが頬をビンタする。
「お願いだから言うことを聞いてちょうだい」カミラが初めて怒った。
「僕はずっとこの狭い籠の中だ、カミラが教えてくれた悲劇のことも僕を閉じ込めたいだけなんじゃないの?僕は外の世界をみていたいんだ」
思ってもいないことを口にしてしまった。
「カミラ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ。。。」
カミラは、悲しそうに静かに後を去った。
横になりながら明日のことを考えていた。
カミラにいいものを届けよう。
朝を迎え、マスクとフィルターを用意しゲートが開くのを待つ。
警備兵が言う。
「ネロ、24時間以内に戻るのが規則だ。超過した場合ゲートへの入場を拒否する場合がある」
「ああ、わかってる。」不安が残るが意思を固める。
ゲートが開く。後ろを振り返るとカミラが寂しそうな目でこっちを遠くから見ている。
(大丈夫)
目の前には凍りついた大地が広がっていた。
ゆっくりゲートが閉まるのを見届けた後、力強く、一歩を踏みしめる。
(待っててね、カミラ)
この行動がカミラとの最後の別れになると知っていれば良かったのに。
(続)