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光街 葵
578
#染井華
さんま
19
すぷりんぐ
52
コメント
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ああ、読んだ読んだ!第8話、めっちゃ重くて熱かった…! 二宮の「自分のチェス盤から逃げた駒」っていう支配感、完全にエゴで突き動かされてるのがゾッとしたわ。で、犬飼の角からトリオンの雫が垂れて戦闘体が崩壊し始めてる描写、あれで「もう戻れない」って一発で分かったのが切なかった。 んで、何より辻が二宮の指示を拒否して「俺の意志で止める」って突っ込んでいくシーン、震えた。今まで従順だった辻の覚醒というか…成長がここで来るのか、って。 次、どうなるんだろう。犬飼の最期、見届けたいけど胸が痛いわ…さんまさん、続き楽しみにしてる🔥
神の国の王都近郊に広がる灰の平原は、絶えず上空から細かいトリオンの死灰が雪のように降り注ぐ、荒涼とした世界だった。視界を遮る灰色の霧の向こうから、突如として空間がパリンと音を立てて裂け、眩いボーダーの門が開く。
「……トリオン反応、前方300。来ます、二宮さん」
辻󠄀新之助は、降り積もる灰を踏み締めながら、自身の弧月を強く握りしめた。彼の隣には、いつも通りの完璧なスーツ姿のまま、周囲の大気を威圧するほどの圧倒的なトリオンを立ち上らせている隊長_二宮匡貴が佇んでいる。ボーダーの遠征部隊として神の国の土を踏み、敵の防衛線を突破してきた二宮隊。彼らの目的は、任務の遂行だけではない。二宮の胸の奥で燻り続ける傲慢なエゴ_”自分のチェス盤から逃げ出した身内の駒を、力ずくで連れ戻し、完璧に支配し直す”という執念の証明そのものだった。
「慌てるな、辻󠄀。俺の指示通りに動けば、すべては予定通りに終わる」
二宮の冷徹な声が響く。だが、その声が霧の奥へと消えるよりも早く、音もなく空間をねじ曲げるような、禍々しい紫色の誘導弾の群れが、四方八方から二人を襲撃した。
「――ッ!?」
辻󠄀は反射的に前線へと飛び出し、幾重もの旋空弧月で紫色の弾丸を叩き落とした。バリバリと異様な破砕音が響き、削られたトリオンの光が灰の霧を不気味に染める。ボーダーの戦術データには存在しない、空間の歪みに沿って直角に曲がる、予測不能の異常な弾道。
「あはは! さすが二宮隊、相変わらずお堅い防御だねぇ」
霧の向こうから、ゆっくりと歩み出てくる一人の影があった。漆黒のアフトクラトルの甲冑を纏い、マントを揺らすその姿。そして何より、前髪の隙間から不気味に突き出た、黒紫色の歪な一本の角。
「犬飼……先輩……」
辻󠄀の喉から、血を吐くような呟きが漏れた。目の前に立つ男は、間違いなく犬飼澄晴だった。けれど、その額から生えた角は、彼の人間としての命を確実に削り取っている重いノイズを放ち、周囲の空間を不規則に歪ませている。
「よくここまでおれを探しにきてくれたね、二宮さん。でもさ、おれの新しい玩具、すっごく強くなっちゃったから、二宮さんのセオリーじゃ、もう受け止めきれないよ?」
犬飼は黒い突撃銃を二宮の胸元へと向け、いつも通りの、何一つ本心を映さない完璧な笑みを浮かべた。
「犬飼。悪びれもせず、その異形を頭に植え付けたか」
二宮の一歩が、灰の地面を強く踏み砕く。彼の周囲の空間に、万を超える黄金の通常弾が形成され、圧倒的な数の暴力で犬飼の退路を完全に塞いだ。
「お前がどこへ逃げようと、俺のチェス盤の上からは逃れられないと言ったはずだ。そのトリガーも、その角も、すべて叩き潰して連れ戻してやる。お前は俺の完璧な駒として、もう一度機能するんだ」
二宮の言葉は、どこまでも独善的だった。犬飼がなぜ裏切ったのか、なぜ死に向かっているのかなど、彼のプライドの前にはどうでもよかった。ただ、自分の盤面を汚したバグを修正し、自分の正しさを証明すること_その肥大化したエゴだけが、二宮を突き動かしていた。
「本当に二宮さんは変わらないね。そういう傲慢なところが、すっごく退屈だったんだよね」
犬飼が引き金を引いた瞬間、彼の角がドクンと激しく脈打ち、紫色のハウンドが黄金の光の網を内側から食い破るように暴れ狂った。激しい爆音とトリオンの火花が吹き荒れ、視界が完全に遮られる。二宮の頭脳は、即座に犬飼を無傷で無力化するための次の戦術を計算し、辻へ冷酷な指示を飛ばした。
「辻󠄀、回り込め。あいつの両足を削れ。緊急脱出の門が開かないこの世界でも、戦闘体を破壊すれば拘束は可能だ」
「……二宮さん」
指示を受けた辻󠄀は、しかし、すぐには動かなかった。彼の目は、爆煙の向こうで銃を構え直す犬飼の異変を、誰よりも正確に見抜いていた。犬飼の額の角から、黄金のトリオンの液体がポタポタと地面へ滴り落ちている。彼の呼吸は浅く、激しく乱れ、戦闘体の指先がパチパチと微細に崩壊を始めていた。
あの日、ボーダーの解析データで視た、角の過負荷によって人間としての命が尽きかけている戦士の末路。
犬飼先輩は……もう、連れ戻せるような状態じゃない。二宮さんの言う通りに拘束しようとしたって、その前に、先輩の肉体が耐えきれずに死んでしまう……!
辻󠄀の胸の奥で、強烈な葛藤が渦巻く。二宮の指示は、いつだって正しい。その指示に従うことこそが、二宮隊の美徳だった。だが、二宮は自分のエゴに目が眩み、犬飼の確実な死という最悪のバグを計算から除外している。犬飼を二宮の歪んだエゴの檻に戻すことが、本当に正しいのか。それとも、この異界の地で、かつての先輩の命をただ見取るのが正解なのか。
「辻󠄀! 何をしている、早く動け!」
二宮の鋭い叱責が飛ぶ。辻󠄀はゆっくりと深く息を吸い込み、前髪を揺らす灰の風の中で、自身の弧月を構え直した。彼の瞳からは、かつての気弱さや迷いは完全に消え失せていた。
「……すみません、二宮さん」
辻󠄀は、初めて隊長である二宮の指示を真っ向から拒絶し、静かに、しかし断固とした声で告げた。
「俺は、二宮さんの完璧なチェス盤の駒にはなりません。……俺は俺の意志で、犬飼先輩を止めます」
「何だと……?」
二宮が驚愕に目をみはる。辻󠄀は二宮の静止を振り切り、単身、犬飼の放つ紫色の銃撃の嵐の中へと突撃していった。彼が選んだのは、二宮の生かして連れ戻すというエゴの作戦ではない。犬飼の命の限界を理解した上で、彼が人間として最期を迎える前に、その狂ったゲームを自分の手で終わらせるという、悲壮な覚悟だった。
「辻󠄀ちゃんが二宮さんに逆らうなんて、最高の予想外じゃん」
犬飼が歓喜の声を上げ、辻󠄀に向かって全火力を解き放つ。激突する二人のトリオン。二宮隊の崩壊を告げる最悪の身内戦の幕が、灰色の平原で切って落とされた。