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翌日。昨日のことが、頭から離れない。
「特別だよ」
あの言葉。
特別。
それって、何人目でも言えるやつだろ。
自分でそう思って、勝手に傷つく。
昼休み。
購買の帰り。
廊下の角を曲がった瞬間、目に入る。
あの子。
俺を好きだって言ってた、あの子。
その前に立ってるのは――
及川 。
心臓が、嫌な音を立てる。
「……及川?」
思わず声が出る。
二人が振り向く。
例の子は、少し強い目で岩泉を見る。
「ちょうどよかった」
空気が、張る。
「岩泉くん」
まっすぐ。
逃げない目。
「私、まだ諦めてないから」
廊下のざわめきが遠くなる。
「え」
言葉が詰まる。
「だって、付き合ってないよね?」
視線が、及川に向く。
一瞬。
及川は、何も言わない。
何も。
胸が、冷える。
「……お前」
思わず、及川を見る。
言えよ。
否定しろ。
でも、及川は笑わない。
軽くもならない。
ただ、静かに見てる。
「岩泉くんが選ぶなら、私まだ頑張れる」
その言葉が刺さる。
選ぶ?
俺が?
視線が、及川に戻る。
何か言ってほしい。
引き止めてほしい。
“俺のだ”って、言ってほしい。
でも。
「岩ちゃん」
やっと口を開く。
声は、低い。
「岩ちゃんが決めて」
世界が止まる。
「は?」
震える。
「俺は追うって言った。でも」
目が、揺れてる。
「選ぶのは岩ちゃん」
胸が、軋む。
またそれか。
また余裕ぶるのか。
「……逃げんな」
小さく言う。
「逃げてないよ」
でも、その目は怖がってる。
壊れたくない目。
自分から奪いにいけない目。
例の子が一歩近づく。
「岩泉くん」
優しい声。
まっすぐで、迷いがない。
「私はちゃんと好きって言える」
胸が、痛い。
比べられてる。
言えない男と、
言える子。
廊下の空気が重い。
及川は、何も掴まない。
腕も、服も。
ただ、見てる。
「……なんでだよ、」
声が震える。
「好きって言ったのは誰だよ」
涙は出ない。
でも、限界だ。
息が浅い。
「お前は俺のことも遊びだったのかよ」
本音が漏れる。
「そういうとこ嫌いだ」
及川の瞳が大きく揺れる。
初めて。
余裕が、完全に崩れる。
例の子が息を呑む。
沈黙。
次の一手で、全部決まる。