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客室に戻ると、ジョゼが歩み寄ってきた。
「レティシア様がお目覚めです」
「そう。……じゃあ、腹を割って話してみるわ」
「はい」
私とジョゼは視線を交わして頷き合う。
アルフォンス様と共に寝室に向かうと、レティはぼんやりとソファに腰かけていた。
「レティ、気分はどう?」
尋ねると、彼女は「フェリ」と私を見て微笑む。
その表情を見ただけで、レティの中から呪いが抜けているのが分かった。
私たちはレティの向かいに座り、彼女の言葉を待っていた。
「……長い間、悪夢の中にいた感じがするわ」
彼女は溜め息をつき、スッキリとした笑みを浮かべる。
「ずっと私は不機嫌で、高慢な考えを持っていたように思える。……以前にフェリに言った通り、確かに心の底ではあなたを羨んでいた。自由で羨ましいとか、アルフォンス様と仲良くしていて、幸せそうでいいな……って」
彼の名前が出て少し不安な表情になったからか、レティは「心配しないで」と首を横に振る。
「今はまったくアルフォンス様に未練がないの。……というか、もともと恋愛感情を抱いていなかったわ」
「え?」
目を丸くすると、レティは恥ずかしそうに笑い、膝の上で指を絡ませる。
「私はどんなつらい目に遭っても、弱音を吐かず前に進むフェリが眩しかった。あなたのような強さがほしいと思ったし、側で支えてくれる白馬の王子様みたいな男性にも憧れた。……けど、それはあなたやアルフォンス様に嫉妬しているのではなく、私にも無条件で味方になってくれる人がほしいと願っただけなの。……アルフォンス様は確かに優しくて素敵な方だけれど、昔からフェリしか眼中になかったしね」
そう言って、レティはアルフォンス様に笑いかける。
「……逆に私は、半身であるフェリをとられてしまいそうで、アルフォンス様を恨みかけた事もあったわ。だから陛下と仲良くしたらフェリが私に嫉妬してくれるかも……と思ってしまった。……結局はフェリに意識してほしかったのよ」
照れくさそうに白状したレティの言葉を聞き、私は双子の姉の愛情を知る。
「レティ……」
「ごめんね。意地悪したかった訳じゃないの。気がつけばあなたは公務に参加しなくなって、一緒に過ごせる時間が減ってしまった。私、本当はフェリと一緒に城下町で遊んでみたかったわ。私が公務をこなしている間、あなたはどんどん先に進んで自立した女性になっていった。……置いていかれそうで怖かったの」
レティは溜め息をつき、肩を落とす。
「私はフェリのいない寂しさや、みんなに〝聖女〟を求められて〝レティシア〟として見てもらえない悲しさで、どこかおかしくなってしまった。そのうち私はフェリを憎たらしく思うようになり、アルフォンス様にも世界にも、すべてに対して怒りを抱くようになっていった」
彼女はアルフォンス様の手元を見て、もうそこに指輪がない事を確認する。
「地下室の魔石の前に行った時、恐ろしくて堪らなかった。でも心にあった醜い感情が肯定された心地になって、心地よさも覚えていたの。怖くて二度と魔石に関わりたくないのに、魔石の事ばかり考えてしまう自分がいたわ。……今思うと取り憑かれていたのね」
そこまで言い、レティは溜め息をついて白状した。
「私がフェリに替え玉作戦を提案したのは、魔石のある帝国に嫁ぐのが怖くなったからなの。魔石に歪んだ考えを植え付けられた私は、フェリの好きな人と結婚すれば幸せになれると思い込んでいた。……でもあの圧倒的な力を前にして、『冗談じゃないわ』って思ったの。私は聖女だから魔の力の影響を人一倍受けやすい。……あの時の私はすでに魔石の影響下にあったのに、『こんな所に嫁いで呪われたら困る』と思ってしまった。……そして命惜しさに、皇妃の役目をフェリに押しつけたのよ。……『フェリはアルフォンス様を好いているし、仮に呪われても本望じゃない?』って……」
彼女はそう言って、涙を流した。
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レティの告白を聞き、私は何とも言えない表情で唇を引き結ぶ。
けれど今までおかしいと思っていた事に答えを得られて、どこか安心した。
「いいのよ、レティ。全部魔石のせいだわ。あれは私が破壊したからもう心配ない」
そう言うと、レティは晴れやかに笑った。
「やっぱりフェリは凄いわね。愛する人のため、自分の幸せのために運命を切り開いた。……私はあなた達の結婚を全力で祝福するわ」
「ありがとう。……そういえばレティは、私が魔石を壊そうとした時にいきなり地下室に現れたけど、その時の事を覚えている?」
尋ねると、彼女は微妙な顔で首を傾げる。
「あまり覚えていないのよね。私はフェリとして貴賓館の客室にいたのに、気がついたら中央宮殿の客間にいた。目覚めた時は自分の体じゃないみたいで、変な感覚だったのは覚えている」
「やっぱり全部魔石のせいね」
これで謎はすべて解決したと思ったけれど、アルフォンス様の表情は浮かない。