テラーノベル
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ここはやっぱり、聞くべきだろう。
そう思って質問しようとしたところで。
「何故アライアさんが、反省しているんですか?」
俺ではなく、ジョンが先に尋ねた。
アライアさんは軽く頷いて、口を開く。
「まだ私が里を出て、冒険者になったばかりの頃だった。当時は金も魔道具もなかったので、割と何でも依頼を受けていた。その中に、魔法呪文生成の依頼があった。依頼を出したのは猫互助会で代表者はホウトン村の村長代理。相談内容は、祭りでルール違反をする者に対する罰則となる魔法の作成だった」
ああ、もうこれだけで、俺は話の筋がわかってしまった。
それでも肝心な部分は、聞かないと確認できない。
「当時の村長代理のアニャの出した条件は2つ。発動しても生命に異常はないことと、それでいて抑止力になること。より適切な魔法を作るため、私は祭りの内容をアニャに聞いた。結果、猫獣人特有の病気である慢性便秘を治療するため、インガンダ・ルマという魚を食べ、その脂で腸内の滞留物を流すという祭りであると知った。そしてルール違反とは、皆で平等に食べる筈のインガンダ・ルマを、食欲に負けて割り当て分以上に食べてしまうことだとわかった」
「つまり、禁呪文を作ったのは、アライアなのニャ?」
ミーニャさんも知らなかった様だ。
アライアさんは頷く。
「あの頃は私もまだ若くて、恐れを知らなかった」
「でも確か禁呪文は、私が子供の頃には既にあったのニャ。あとアニャという名前は、確か……」
「女性の年齢の話は禁句、それはエルフでも変わらない」
アライアさんの言葉が、ミーニャさんの言葉を遮る。
ミーニャさんは頷いた。
「わかったニャ」
「話を続ける。インガンダ・ルマの脂は腸内を抵抗なく流れて、食べた者が意識しないでも出てくる位に流動性が高い。祭りの内容とその背景、そしてインガンダ・ルマの脂の性質を知った私は、アニャにこう提案した。
『インガンダ・ルマを多く食べるということは、それだけ流したい物が多く溜まっているということだろう。ならより多く、本人もどうにもならない程に流れ続けてしまうというのはどうだろう』」
何というか、もう酷い予感しかしない。
それでもアライアさんは、同じ口調のまま続ける。
「結果、『食べたインガンダ・ルマの脂が体内で増加し、3時間あまりの間、止まらずに流れ出続ける』という魔法が完成した。正式名称は『もれ出ずる影のさやけさ』、この魔法の呪文を、罰すべき内容と期間とともに唱えると、発動する。当時の私やアニャは、いい呪文が出来たと思っていた。これなら抑止力になるし、万が一発動しても生命に異常はない。そう思っていた。実際に発動した場合の惨状までは、想像していなかった」
ここから先は間違いなく、食事中にふさわしい話題ではなくなる。
既にもう、アウトに近い気がするけれど。
それでももう、ここで話を止める訳にはいかない。
「その年の祭りで、アニャは早速、呪文を唱えて魔法を発動した。祭りのはじめに、今年から禁止行為には魔法が発動することも周知した。それでも事案は発生してしまった。それも3人。
発動した直後、魔法で付近を封鎖して、漏れたものが他を汚染しない様にした。それでも、本人がどう工夫しても、布を侵食し服に染み出し、そして流れる脂を止めることが出来なかった。
3時間の間、脂は流れ出し続けた。祭りは一時中断となった。誰も助けることは出来なかった。ただ見ていることしか出来なかった。
魔法の設定通り、身体機能そのものには障害は出なかった。ただ3人とも、翌日には村を去った」
確かにそんなのが会場で発生したら、祭りは禁止となるだろう。
何せこの祭り、実質は食事会以外の何者でもないのだから。
そう思ったところで、ミーニャさんが口を開く。
「ニーニャさんの時も、症状は同じなのニャ。3時間くらい垂れ流し続けたのニャ。出過ぎて足下が濡れて滑って、歩くのも辛い状態になったニャ。何とか近くの仮設トイレに避難して貰って、依頼で来て貰った冒険者の魔法使いに、消臭魔法と換気魔法、清掃魔法をかけまくって貰ったのニャ」
アライアさんは、頷いた。
「あれはまさに、尊厳の破壊。己が作成した魔法の効果を目の当たりにした私は、拠点を国の反対側にあるフィーギに逃げた。それでもこの村のことと、作ってしまった魔法呪文、そしてインガンダ・ルマの刺身の味はずっと気になっていた。だからこの機会に来てみた。魔法の件を知っている人がいないことはわかっていたから、あくまで観光という名目で」
ミーニャさんは、頷いた。
「ニャら問題はないのニャ。禁呪文による抑止効果と発動する罰は、皆知っているのニャ。子供の頃から、あれだけはやるなと教育されるのニャ。それでも出てくる失格者は、自業自得なのニャ。尊厳破壊を機に、心を入れ替えるのニャ。ニーニャさんは、それまではやんちゃしていたけれど、あれを機に真人間になったと評判なのニャ。ホウトン村には戻ってこないけれど、猫獸人の噂で流れてくるのニャ」
「なら良かった。百年来の心の澱が流れた気がする」
めでたしめでたし、そう言っていいのだろうか。
そう思ったところで。
「それよりハゲらった魔法の方が、尊厳を破壊していると思うのニャ。フィーギで粗暴な冒険者に対してやったのは、正直いい気味だと思うのニャ。でもその後、熊獸人盗賊団の全員にハゲらった魔法をかけたのは、正直やり過ぎだと思うニャ。獸人にハゲらった魔法は、尊厳破壊なのニャ」
獸人に毛が全部ハゲる魔法をかけると、どうなるのだろう。
ミーニャさんたち猫獸人は、基本的に耳部分と尻尾しか、猫っぽい毛は生えていないけれど、熊獸人はどうなのだろうか。
「ハゲらった魔法ではなく、エステティック脱毛魔法。仕方なかった。不潔な環境で半年暮らしていたから、臭かった。耐えがたいほど、臭かった。だから臭いを溜め込んだ衣服や体毛を全部抹消した後、清掃魔法をかけて臭いを消した」
「耳に毛がなくて肌色だから、豚獸人と言われてしまっているのニャ。あと百年来とさっき言っていたけれど、あれは短い方にサバを……」
「そこからは禁則事項」
うーん。
アライアさん、何歳なのだろう。
百年というのも短い方にサバを読んでいるというと……
あと得意な魔法は、尊厳破壊系なのだろうか。
多分違うとは思うし、思いたいけれど。
コメント
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うわあ…これは目を背けたくなるけど、でも目が離せない話でしたね。アライアさんが若い頃に作った禁呪文の経緯が明らかになるとは。インガンダ・ルマの脂の性質から「流れ続ける」魔法を思いつく発想の飛躍、その合理性と破壊力のギャップがすごい。しかも実際に発動した後の惨状と、村の「自業自得」という割り切った受け入れ方も含めて、この世界の倫理観がしっかり感じられて引き込まれました。そしてハゲらった魔法の話も入ってくるのがまた…尊厳破壊の魔法使い、納得の称号ですね。
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