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「なんだ!?」
警戒したアルフォンス様は私を背に庇って剣を構え、私は再びインビジブルハンドを出す。
と、クルクル回る魔石の中央に、黒い服を纏った黒髪の男性が現れた。
その背中には三対の悪魔の翼があり、お尻の辺りからは竜の鱗が生えた太い尻尾が生えている。
血のように赤い目をこちらに向けてニィッと笑った〝彼〟は、口を開き自己紹介をしかけた。
「俺は魔王ベル……ッ、ゥンッ!!」
「いやぁあああああぁっ!! 魔王ーっ!」
その二文字を耳にした途端、私はインビジブルハンドを使って渾身の力で彼を殴り飛ばしていた。
「フェリ!?」
アルフォンス様が声を上げるなか、魔王は壁に叩きつけられて「ぐえっ」と蛙が潰れたような声を上げる。
「い、今がチャンスですよね!? 叩きのめすなら今ですよね!?」
私は混乱したまま、さらに魔王にパンチを浴びせようとする。
するとアルフォンス様が「待て待て!」と私を制した。
「せっかく名乗りかけたんだから、少しは話を聞いたほうがいいんじゃないか?」
「……そ、そうですか……?」
私たちが話しているあいだ、魔王はフラつきながら立ち上がり、頭から血を流しながらもう一度名乗った。
「……お、俺は、魔王ベルトラン……」
「……なんだかごめんなさい」
律儀にも自己紹介から始める魔王を見て、私は心から謝罪した。
「ったく凶暴な女だな……」
魔王は頭の傷を癒したあと、呆れた表情で砕けた魔石の欠片を見る。
「かなり頑丈な魔石で、簡単に壊されない術も掛かっていたはずだが……、殴って壊したのか」
「……は、はい」
私は生まれて初めて遭遇した魔王を前に、どういう反応をとるべきか分からずにいる。
……その前に殴っちゃったけど……。
そもそも、私たちの〝敵〟は魔石と思っていたので、初代皇帝と契約した魔王まで出てくるとは思わなかったのだ。
けれどアルフォンス様は危険を察知し、私を庇うと魔王に訴える。
「魔王ベルトランよ、魔石を壊した罰なら、皇帝である俺が背負う」
「待ってください! 私が壊しました! 思いっきり殴りました!」
彼だけに罪を着せられないと、挙手して庇った時、「おいおい」と魔王が溜め息をつく。
彼は空中に胡座をかいて浮かび、大きな溜め息をついた。
「先に伝えておきたいのは、俺はお前らを害するつもりはないという事だ。そもそも、俺は契約者ではない。魔石を作ったのは俺の親父なんだ」
なんと魔王に息子がいたと知り、私は愛想笑いを浮かべようとして失敗し、真顔になる。
「……魔王って世襲制なんですね」
ボソッと言うと、ベルトランは「まぁな」と頷く。
「それでだ。この魔石は親父がずっと昔に作った物だが、約束事で作られた物が破壊されると、持ち主に分かる仕組みになっている。それで面倒だが、契約の破棄を伝えるために現れた」
「……じゃあ、帝国と皇帝の血筋を呪って滅ぼすというのは……」
アルフォンス様の言葉に、魔王は怠そうに息を吐いて答えた。
「そんな事、時間と労力の無駄でやってられん。第一、そういう根暗なやり方は俺の性に合ってない。古臭いんだよ親父は。……だから魔石を壊したなら、親父と人間との契約は終わり。俺は今後いっさいお前らと関わらない」
「……あ、ありがとうございます」
呟くようにお礼を言うと、魔王は私を指さしてきた。
「お前、人が名乗る前に殴るのは良くないぞ。せっかく演出ありで魔王らしく現れようと思ったのに……」
「もっ、申し訳ございません!」
謝ると、魔王はさほど根に持たないタイプなのか、早くもその姿を薄れさせている。
「忙しいから連絡はこれぐらいで。あんまり軽々に魔王に力を借りようと思うなよ。じゃあ」
そう言って、魔王ベルトランはスゥッと消えていった。
彼が消えると共に魔石の欠片はすべて消え、禍々しい魔石を封じていた部屋はただの地下室になっていた。
私たちは顔を見合わせ、「ふ……っ」と表情を緩めると、「あはははははは!」と笑い出す。
「こんなに苦労したのに、世襲制になった魔王が跡を継いだだけで、こんなにあっさり!」
「んふふふふふふ! でも良かったじゃないですか!」
私たちは巨大な空間に笑い声を響かせ、しばらく解放感に浸る。
「……じゃあ、戻ろうか。あとは〝人〟の問題を解決するだけだ」
「はい!」
頷き合ったあと、私たちは倒れているレティを運んで通路を通り、室内へ戻った。
彼女がどうやって現れたのかは分からないけれど、魔石が召喚したのでは……という結論に落ち着いた。
魔石は私が自分を破壊しようとしている事に気づき、カウンターでの攻撃ができないものだから、レティを使って殺させようとした。
魔石に感情や記憶があるのかは分からないけれど、以前に三人で地下へ来たから、その時の会話で私たちが姉妹、強い絆がある関係だと悟り、レティを扱うのが一番効果的だと思ったのだろう。
詳しい話はレティから聞かないと分からないので、彼女の目覚めるのを待つ事にした。
私たちはアルフォンス様の私室でそのように結論づけていたけれど、不意に外が騒がしい事に気づく。
地下室での大冒険があって失念していたけれど、みんなの意識の中では、今はまだ皇帝陛下と聖女の結婚式の翌日夜だ。
祝宴はまだまだ続き、人々はご馳走やお酒を楽しみ、手を取り合って踊っている。
……と思っていたのだけれど、外から聞こえる声は楽しげなものというより、驚きや動揺に満ちたざわめきだ。
「なんでしょう?」
目を瞬かせて言うと、アルフォンス様が窓を開けた。
「あ……っ」
彼まで声を上げ、私は気になって窓辺に寄る。
すると――。
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