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「――はい、カット! 配信終了! お疲れ様でしたー!」スタッフの声と同時に、スタジオの照明がふっと暗くなる。さっきまで画面の向こうの100万人に「世界一お似合いのカップル」として笑顔を振りまいていた私たちは、一瞬でただのビジネスパートナーに戻る。「……はぁ。疲れた」つい数秒前まで、カメラの前で私の頭を優しく撫で、「世界で一番可愛いよ」と甘い声を囁いていた超人気インフルエンサー・蓮(れん)。彼はカメラが切れた瞬間、ため息をついてスマホに目を落とした。私の方を見もしない。これが、私たちの日常。お金が必要な貧乏女子大生の私と、登録者数を伸ばしたい彼の、利害関係だけで結ばれた『ビジネスカップル配信』だ。今日の企画は『チャンネル登録100万人記念! 初めてのキス配信』。コメント欄は【尊すぎる!】【ガチで付き合って!】【結婚しろ!】の弾幕で埋め尽くされ、同乗したトレンドワードでも1位を獲得した。大成功だ。「なぁ、柚葉(ゆずは)」蓮が冷淡な声で私を呼ぶ。「今日のキス、ちょっと硬かった。もっと本気っぽく照れろよ。ビジネスなんだから、プロ失格だぞ」その言葉に、胸がズキリと痛む。プロ失格。わかっている。でも、好きなのだ。カメラが回っている間だけ見せてくれる、彼のあの優しい嘘の笑顔が。本気で恋をしてしまっているなんて、100万人にも、そして彼本人にも、絶対に知られてはいけない。「ごめん、次はうまくやるから」私は荷物をまとめて、逃げるようにスタジオを後にした。夜、誰もいない自分のアパート。私は今日の配信のアーカイブを観ていた。画面の中の私たちは、誰が見ても愛し合っている。切なくなってスマホを閉じようとした、その時。コト、と玄関のドアノブが鳴った。続いて、電子ロックが解除される電子音。この部屋の合鍵を持っているのは、マネージャーと、もう一人しかいない。「……蓮?」ガチャリとドアが開き、立っていたのはフードを深く被った蓮だった。いつもなら配信が終われば挨拶もそこそこに帰る彼が、なぜここに?「どうしたの? 忘れ物でも――」言いかける私を無視して、蓮は部屋に上がり込み、ものすごい勢いで私を壁に押し付けた。背中に冷たい壁が当たる。見上げる彼の瞳は、カメラの前で見せる優しい嘘の光でも、スタジオで見せる冷たい光でもなかった。獰猛で、息が詰まるほどの熱を帯びた、本気の独占欲。「蓮……っ、ここにはカメラないよ? ビジネスは終わり――」「うるさい」蓮の手が私の顎を強引に持ち上げる。「配信のキス、他の男の視聴者が『柚葉の唇、柔らかそう』ってコメントしてた。……死ぬほどイライラした」「え……?」「カメラの前だけじゃ足りない。……俺以外の男に、その顔見せんな」そう囁いた瞬間、蓮の唇が、今日の配信のときよりも何倍も深く、激しく、私の唇を塞いだ。
コメント
1件
わあっ、1話からもう胸がぎゅってなった…! 配信の裏側でこんなに切ないすれ違いがあるなんて、めっちゃ好きです…。「ビジネス」って割り切る柚葉ちゃんの気持ちと、蓮くんの本気の独占欲がぶつかる展開、すごくドキドキしました。 特に、配信後に合鍵で押しかけて「他の男に見せるな」ってキスするシーン、重くて苦しくて、でも最高でした…!続きが気になる…!🥀