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文化祭の準備期間。
クラスは「展示班」と「演劇班」に分かれていた。
琥珀は展示班で、静かに絵や装飾を作っていた。
彼女は目立たないタイプだけど、手先は器用で、丁寧な仕事をする。
一方、朝霧蒼真は、演劇班の方で音響の担当になっていた。
普段は無口で目立たないが、機械いじりや細かい作業は得意で、裏方としての実力は高い。
そんな二人が、同じグループ活動の中で顔を合わせることになった。
放課後。
音響室には蒼真が一人でいた。
机の上にはスピーカーやケーブル、ノートPC。
彼は黙々と調整をしている。
「蒼真、手伝ってもらえる?」
声の主は、演劇班のリーダーだった。
でも、その後ろに立っているのは琥珀だった。
琥珀は、演劇の小道具の担当になっていて、音響の確認をしに来たのだ。
蒼真は顔を上げることなく、淡々と答えた。
「何を?」
「演劇のBGMを流して、音量とかチェックしてほしい」
「……分かった」
蒼真はゆっくりと席を立ち、琥珀の方へ歩いた。
彼は近づくと、静かに言った。
「この部屋、初めて?」
「うん。音が大きいから怖い…かも」
琥珀は少し緊張していた。
蒼真はその言葉に、少しだけ眉を寄せた。
「怖がるな。音は調整する」
BGMが流れる。
低音が響き、琥珀の胸が少し揺れる。
「……ここ、音が大きすぎる」
琥珀が言うと、蒼真は淡々とノブを回す。
音が少しだけ小さくなった。
「うん、これくらい」
琥珀は安心して微かに笑った。
その瞬間、蒼真は少しだけ顔を上げた。
「……笑うんだな」
「うん」
「……」
蒼真はそのまま、静かに琥珀を見た。
何も言わない。
ただ、見ている。
「……ありがとう」
琥珀が小さな声で言うと、蒼真は少しだけ反応した。
「……別に」
でも、その「別に」の言い方が、どこか優しかった。
それから数日。
展示班と演劇班の作業は、交差することが増えた。
琥珀は展示のために、音響室の近くを通ることが多かった。
蒼真はそれに気づいていた。
でも、蒼真は決して先に話しかけない。
必要なときだけ、淡々と助ける。
ある日、琥珀が手に持った台本を落とした。
「……!」
ページが散らばる。
その瞬間、蒼真がすっと動いた。
「……」
無言でページを拾い、順番を整える。
琥珀の手元まで戻すとき、指が触れた。
「……ありがとう」
「……」
蒼真はそのまま、何も言わずに去ろうとした。
琥珀は慌てて言った。
「蒼真、待って! その…」
蒼真は振り向きもしない。
ただ、低く言った。
「迷惑かけんな」
琥珀は一瞬固まった。
でも、その言葉の裏に、優しさがあるのを感じた。
文化祭当日。
演劇が始まる直前、音響室で蒼真は最後のチェックをしていた。
「蒼真、もう大丈夫?」
琥珀が声をかける。
彼女は展示の仕事が終わって、少しだけ顔を出したのだ。
蒼真は無言で頷く。
そして、琥珀の方を見た。
「……見に来たのか?」
「うん。蒼真の音、すごかった」
琥珀は照れくさそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、蒼真の顔が少しだけ柔らかくなる。
「……ありがとう」
「……蒼真」
琥珀が呼ぶ。
蒼真は、少しだけ近づいて、低い声で言った。
「お前がいるなら、失敗できない」
その言葉に、琥珀の心臓が一瞬だけ跳ねた