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文化祭が終わり、学校は静かになった。
夜の図書館は、いつもより暗くて、でも落ち着く。
琥珀は展示物の片付けをしていた。
「……終わったかな」
すると、背後から低い声がした。
「まだ、終わってない」
振り返ると、そこには蒼真がいた。
いつも通り無口で、無表情。
だけど琥珀にはわかった。
「……私がいるから?」
蒼真は少しだけ目を細めた。
「……お前が手伝うって言った」
「……え?」
蒼真は淡々と棚の本を整理し始める。
「……じゃあ、手伝う」
琥珀は少し照れながらも、作業を続けた。
片付けが終わり、図書館の明かりが少し落とされた。
琥珀は座り込んで息をついた。
「……疲れた」
蒼真は何も言わず、近くの椅子に座る。
でも、手だけは動かして、琥珀の荷物を整えた。
「……ありがとう」
「……別に」
その言葉は素っ気ないのに、琥珀には甘く聞こえた。
蒼真はふと、琥珀の肩に手を置いた。
「……寒いだろ」
「え?」
「……上着、貸す」
蒼真は自分の上着を脱いで、琥珀にかけた。
「いいの?」
「……いい」
琥珀はその優しさに、胸が温かくなった。
学校の門を出ると、空にはまだ雲が残っている。
「……もう遅いね」
「……うん」
蒼真は無言で歩き始めた。
琥珀は少しだけ距離を詰める。
「ねぇ、蒼真」
「……何」
「文化祭、楽しかった?」
蒼真は少しだけ考えてから答えた。
「……うん。お前がいたから、落ち着いた」
琥珀は心臓が跳ねた。
「私も、蒼真がいてくれて安心した」
蒼真は照れたように、少しだけ目を逸らす。
「……変なやつ」
「変じゃないよ」
「……うるさい」
「……でも、嬉しいってこと?」
蒼真は黙って、少しだけ頷いた。
帰り道の途中、ふたりは小さな公園の前で立ち止まった。
「……ここ、寄る?」
「……別に」
「え、行こうよ!」
琥珀は引っ張るようにして、蒼真を連れて行く。
公園のベンチに座ると、夜風が吹いた。
「……寒い」
「うん」
蒼真は自分の上着の裾を少し伸ばし、琥珀の肩にそっとかけた。
「……ありがとう」
「……別に」
でもその「別に」が、いつもより甘く感じた。
琥珀は少し笑って言った。
「ねぇ、また明日、図書館で会える?」
蒼真は一瞬だけ迷ったように見えた。
そして、低くて落ち着いた声で言った。
「……来る」
琥珀は嬉しくて、顔がにやけてしまう。
「じゃあ、また明日ね」
「……ああ」
蒼真はそれだけ言って、少しだけ先に歩き出した。
琥珀は後ろからついて行きながら、思った。
――告白はまだしてない。
でも、私たちの距離は確かに縮まった。
文化祭後の夜。
静かで甘い、ふたりだけの時間だった。