甘く蕩けるようなキスを何度も繰り返し、息が上がり始める。
沙羅はカットソーを大胆にたくし上げ、キャミソールに包まれた肢体が露になった。
もどかし気にキャミソールをはぐと、ダウンライトの光の下で、沙羅のなめらかな素肌は艶めかしく見える。
スッと細めた慶太の瞳は艶を帯び、大人の色気を放つ。
「沙羅、好きだよ」
慶太に耳元で囁かれ、それをくすぐったく感じた沙羅は身をよじりながら、照れたようにつぶやく。
「……ばか」
沙羅の細い首筋をなぞるように慶太の舌が這い、体の奥からゆっくりと官能が引き出されていく。
「あっ……」
胸元にチュッと強く吸い付かれ、沙羅の体がピクリと跳ねる。
上目づかいで慶太に|婀娜《あだ》っぽく見つめられ、ひどく恥ずかしい。
やがて、唇が離れると、所有痕が赤い花のように残されていた。
それを見た慶太が満足気に微笑む。
「ん、綺麗だ」
所有痕を残された沙羅は火照った顔を背ける。でも、心の中では嬉しく思っていた。
好きになればなるほど、胸が切なく痛む。
慶太を信じると決めたけれど、慶太のような素敵な人に自分が釣り合うのか自信が持てない。
けれど、情熱的に愛されていると、自分でもいいんだと思えてくる。
恋は綺麗な感情ばかりでなく、自分のダメな面や嫌な面とも向き合う事になる。誰かを好きになる事でこんなに不安定になるなんて、怖いとも思った。
もっと精神的に強くなって、慶太に与えてもらうばかりでなく、慶太を支えて行けるようになりたい。
沙羅は、慶太に手を伸ばす。
「慶太、好き」
広い背中に手をまわし、ギュッと抱きしめる。
合わさる素肌から、温かな体温を感じた。
波打つシーツに揺蕩いながら、縋るように布を掴んだ。
大きな手に胸を揉みしだかれ、激しく息が弾む。
口から漏れる声は甘く切なく響く。肌には薄っすらと汗が浮き上がり、艶やかな生々しさで慶太を誘う。
「沙羅……」
汗に濡れた肌の上を慶太の指先がゆっくりと伝い降りていく。
胸から鳩尾へ、お臍の脇を通り、足の付け根へと移動した。
たまらない感覚に沙羅の腰はヒクりと震える。
「っん……あっ」
薄い茂みのその奥にある花芽を捉えると、愛おし気に撫でられる。淡い快感が全身をかけ巡り、短い声が上がる。
腰が疼いてたまらず、はぁはぁと乱れた息を吐き出した。
「気持ちいい?」
「……ばか」
意地悪な問い掛けに憎まれ口で返す。
すると、お仕置きとばかりに胸の先端を甘噛みされる。
その刺激に沙羅の体は大げさなほど反応してしまう。
「ふぁっ……ぃやっ」
「ん、気持ちよさそうだけど……どこがイヤ?」
胸の先端を舌先で濡らしている慶太が顔を上げた。自然と上目づかいになり、色っぽい。
慶太が触れた部分のすべてが気持ちいい。けれど、そんな事を口にできるはずもなく沙羅は、首をイヤイヤと横に振る。
普段は優しいくせに、こういう時の慶太は意地悪な気がした。
「沙羅、気持ち良くなって……」
そう言って、ピンッと指先で花芽がはじかれる。
反射的に腰が跳ね、「あっ、」と鼻に掛かった声が漏れた。
そして、濡れそぼった場所へ節のある指が入り込み、与えられた快感で粟肌がたつ。
「けい…た……」
沙羅は、ねだるように慶太の名前を呼んだ。
何度も内側の敏感な部分を撫でられ、頭がぼうっと痺れてくる。
でも、もっと慶太が欲しくなり、じれったくなってしまう。
「やっ……。もっと……」
喘ぎ声は、嫌がっているのか、欲しがっているのか、甘くかすれて喜んでいるようにしか聞こえない。
「沙羅……いい?」
「ん……」
しどけなく開いた足の間に慶太が膝をつく、薄い皮膜に覆われたソレをあてがい腰を進めた。
「あっ……ぁぁ」
グッと内壁が擦られ、沙羅は肩で息をする。
確かな質量を受け入れながら、愛されている喜びを感じていた。
「んっ、ぁぁん」
動きに合わせて、喘ぎ声が上がる。
自分のものとは思いたくないほど、乱れた声が恥ずかしくて口元を手で押さえた。
すると、手首を掴まれ、見つめられる。甘い目元を見ただけで、ゾクリと官能が背筋を走り抜けた。
「沙羅……俺を見て」
言われて、薄っすらと開いた沙羅の瞳には、切れ長の目元を歪め、乱れた前髪をゆらしながら、動き続ける慶太が映る。
「けい……た……好き」
「ん、俺も……」
繋がったまま、喘ぎ声を吸い込むように唇を重ねられ、口の中も舌に舐られる。
