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僕はまだ恐怖の余韻で足が震えていて、はやちゃんの背中からどうしても離れられないでいる。
そんな僕の限界のような怯えに気づいたのか、はやちゃんはそっと振り返り、僕の顔を心配そうに覗き込んできた。
『……あー、舜太くん。ちょっと先に、リビング行って待っててもらっていい?』
「あ、はい……おじゃまします……」
しゅんは消え入りそうな声で小さく会釈をして、僕たちの横を通り過ぎていった。
僕の前を歩いていく瞬間、しゅんは僕の方をちらっと見たけれど、僕ははやちゃんの大きな影にすっぽりと隠れていたから、お互いの表情までは見えなかったと思う。
しゅんが廊下の奥のリビングへと進んでいく足音を聞きながら、はやちゃんが再び僕に向き直った。
『おい、柔太朗。大丈夫か?』
はやちゃんは僕の青ざめた頬を大きな両手で優しく包み込み、引き裂かれそうなほど心配そうな目で僕を見つめてくる。
正直に言って、全然大丈夫ではない。
さっきのストーカーのフラッシュバックの恐怖と、はやちゃんへの罪悪感、しゅんが不意打ちでやってきたパニックで、頭の中がぐしゃぐしゃに混乱していた。
『顔色、めちゃくちゃ悪いわ……。舜太くんには本当に申し訳ないけど、今日は理由を話して、もう帰ってもらうか?』
はやちゃんのその提案に、一瞬だけ本当にそうしてしまいたいと甘えがよぎった。
だけどいつもはあんなに周りに気を遣うしゅんが、こんな夜の遅い時間に前触れもなく急にやってきたのだ。
絶対に何か理由があるはずだ。
何より今日の別れ際、マンションの前で僕が「付き合ってない」なんて冷たい現実を突きつけて、変に気まずい感じで別れてしまったことも、ずっと胸の奥で重く引っかかっていた。
彼の話は、ちゃんと聞きたい。
そうおもった。
「いや……大丈夫、だよ……」
でもこんなガタガタに震えた不格好な状態のままで、しゅんの前にいくのだけは絶対に嫌だった。
そんなことをしたら、しゅんはきっと自分のせいで僕が怯えているのだと、またあの優しい笑顔を曇らせてしまう。
……いつものようにらはやちゃんに抱きしめてもらえれば。
地獄から何度も僕を引き上げてくれた、あの絶対的なヒーローの温もりに包まれれば、いつものようにこの震えもすぐに落ち着くかもしれない。
そう思った僕は、はやちゃんの真正面からぴとっと身体を密着させ、すがるようにして両手を回した。
その瞬間、はやちゃんの身体がビクッと驚いたように跳ねた。
『ちょっ……! 柔太朗……!? ……だめだろ、舜太に見られるって……!』
はやちゃんは焦ったように声を潜め、僕の耳元に顔を近づけて小さく警告を囁く。
けれど、あいにく僕は昔から耳元への刺激が信じられないくらいに弱い。
「……、……んっ……//」
予期せぬ過敏な場所への囁きに、僕の喉の奥から熱くて甘い吐息が漏れ出てしまった。
『っ、ちょ、まじで、お前……! 可愛い声出すなって! やめろまじで……っ////』
はやちゃんは大慌てで僕の口を大きな手のひらでむぎゅっと塞ぎ、一気に耳まで真っ赤に染め上げた。
「ご、ごめん……、……はやちゃんが、耳元で急に言うから……っ//」
『いや、それは……状況的に仕方ねえだろ。ったく、心臓に悪いわ……』
はやちゃんはひどく困ったように眉をひそめて、呆れたようにため息を吐き出す。
僕は塞がれた彼の手の上から、上目遣いで彼を見つめた。
「ねぇ……いいから、おねがい。いつもみたいに、ちゃんと抱きしめて……」
『……、あぁー、もう、まじで……』
勇斗はぶつぶつと小さな独言で文句を言いながらも、僕の乱れた頭をぽんぽんと優しく撫でてから、その大きな腕で僕の身体をすっぽりと力強く抱きしめてくれた。
トクトク、トクトク……。
密着した胸の奥から、はやちゃんの確かな心臓の音が聞こえてくる。
彼の鼓動はいつでも少し早めだけれど、今日はなんだか…、いつもよりもさらに少しだけ、激しく脈打っているような気がした。
さっきの告白のせい、なのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えているうちに、彼の圧倒的なヒーローの温もりのおかげで、僕の張り詰めていた身体の震えは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「はやちゃん、ありがとう。もう、大丈夫」
僕はそっと彼の腕から離れて、安心させるようにいつもの笑顔を彼に見せてみた。
『…、うん、大丈夫そうだな。顔色もマシになったわ。……行けるか?』
「うん、ありがと。……でもしゅん、急にどうしたんだろ……」
『お前、なんか心当たりねぇの?』
「うーん……。さっき別れる時、少しだけ気まずくなっちゃったから、それがもやもやして…とか? でも、わざわざこんな時間に来るほどのことでもないっていうか……」
本当に、心当たりといえばそれくらいしか思いつかなかった。
確かに僕のほうも気まずいまま別れて、部屋でひとり大へこみしていたのは事実だけれど。
だからといって、わざわざこんな時間に来るほどの大事な用ではないように思ったのだ。
はやちゃんは、なおも不思議そうに考え込む僕の手を優しく引き、リビングの扉を静かに押し開けた。
to be continued…
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