テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第六十六話 新しいスタート
「同じ未来を歩かなくても、応援したいと思える人がいる。それだけで、前を向ける。」
四月。
高校を卒業して、数週間。
桜の季節が終わりに近づく頃、
湊の生活も少しずつ変わり始めていた。
毎朝起きて、制服に着替えることはもうない。
教室へ向かうこともない。
放課後になれば
写真部へ向かっていた日々も、もう終わった。
自由になったはずなのに。
湊は時々、不思議な気持ちになった。
「……卒業したんだよな。」
机の上には、カメラ。
その隣には、高校最後の日に撮った写真。
そして、紬と撮った一枚。
写真を眺めながら、
湊は新しいカメラバッグを手に取った。
今日から、自分の新しい生活が始まる。
新しい環境には、まだ慣れない。
知らない人。
知らない場所。
今までとは違う毎日。
けれど、カメラを持って歩き始めると、
少しだけ安心した。
駅へ向かう途中。
風に揺れる街路樹。
急ぎ足で歩く人。
新しい制服を着た学生。
それぞれが、それぞれの春を過ごしている。
湊はカメラを構えた。
——カシャッ。
一枚。
また一枚。
高校時代とは違う景色。
それでも、写真を撮ることだけは変わらない。
一方、紬も新しい生活を始めていた。
新しい場所。
新しい人たち。
そして、これから学んでいくこと。
高校を卒業したことで、
今まで以上に未来を意識するようになった。
海外で過ごした一年。
そこで出会った人たち。
文化の違い。
言葉の壁。
それでも、通じ合えた瞬間。
紬はそれらを思い出しながら、
自分が進みたい道について考えていた。
「もっといろんな人と関わりたい。」
それが、今の紬が見つけた答えだった。
夜。
湊のスマホが鳴った。
紬からのメッセージだった。
『新しい生活、どう?』
湊は少し考えてから返信する。
『まだ慣れない。でも、楽しいよ』
すぐに返事が来た。
『私も!』
そして、もう一通。
『高校卒業したって、まだ実感ないね』
湊は笑った。
『わかる』
少しして、紬から写真が送られてきた。
新しい場所から見える夕焼け。
空の色は、少しだけオレンジ色に染まっていた。
その写真を見て、湊も窓の外を見る。
こちらの空も、同じように夕焼けだった。
『そっちも夕焼けなんだ』
『うん。なんか嬉しいね』
離れていても、同じ空を見ている。
高校生だった頃と同じように。
でも、二人を取り巻く環境は確実に変わっていた。
「じゃあ、また明日。」
電話を切る。
湊はカメラを手に取った。
新しい生活。
新しい場所。
新しい出会い。
これから先、
どんな景色に出会うのかは分からない。
夢だって、まだはっきりした形にはなっていない。
それでも。
写真を撮り続けたい。
誰かの大切な時間を残せる人になりたい。
その気持ちだけは、変わっていなかった。
窓を開ける。
春の夜風が部屋に入ってくる。
湊はカメラを空へ向けた。
——カシャッ。
新しい一枚。
それは、これから始まる未来の最初の一枚だった。
📷 Photo.066「それぞれの春」
撮影日:4月18日
同じ場所じゃなくても、
同じ夢じゃなくても。
「頑張ろう」と思える人がいる。
それだけで、
新しい一歩は少しだけ軽くなる。
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47
コメント
1件
クラリスさんの「新しいスタート」、読み終えました……。 卒業して、それぞれの道に進んでも、同じ夕焼けを見て「嬉しいね」って言い合える関係、すごく尊いなって思いました。離れてても、写真っていう“つながり”があるから、湊くんも紬ちゃんもちゃんと前に進めてるんですね。最後の「新しい一枚」、その一歩が未来の最初のカットになるんだなって、じんわりしました。新生活、応援したくなります。また次の話も楽しみにしてますね🌙