慶太とのキスを沙羅は好きだと思った。
いつまでも、こうして居たいと思うほどに……。
慶太の熱い情熱が、沙羅をかき乱す。
好きな人と抱き合うのは、幸せ過ぎて、なぜだか怖いような気がした。
この先にある不安は考えないようにして、いまは慶太を感じて居たい。
コーヒーの良い香りに誘われて、沙羅は目を覚ました。
見慣れない天井に一瞬戸惑う沙羅だったが、どこに居るのか思い出し、モゾモゾと起き上がる。
その様子に気付いた慶太が声をかけてくる。
「おはよう、沙羅」
「おはよう」
窓際に置かれたソファーから慶太は立ち上がり、 まだ、整えられて居ない髪を片手で撫で付けながら、ベッドへ近づいて来る。
バスローブをルーズに羽織り、少し気だるそうな様は、男の色気を放っていた。
ベッドに腰を下ろし、寝起きの悪い沙羅を覗き込む。
「体は平気?」
「うん、大丈夫」
顔が近づき、チュッとキスを落とされ、朝からなんだか心がくすぐったい。
昨晩は、久しぶりの再会を果たし、お互いが思い合っていたのを確かめる事が出来た。
その上、勘違いからのヤキモチが、スパイスになり、情熱的夜を過ごしたのだ。
「良く寝ていたね。ルームサービスが届いているよ。朝食にしよう」
「ありがとう。コーヒーの匂いでお腹が空いちゃったの」
「起きるのがキツかったら、ベッドまで運んでこようか?」
とことん甘い慶太に沙羅はニコッと微笑む。
「大丈夫。ソファーまで行くぐらいなんでもないわ」
慶太が沙羅の肩へバスローブを掛けてくれた。
袖を通し、前で合わせると、自然と視線が下を向いた。すると、慶太に付けられた胸元のキスマークが視界に入る。
抱かれた時の官能を思い出し、カァッと頬が熱くなった。
窓からの景色は、贅沢なシティービュー、遠くには富士山も見える。
こんな景色を見ながら食べるモーニングは初めての沙羅はご満悦で、コーヒーカップに口を付けた。
「富士山が見えるなんてすごーい。ふふっ、富士山を見るとなんだか得した気分になるのは何でなんだろう⁉」
「うーん。日本人のDNAに刻まれているんじゃないかな」
「そうかも、意外な場所で富士山見ると嬉しいのよね」
「羽田から小松空港行きの飛行機で見る富士山も迫力があって、なかなかいいよ」
「飛行機から見る富士山かー。いいなぁ、チョット見てみたいかも」
「飛行機だと飛び立ったと思ったら、直ぐに富士山が見えてくる。うっかりしていると、お弁当を食べる暇もないぐらい、あっという間に小松空港に着くけどね」
「でも、富士山は綺麗に見えるんでしょう?」
「ん、今度チケット送るから娘さんと金沢においで」
「ありがとう。娘も金沢に行ってみたいって言っていたから、喜ぶと思うわ。受験が終わったら遊び行こうかしら?」
お互いが気持ちを確かめ恋人同士になった今、この前の時には出来なかった未来の約束を口にする。
「……しばらく遠距離恋愛だね。時間が取れたら会いに来るから」
「慶太も忙しいでしょう。無理しないで」
「大丈夫、飛行機も新幹線もあるし、東京まで出るのは、前よりずっと近くなってるから」
◇
慶太はチェックアウトためにフロントに向かいながら沙羅へ声を掛けた。
「少しここで待って居て」
「うん」
カウンターの前で何気なく振り返ると、沙羅は手持ち無沙汰な様子でロビーのソファーに腰を下ろし、こちらの様子を窺っている。自然と視線が絡み、ふわりと笑みが溢れる。
「直ぐに行くよ」と口パクをして、カウンターで支払いのカードを提示した。
まるで学生の頃のように浮かれていると、自覚はしている。けれど、やっと沙羅と気持ちを確かめ合い結ばれたのだ。この先、ふたりの時間を育んでいきたいと考えてしまうのは当然だと思う。
明細書にサインを終えたところで、背中に人の気配を感じて振り返った。
「慶ちゃんもこのホテルに泊まって居たの? じゃあ、噂のお相手も居るのかしら?」
好奇心むき出しで、キョロキョロし出したのは、腹違いの妹である一ノ瀬萌咲だ。やっかいな相手に見つかってしまったと、慶太は端正な顔を歪める。
「余計な詮索は、いいから大人しくしてくれ」
「えー、どんなご令嬢にも興味を示さなかった慶ちゃんが必死になっているって聞いては、見たいって思うのは、仕方ないでしょう? あっ、あの人ね。コッチ見ている。手振っちゃおう」
