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リクエストです…!🙇 黄が何らかの理由で謝り続けるってをやって欲しいです…!
桃×青
深夜三時。世界が寝静まったはずの時間に、いふの部屋だけは狂ったような色彩に満ちていた。床に散らばった銀色のシート。数え切れないほどの錠剤が、彼の胃の中で溶けて、神経を麻痺させていく。
🤪「……あ、は……。きもち、いい……。全部、消えちゃうわ……」
瞳孔は開き、焦点はどこにも合っていない。耳の奥では高音の耳鳴りが鳴り響き、重力はどこか遠くへ消え去った。ライブのプレッシャーも、歌詞が書けない焦燥感も、SNSの心無い言葉も、すべてがパステルカラーの霧の中に溶けていく。
この瞬間のために、彼は自分を削り続けていた。
けれど、逃避の代償はすぐにやってくる。
🤪「……っ、う、……ごほっ……げほっ!」
胃の底からせり上がる、焼けるような拒絶。脳は「もっとこの多幸感に浸っていたい」と叫んでいるのに、内臓は毒物を排出しようと激しく痙攣し始めた。
いふは這いつくばるようにして、ベッドの下に置いていたゴミ箱を抱え込んだ。
🤪「……はぁ、はぁっ、……おえっ……! げほっ、ごほっ……!」
🍣「……何してんの、まろ」
低く、けれど心臓を直接掴まれるような声がした。
ドアの隙間から差し込む廊下の光。そこに立っていたのは、ないこだった。
ないこは部屋の惨状――散乱した薬、虚ろな目の相方、そして嘔吐の音――を一瞬で理解し、表情を消した。
🤪「……っ、ない、こ。……こっち、見、んといて……」
🍣「今更何言ってんの。……最悪だな、まろ」
ないこは冷たく言い放ちながらも、その足は迷わずいふの元へ向かっていた。膝をつき、吐瀉物で汚れかけた、いふの背中を力強く叩く。
🤪「……う、っぷ……ごほっ! ……はぁ、はぁ……っ、……ごめん、……ごめんなさい……」
🍣「謝る暇あるなら全部出せ。胃の中、空っぽにしろ。……薬なんかで気持ち良くなってんじゃないよ、バカ」
ないこの声は怒っているようにも、泣いているようにも聞こえた。いふは、ないこの冷たい指先が自分の首筋に触れるのを感じて、ようやく自分が「現実」に引き戻されたことを自覚した。
偽物の光、本物の体温
激しい嘔吐が数十分続き、いふは文字通り、指一本動かせないほど衰弱した。
ないこは手際よくいふの口をゆすがせ、濡れタオルで顔を拭い、床を掃除した。その間、一度も軽蔑の言葉を口にせず、ただ淡々と、けれど決して目を離さずに対処を続けた。
🍣「……まろ。こっち見て」
ないこがいふをベッドに座らせ、正面から両肩を掴む。
薬の残響でふわふわと揺れる視界の中で、ないこの瞳だけが鋭く、けれどひどく潤んで見えた。
🍣「……俺じゃ、足りなかった?」
🤪「……え、……?」
🍣「俺に話すより、薬飲んで逃げる方が楽だった? ……俺、そんなに頼りないリーダーだったかな」
🤪「……ちゃう! ……ないこは、悪くない……っ」
いふは必死に否定しようとして、言葉に詰まった。
自分が一番守りたかったはずの場所を、自分の手で汚してしまった後悔が、薬の快楽を完全に塗り潰した。
🤪「……怖かった。……なんもない、空っぽの自分になるんが。……薬飲んどる間だけは、自分がすごい奴になれる気がして……」
🍣「バカ。まろは薬なんか飲まなくても、俺の自慢の相方だよ」
ないこは、いふの震える体を強く抱きしめた。骨が軋むほどの力。薬で作った偽物の浮遊感とは正反対の、重くて、熱くて、痛いほどの「生」の感触だった。
夜明けの誓い
🍣「……まろ。これから、まろの部屋の薬、全部俺が預かるから。……まろがどうしても苦しくなったら、俺呼んで。薬の代わりに、俺が寝るまでまろのこと、甘やかしてあげる」
ないこは、いふの耳元で囁く。
🤪「……ほんま……?」
🍣「リーダー命令。逆らうの禁止。……わかった?」
いふはないこの胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いた。
吐き出した後の喉は痛くて、頭は割れるように重い。けれど、さっきまでの孤独な多幸感よりも、この苦しくて情けない現実の方が、ずっと愛おしいと思えた。
窓の外では、少しずつ夜が明けようとしていた。
ないこはいふの背中をずっと、優しく撫で続けながら、彼を眠りの淵へと連れて行った。
🍣「……次は、薬じゃなくて、俺たちの音楽で飛ぼうな。まろ」
その約束だけが、暗い部屋に残された。