テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
演劇の翌日の昼休み。中等部棟の廊下は、いつもとは違う「そわそわ」とした空気に包まれていました。
普段は高等部棟にいるはずの先輩たちが、あちこちで「ねえ、あの1年生の教室どこ?」「例のヒロイン、もう着替えてるよね?」と話し声が漏れ聞こえてきます。
元貴と滉斗がいつものように食堂へ向かおうと教室を出た瞬間、そこには壁を作るようにして待っていた高等部の先輩たちの姿がありました。
「あ、いた! ねえ、昨日の演劇すごかったよ!」
「元貴君だよね? あのワンピース姿、マジで天使かと思ったんだけど……!」
「滉斗君のアドリブも最高だった! あの独占欲、中学生とは思えないよ!」
女子先輩たちが目を輝かせて元貴を囲み、男子先輩たちは滉斗の肩を叩いてニヤニヤと笑いかけます。聴覚過敏の元貴にとって、突然の多人数からの声は少し刺激が強すぎました。
「……ちょっと、道空けてもらえますか。元貴が困ってるんで」
滉斗が即座に元貴を自分の背後に隠しました。昨日、舞台の上で見せたあの鋭い「守護者」の眼差しそのままで、先輩たちをぴしゃりと牽制します。
「あ、ごめん! 驚かせちゃったよね。でも本当に感動しちゃって……これ、差し入れ! クラスのみんなで買ったんだ」
差し出されたのは、学園内の売店では売っていない特別な焼き菓子の詰め合わせ。先輩たちの純粋な称賛に、元貴は滉斗の背中からひょこっと顔を出して、はにかむように笑いました。
「……ありがとうございます。あの、すごく緊張してたから、そう言ってもらえると嬉しいです」
その「ふにゃっ」とした元貴の笑顔に、今度は先輩たちが「うわ、破壊力やばい……」「これは滉斗君が必死になるわけだわ」と悶絶してしまいました。
そこへ、人混みを割って現れたのは、高等部の制服を誇らしげに着こなした涼架でした。
「こらこら、僕の可愛い弟たちをあんまり怖がらせないでよ〜」
涼架は二人の間に割って入ると、まるで自分が褒められたかのように鼻を高くして笑いました。
「みんなが感動しちゃうのはわかるけど、元貴はお耳が疲れちゃうからね。お祝いなら僕が全部預かっておくから! ほらほら、二人は早くご飯食べに行っておいで」
涼架の慣れた仕切りで、先輩たちは「涼架の幼馴染だもんな、ずるいよ〜」と言いながらも、満足げに解散していきました。
ようやく三人きりになった中庭。
「……びっくりしたね、ひろと」
「ああ。……あんなに騒ぎになるとは思わなかった」
滉斗は少し疲れたように息を吐きましたが、元貴の耳が赤くなっていないか(疲れすぎていないか)をすぐにチェックしました。
「でもさ、滉斗。あのアドリブのおかげで、学園中に『元貴は俺のもの』って宣言したことになっちゃったね」
涼架がニヤニヤしながら揶揄うと、滉斗は顔を背けて、小声で呟きました。
「……事実ですから、別にいいです」
そんな強気な騎士と、彼を見上げて嬉しそうに笑う天使のような元貴。
三人の穏やかな日常が、また一つ賑やかになった昼下がりでした。
NEXTコメント×2以上
コメント
2件
コメント失礼します!! 最高すぎます………‼️続き楽しみにしてますっ🙌🏻🙌🏻