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珍しく……と言うより、今だからこそ、四方守神の四人は僕の元へと集まっていた。
「バベル……その話は本当なのか……?」
いつも僕を兄のように心配してくれる東真。
「本当だ。ルシフェルの召喚した転移者がこれから僕を始末しに来る。僕はそれに応えようと思う」
そう、世界の崩落を余儀なくされ始めている今世で、僕のケジメとして出来ることは唯一つだと思っていた。
「僕の魔力が消え去ることで、七神みんなの魔力暴発がなくなるなら、僕は黙って殺されるさ……」
七神が受けている神の加護は、僕の魔力と強く結びついており、誰か一人でも魔力の枯渇が見られると、次々にそれらは伝播し、この世界を崩壊させてしまう巨大なエネルギーを発してしまうのだ。
「そんなの自分勝手よ!! その後の唯一神はどうするの!? 一人で犠牲になっても、世界なんてどうせいつかは消えてなくなるわよ!!」
西華は、年の近い妹のようだった。
「僕が創った世界なんだ……」
「それなら……俺の記憶を消してくれ。四方守神だったこともバベルとの記憶も全部。じゃなきゃ、俺はこの先やっていけねぇ……」
東真は、徐に苦い顔を向けた。
僕と四方守神は特殊な関係下にある。
僕がこの世界の災いに備え七龍を生み出し、世界を創る七神を生み出した後、ミカエルにも内緒で生み出した更なる世界守護の特別な魔法が使える四人だ。
彼らの使命は、『僕の兄妹になること』だった。
「君は東真。水の時間魔法が使える」
東真は、生み出されて直ぐに、ニカっと笑った。
「バベルの兄になるのか! 楽しそうだな! この世界がとんでもなく楽しくなるといいな!」
「君は北斗。本当は八神として氷魔法を生み出したかったんだけど、やはり七神以降は生み出せなかった。特殊な氷魔法で、沢山の人を守って欲しい」
「私はバベルの姉。まず第一に、弟の願いを叶える」
氷から生み出した為か、彼女の性格は淡々としていて、忠実な性格になっていた。
僕の言ったことを第一とし、行動した。
「君は西華。風よりも早い雷移動が出来る」
最初、不思議そうに自分の両手を眺めていた西華は、ニシシっと笑みを浮かべた。
「私、この力で沢山の人を守りたい! 強くなる!」
西華は、歳の近い妹に当たる。
「君は花南。最年少の君にこそ、この、爆破魔法を与える。強い姿勢でこの世界を楽しんで欲しい」
花南はいつでも笑顔を絶やさなかった。
「私は誰とでもお友達になるのだ!」
そう言って、いつもはしゃいでいた。
それが、僕と四方守神の関係だった。
基本的に四方守神は、様々な場所で人助けに赴き、決して七神に並ぶ強さを見せつけない。
その為、その存在を知る者は僕しかいなかった。
「東真がそれでいいなら、記憶を消そう……」
僕たちは、世界の創まりから兄妹だった。
その関係を、全て断ち切るのだ。
「待って……私も記憶を持ったまま生き続けるなんて耐えられない……。バベル……私の記憶も消して……」
次に前に出たのは、西華だった。
「分かった。北斗と花南はどうする?」
すると、北斗はいつも通り表情を変えずに問う。
「バベルはどうして欲しい?」
「僕は……自分本位なことを言ってもいいなら、その力で引き続き人々を守ってやって欲しい」
「でも、バベルの望みは?」
「僕と言う存在が殺されることが……この世界にとって一番正しい選択だと思うんだ……」
「分かった」
花南は、何も答えずに僕たちを眺めていた。
きっと、記憶を消すことも理解できていないのだろう。
「四方守神の存在をルシフェルと転移者にバレる訳にはいかない。記憶を消した後、君たちを君たちの行きたい場所へと飛ばそう。答えてくれ」
「俺は自由の国がいいな。孤島で魔物も少ないし、争い事とかにもあまり遭遇したくないからな」
「私は……楽園の国から少し離れた村……。みんな静かに暮らしてて優しい人たちばかりだったから……」
「私は正義の国。バベルの言う通り、守り手になる」
「私は守護の国! エンと友達になったから、エンと過ごすことにする!」
花南はいつの間にか炎龍と友達になっていたのか……。
勝手と言うか、自由奔放と言うか……。
「それじゃあ、記憶を抹消する。光魔法 クラッシュ……」
今までありがとう……みんな……。
記憶を消し、意識を失った後、僕は全員を願いの場所へと移動させた。
そして、暫くの時が経ち、異郷者が来訪する。
「貴方が……唯一神バベル……」
「そうです……僕がバベルです……」
「何故……そんな顔を浮かべているんです……?」
「僕には……。僕がこの世界を守る為には……僕が死ぬしか方法がない……。でも、そんな犠牲を払ってもきっといずれは無くなってしまうんだろうと思うと……僕は唯一神なのに、とても無力に感じるんです……」
暫くの沈黙の後、異郷者は武器を収めた。
「貴方を殺すのはやめます。いえ……私には殺せない」
「ど……どうしてですか……?」
「貴方自身が、この世界を守るべきだと感じたからです」
僕は、この異郷者の言葉に、声を失った。
しかし、七神も守り、この世界を守る方法なんて……。
「あ……一つだけ。一つだけ……最後の希望がある……。僕の魔力さえ消えればいいのだから、僕が封印されればいいんだ……。そうすれば暴発は防げる……。いずれ厄災が起こる時にまた目覚めれば、その時に僕の手で守れる……」
「ならば、貴方の力を封じましょう……」
そして、僕は異郷者が旅をして得たのであろう力により全ての魔法、及び魔力を封印された。
そのまま、黙って異郷者は去って行った。
暫くして、嘘をついて出掛けさせていたミカエルが帰ってきた。
「どうして……バベル様の魔力が消えてるんですか……?」
「ハハ、この世界を守る為だよ。気にしないでくれ。僕はこのまま深い眠りに入る」
「それは困ります! いくらなんでも身勝手過ぎます!」
しかし、僕はミカエルの忠告を無視し、眠りについた。
封印が解けるその日まで、七神が安定するその日まで。
僕は、一時的にこの世界からいなくなる。
「そんなこと……そんな勝手なこと……させません」
薄らとボヤける視界の中で、ミカエルは泣いていた。
「貴方が責任を持ってこの世界を守るんです。それが出来ないのなら、貴方一人ででも生きてください。でないと、僕が貴方に力を与えた意義はどうなるんですか……!」
そして、ミカエルは倒れる僕に触れた。
「召喚魔法 ゲイン」
――
僕は、召喚魔法で自然の国近郊の樹木に移動させた後、記憶消去魔法のクラッシュを行った。
何十年と経ち、バベル様はようやく眠りから覚めた。
「お目覚めですか。大和ヤマト様」
この世界の記憶はない為、地球崩壊前の高校生だった頃の記憶しかない。
彼は、この世界の神でもなんでもない、高校生だ。
「神は身勝手で、横暴で、不器用なんです」
そうして、僕はヤマトに微笑んだ。