いよいよ明日から交流会が始まる。
放課後有古に呼び出され、ダンスに誘われて驚いたのはつい先程の話だ。
楽しみから自然と足取りが軽くなり、小声で歌を歌いながらキラキラ光る星を眺めた。
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Lavender’s blue, dilly, dilly, lavender’s green, When I am king, dilly, dilly, You shall be queen.
Who told you so, dilly, dilly, who told you so? ’Twas my own heart, dilly, dilly, that told me so.
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幼い頃よく母が歌ってくれた歌を、ふと思い出して口ずさんだ。正しくは祖母が母へ教えた歌で、母がなくなっても祖母が私へ歌ってくれたのだ。両親のことを思い出し、目頭がじんわりと熱くなった。
菊田「いい夜だな」
歌の狭間に聞き慣れた声に、私は振り向く。
イ「先生……いつからいらっしゃったんですか…?」
菊田「素敵な歌が聞こえてきたもんだから、その声をたどってきたらイーヴァがいただけだ」
イーヴァ。私の愛称。これを知っているのは今は祖母と、先生だけ。先生は私の横にたって、同じ星を眺めた。
菊田「月は変わらねえな」
イ「月が、なに?」
菊田「月は変わらない。イーヴァ、あんたが生まれた時から、ずっと綺麗なままだ」
この世は諸行無常。これは仏教の教えだけど、的を得た考えだ。人も、土も、水も、星も。そして、月も。永遠とそこにあり続けるものは何ひとつとして存在しない。故に尊い。故に美しい。故に儚い。
菊田「寂しくなったんだろ。心がガラ空きだ」
先生の言葉に目を見開く。そんな私を見て、先生は優しく笑った。この人は開心術が凄く得意で、だから先生に隠し事は一切できない。閉心術のプロにならない限り。
菊田「ドレス届いたろ。おばあさんがこの時のためにって見繕ってくれたんだってよ。着る機会あって良かったじゃないの」
なるほど、パーティーに出ることまでお見通しというわけか。やはりこの人には敵わないと、少し苦笑した。
イ「開けられるのは明後日だよ。それまでに髪型とか決めなきゃ」
菊田「また昔みたいに結ってやろうか」
先生は手が器用だから、よく私の髪を結んでくれた。
イ「うん」
菊田「ドレス着たら、お披露目してくれる?」
イ「うん、もちろん」
菊田「昔に戻ったみたいだな。あんな小さかったのに、こんなに立派になった。」
先生は私の成長を見届けてくれた。ずっと寄り添って、味方でいてくれた。
イ「先生、ありがとう」
菊田「なに?急に」
イ「ふふ、別に」
菊田「まあいい。そろそろ消灯時間だから寮に戻んな」
イ「おやすみ、先生」
菊田「いい夢を」
私は振り返って、キスを落とした指をヒラヒラと振った。先生は少し腕を上げて、その手をポケットに突っ込んだ。