大胆にも萌咲は、沙羅へ手を振る。
一瞬キョンと驚いた顔をしたが、沙羅は状況を把握したのか、ぎこちない笑みを浮かべながら小さく手を振り返した。
そんな、沙羅の表情も可愛いと思ってしまう慶太は重篤な恋の病の罹患者だ。
「良い感じの人ね。でも、普通の家の人なんでしょう?」
「高校の時の同級生なんだ」
「……結婚は、考えているの?」
「今は無理だけど、いずれは、したいと思っているよ」
さらりと言う慶太に萌咲は眉尻を下げる。
「うーん。じゃあ、お父様に知られないように慎重にね」
「父はうるさく言わないと思うよ。現に萌咲の結婚にだって何も言わなかったじゃないか」
過去、母の聡子には、あれやこれやとうるさくされた記憶のある慶太だったが、父の健一からは得に付き合いに関して言われた事は無かった。
「わたしと慶ちゃんとでは立場が違うもの。慶ちゃんの見通しは甘いと思う。いくら愛し合っていても、わたしの母とは結婚しなかった人なのよ。それは、恋愛と結婚は別だと考えているからよね。TAKARAグループの総領に掛かる期待の大きさとか考えたら簡単じゃないはずよ」
萌咲の指摘に慶太は険しい表情で考え込む。
会社の利益を考えれば、ホテル事業に有益な会社のご令嬢を結婚相手にするのが良いのだろう。
けれど政略結婚をして、両親のように冷えた家庭で、この先何十年も過ごしたいとは思えない。
結婚というのは、利益だけを優先し、入籍して披露宴を挙げればOKというものではない。その後に何十年という生活があるのだ。
生活を継続させるには、お互いを思いやり、信頼関係を築き、苦楽を共にする覚悟が必要だ。
TAKARAグループの看板を目的とする相手では、楽は良くても苦になったら直ぐに逃げだすだろう。
だからこそ、自分が信じた相手と結婚したいと願うのは、自然な気持ちだ。
それに、35歳にもなった良い大人が、親の顔色を窺い結婚相手を選らぶのもナンセンスな話しだ。
万が一、親に反対されたとしたら、TAKARAグループから離れて自分で事業を起こしてもいい。
ただ、唯一の心配は、沙羅に誰かがプレッシャーを与えてしまう事だ。何かあれば、沙羅は黙って身を引く選択をするだろう。
過去に母親の高良聡子が何かを言った事によって、沙羅が進学先を変えたのだから。
慶太は萌咲の声で思考が戻される。
「ねえ、慶ちゃん。そんなに考え込まないで、何も反対されるとは限らないけど、慎重にねって話しなの。それより、彼女さんを紹介してくれるでしょう?」
そう、何も急ぐ必要はない。時間をかけて慎重に結婚までの道のりを模索していけばいい。
「ああ。そうだな、紹介しよう」
慶太はいつもの顔を取り戻し、沙羅へと足を進めた。
慶太が萌咲と一緒に近づいて来る。沙羅は慌てて立ち上がった。
すると、慶太はバツが悪そうに頬をポリポリと搔きながら、隣に居る萌咲をチラリと見る。
「いまそこで、偶然会ったんだ。紹介するよ、妹の萌咲だ」
「はじめまして、一ノ瀬萌咲です。慶ちゃんがお世話になっております」
そう言って、笑顔でぺこりと頭を下げた萌咲の服装は、ボリューム袖のニットにマキシ丈のスカート、肩からカーディガンを羽織っているラフな装い、なのに品がある。
20代の若々しさを沙羅は、眩しく思った。
「はじめまして、佐藤沙羅です。こちらこそ慶太さんには、お世話になってばかりです」
「慶ちゃんと同級生って聞きました。同郷だなんて嬉しいです。今度ゆっくりお茶でもしましょう」
「はい、ぜひ」
「じゃあ、連絡先交換してください」
と、萌咲はスマホを取りだした。
兄妹で押しの強さはそっくりだと、沙羅は笑いながら萌咲と連絡先を交換する。
それを困り顔で見ていた慶太は、わざとらしく左腕に巻かれたクロノグラフに視線を落とす。
「萌咲は、時間大丈夫なのか?」
「あっ、いけない。彼に車を出してもらっていたんだ。ごめんなさい、これからデートなんです。また、お会いしましょう」
「はい、今日はお会いできて楽しかったです」
「……何か困った事があったらいつでも連絡してくださいね」
沙羅は、萌咲の言葉を不思議に思いながら「はい」と返事をした。
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