◻︎智之のケガ
次の日。
いつものように智之を学校へ送り出したら、今日こそ、ブログを更新しようと決めた。
モデルの仕事は、しばらく入ってなかったし。
仕事で着る服は、まとめてクリーニングへ出す。
キッチンは写真に入るところだけでも、ピカピカに磨いておく。
___そうだ、昨日は聡が来たのも、片付かなかった原因だ。
今日は一気に、やらなきゃいけないことを片付けると決めた。
邪魔が入らないように、スマホもマナーにして玄関の鍵も閉めた。
___お値段も手頃で、オシャレに見える料理といえばイタリアンだろう。
パエリアもいいけど、あれはスペイン料理かな?
パエリアとお豆のサラダ、ティラミス、よし、これでいこ。
急いで近所のスーパーに買い物に行かなければいけない。
___でもその前に、身だしなみは整えないとね、私は美魔女でいなければいけないんだから。
キッチリとメイクを済ませて、ラフな服装に見えてもオシャレにまとめて、肩より少し長い髪は緩く巻いてアップにする。
___うん、まぁ、こんなもんかな?
姿見で確認すると、車でスーパーへ行く。
海老やムール貝、生クリームや野菜を急いで買って帰る。
パエリアを仕込んで、ティラミスを作って冷やしてサラダを作る。
テーブルには、ランチョンマットとガラスの小さな花瓶を置いて、庭のすみに咲いていた四季咲きの薔薇を三本入れた。
ランチだから、グラスにはお水だけど、美味しく見えるようにキンキンに冷えた水を注ぐ。
あとは、料理を並べて、カトラリーや取り皿は2人分で並べる。
写真はデジカメで撮ってパソコンで編集する。
[夫と2人のランチ]です、なんてコメントを付けて、ブログにアップした。
ついでに、姿見に写った自分の写真もアップする。
これはスタイル良く見えるように、斜め立ちして顔は少しだけ隠したスタイルで。
アップされた自分のブログを確認した。
パソコンの画面で見ると少し粗い画像だけど、大抵の人はこれをスマホで見るから、これくらいは気にならないだろう。
あまり細かく再現されると、こじわやシミまで見えてしまうから、これくらいでいい。
時計を見たら、2時になろうとしていた。
パソコンを閉じて、アクセス数やコメントやいいねはスマホで確認する。
「え?何?」
マナーモードにしていたスマホには、学校からと、知らない番号から何回も着信があった。
とりあえずは、学校へ連絡する。
「もしもし?木崎智之の母ですが、連絡をいただいたようですが、何かありましたか?」
『木崎さん?智之君がお昼休みから姿が見えなくてですね、もしかしておうちに帰ったかと思ったんですが…』
「えっ!いえ、帰ってません、いなくなったってどういうことですか?」
『学校のほうでもよくわかってないんですが、とにかく智之君を職員で探しますのでお母さんもお願いします』
「わかりました、すぐ探します」
___智之がいなくなったってどういうこと?
突然のことに、手が震える。
その時。
ピンポーン🎶
ピンポーン🎶
ピンポーン🎶
どんどんどんどん!!
玄関を激しく叩く音がした。
「木崎さん!とも君のお母さん、いませんか!?」
「は、はい、ちょっと待って!」
私は慌てて、玄関のドアを開けた。
「よかった、いた!早く、車に乗って、とも君の保険証持って!」
「え?何が?」
「いいから早く!!」
玄関にいたのは、私よりひとまわりくらい年上の女性。
とも君の、と言われたことに反応して急いでバッグに財布と保険証を入れて、スマホを持ってきた。
「早く、行くよ!」
その女性に急かされて、止めてあった車に乗る。
後ろに乗ったら智之が乗っていた。
「え?智之、どうして?」
「…お母さん…」
泣いている。
「ど、どうしたの?え?なぜ?」
車を走らせながら、女性が答える。
「その子の手、左手、見てごらんよ、」
「え?あっ!」
智之の左手の小指のあたりが、赤くパンパンに腫れ上がっている。
そっと触ったら、熱を持っている。
「とりあえず、病院に行くから。あ、そうだ、学校を黙って抜け出してきたみたいだから、電話してくれる?うちの孫も一緒に出てきてるからさ、心配ないって先生に言って!」
「あ、はい、わかりました」
私は急いで学校に連絡した。
「はい、そうです、家に帰ってきました。はい…友達のえっと…」
友達の名前は?と言い淀んだとき、助手席から振り向いて
「小平翔太だよ」
と、声がした。
昨日、智之と保健室にいてくれた子だった。
「翔太君です、はい、ご心配をおかけしました。詳しくはまた、はい、失礼します」
学校に連絡をし、スマホをバッグにしまった。
「あ、あの…」
「あー、私はね、翔太の祖母で未希といいます。ひまわり食堂やってるって言えばわかるかな?」
「あ…はい」
「それでね、さっき翔太がとも君を連れて帰ってきたの、手が痛いっていうから病院に連れてってと。見たら、そんなに腫れ上がってるし。で慌てて携帯に電話したけど出てくれなかったから、家まで行った。よかったよ、家にいてくれて」
「そうだったんですか、ありがとうございます」
「私はいいから、とも君をみてやって」
「智之、どうしたの?これ」
「…ひっく、ひっく…」
「泣いてちゃわからないよ」
「おばちゃん、とも君、昨日やっぱり怪我してたんだよ、でも、お母さんに怒られると思って隠してたんだって」
智之の代わりに翔太が答える。
「そうだったの?どうして言ってくれなかったの?」
「……うわぁーん!…」
「詳しいことはあとで聞いてやって、ほら、病院に着いたから、さっさと連れて行って。私らはここで待ってるから」
着いたのは緊急外来がある病院だった。
「ありがとうございます、さ、行くわよ」
「おぶっていってあげなよ!」
「は、はい、ほら、おんぶするから」
私は智之を背負って病院へ入った。
レントゲンを撮ったら、小指の付け根が折れていた。
折れた所が少しズレていたようで、どうしてすぐに病院に来なかったかとすごく怒られた。