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「……父上、もうやめましょう。俺もあなたに反発する一方で、仲直りしたいと思っていました。分かりきっている事ですが、諸悪の根源は魔石であり、魔王に頼った初代皇帝です。魔石さえなければ、我が家は仲睦まじい家族としてやってこられたのです。……でも過去は変えられませんし、母上も戻ってきません」
息子の言葉を聞き、カール様は静かに頷いた。
「けれど魔石はフェリが破壊してくれました。俺の体に宿っていた負の感情も消え、これからどうやって帝国を導いていくか、彼女と共に愛情に満ちた家庭を作っていけるかを考え、未来に期待を持てています」
アルフォンス様は私を見て微笑み、そっと手を握ってくる。
「フェリがレティシア王女だと偽って嫁いだ件について、俺も責任を負っています。皆を欺いた事は、きちんと詫びたいと思っています。だが俺はフェリでなければ愛せません。……式を挙げたあとに言う事ではありませんが、どうかフェリとの結婚を許してください。明日、皆に魔石が破壊された事を公表しますが、その功労者がフェリであると伝え、帝国の恩人である彼女が皇妃となるに相応しいと訴えたいと思っています。その時、父上には味方になっていただきたい。あなたの口添えさえあれば、上皇派も黙るでしょう」
幾らアルフォンス様の協力があったとはいえ、私は世界中を騙した事になる。
みんなが皇帝と聖女の結婚に浮かれている二日後に、「結婚したのは妹でした」と公表すると思うと胃が痛い。
緊張してカール様の返事を待っていると、彼はおかしそうに笑いだした。
「勿論、協力する。今まで父親としてろくな事をできなかった、せめてもの詫びだ。息子には好きな相手と添い遂げてほしい。……しかし、フェリシテ姫は人の陰に隠れる臆病な王女という印象があったが、まさかレティシア姫と入れ替わるとはな。見事に騙された」
「も、申し訳ございません」
小さくなって謝ると、カール様は首を左右に振る。
「元凶は〝私〟が帝国のさらなる反映を願って、聖女を求めたところにある。私が責任をとり、二分された貴族たちに現皇帝への忠誠を誓わせる。それが今の私にできる事だ」
もとの為人を取り戻したカール様と話していると安心する。
もう「怒らせてしまうかもしれない」と怯える必要はないし、アルフォンス様のお父上であり、上皇陛下と和解できた事が自信に繋がってくる。
カール様は私たちを見て微笑んだあと、悲しげに視線を落とした。
「〝私〟はずっとクラウディアを喪った痛みを抱えていた。それも、ただ病死した妻を悼む気持ちだけではない」
「……と言いますと?」
アルフォンス様が尋ねると、カール様は申し訳なさそうな顔で続ける。
「指輪を継いでから〝私〟は美しい妻に男が近寄らないか、常に猜疑心と嫉妬に苛まれていた。彼女を警護する騎士でも、臣下であっても、クラウディアと直接言葉を交わす男たちに、私は酷い嫉妬心を抱いた」
カール様が愛妻家だった事は知っていたけれど、魔石の影響があったとはいえ、そこまでとは思わなかった。
「クラウディアが私を裏切った事は一度もない。……だが私は常に嫉妬で頭の中をどす黒く染め、妻があられもない姿で他の男に抱かれる妄想をして己を傷つけていた。そんな地獄の中で、私は『いっそ妻が死んでしまえば、彼女は永遠に私だけのものになるのでは……』と思うようになった」
アルフォンス様はハッと息を呑み、唇を噛む。
「……確かに妻はアルフォンスを生んだあとに体調を崩したが、ディルクとユリアーナを生むまで頑張ってくれた。妻はそのあと風邪をこじらせて亡くなったが、私は自分の願望が彼女を殺したように思えてならなかった」
私はその話を聞いて「そんな事ありません」と言う事はできなかった。
帝国西部にある瘴気の森の前例もあったし、呪いの矛先を何かに向ければ、人であっても自然であっても魔石の影響を受けてしまう。
だから、アルフォンス様も何も言えずにいた。
痛いほどの沈黙のあと、彼は溜め息をついて顔を上げる。
「……父上、考えるのはやめましょう。母上が亡くなった事実は変わりませんし、その死因を自分のせいにする必要もありません。そして母上は、父上が責任を感じて苦しむ事など望んでいません」
息子に言われ、父は痛みの籠もった笑みを浮かべて頷いた。
「……そうだな。妻はそういう女だった」
そのあと、カール様はとても穏やかな表情で私たちに笑いかける。
「先帝として迷惑をかけた分、今後何があってもお前たち二人の味方となろう。フェリシテ姫、帝国に光を取り戻してくれた事を感謝する。あなたの望みと幸せのためなら、私はなんでもしよう。……結婚、おめでとう」
丁寧なお礼を言われ、私は立ちあがるとカーテシーした。
「もったいないお言葉です」
「……では、一度部屋に戻ります。魔石に操られていたレティシアが、目を覚ますかもしれないので」
アルフォンス様が立ちあがり、私たちはカール様に挨拶をして部屋を辞する事にした。
去り際、彼は私に向けて言った。
「今宵は星見酒を楽しむ事にする。楽しかった頃を想い、妻に語りかけてみる」
「はい」
私はニコッと微笑み、彼にお辞儀をした。
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