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――とある日の夕方。
ナオコの部屋。
ベッドの上。
並んで横になっている2人。
コハル。
「……ねぇ」
ナオコ。
「……ん?」
コハル。
「最初会ったときのこと覚えてる?」
ナオコ。
一瞬、目を細める。
「……覚えてる」
コハル。
「ほんとに?」
ナオコ。
「……全部」
コハル。
「怖っ笑」
ナオコ。
「……コハルもでしょ」
コハル。
「まぁね笑」
少し沈黙。
コハル。
「懐かしいね」
ナオコ。
「……うん」
ゆっくり。
記憶が遡る。
――オーディション会場。
長い廊下。
張り詰めた空気。
コハル。
椅子に座って、手を握りしめる。
(緊張やばい……)
(でも負けたくない)
顔を上げる。
その時。
隣に、誰かが座る。
ナオコ。
静かに。
コハル。
「……あ、こんにちは」
(この人、凄く雰囲気がある…)
(でも、すごく緊張してる顔)
ナオコ。
「……こんにちは」
お互い、名前も知らない。
ただ同じ場所にいるだけの、ライバル。
少しの沈黙。
ナオコ。
「……あの」
コハル。
「え?」
ナオコ。
「……緊張してる?」
コハル。
一瞬、びっくりして。
「してる笑」
ナオコ。
「……やっぱり」
コハル。
「そっちは?」
ナオコ。
「……してる」
コハル。
「だよね笑」
少しだけ、空気が和らぐ。
ナオコ。
ぽつりと。
「……なんか」
「……自信なくて」
コハル。
「え?」
ナオコ。
視線を落とす。
「……ここにいていいのかなって」
コハル。
(え……?)
(こんな、すでに完成されてる人が?)
コハル。
「そんなことないでしょ」
ナオコ。
「……」
コハル。
「ここまで来てる時点ですごいじゃん」
ナオコ。
「……でも」
言葉が続かない。
唇を噛む。
(ダメだ……)
(今、泣きそう)
ナオコ。
「……ごめん」
立ち上がる。
コハル。
「え?」
ナオコ。
「……ちょっと」
そのまま離れていく。
コハル。
(あ……)
(今、絶対泣きそうだった)
少し迷う。
(追わない方がいい?)
(1人になりたいかもだし…)
一歩。
踏み出す。
「……でも」
(放っておけない)
トイレ前。
ナオコ。
洗面台の前。
俯いて。
(泣くな)
(ここで泣いたらダメ)
深呼吸。
でも。
こらえきれない。
その時。
「……あの」
ナオコ。
「……っ」
振り返る。
コハル。
少し困った顔で。
「ごめん、来ちゃった」
ナオコ。
「……なんで」
コハル。
「気になったから」
ナオコ。
「……」
コハル。
「大丈夫?」
ナオコ。
「……大丈夫」
コハル。
「大丈夫じゃない顔してるけど」
ナオコ。
言葉が出ない。
コハル。
優しく。
「無理しなくていいよ」
ナオコ。
「……」
コハル。
「怖いよね、ここ」
ナオコ。
小さく頷く。
コハル。
「でもさ」
「一人じゃないよ」
ナオコ。
「……え?」
コハル。
少し笑って。
「今はライバルだけど」
「同じ夢追ってる仲間じゃん」
ナオコ。
「……」
コハル。
「だからさ」
「大丈夫」
ナオコ。
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
(なんでこの人……)
(こんな優しいこと言うの)
ナオコ。
「……ありがとう」
コハル。
「どういたしまして」
少しの沈黙。
でも。
もう、さっきの他人じゃない。
ナオコ。
「……名前」
コハル。
「あ、ほんとだ笑」
「コハル」
ナオコ。
「……ナオコ」
コハル。
「よろしくね」
ナオコ。
「……うん」
――現在。
ベッドの上。
コハル。
「懐かしいね」
ナオコ。
「……うん」
コハル。
「まさかあの時からこうなるとはね笑」
ナオコ。
「……思ってなかった」
コハル。
「でしょ笑」
ナオコ。
少しだけ近づく。
「……でも」
コハル。
「ん?」
ナオコ。
静かに。
「……あの時、来てくれてよかった」
コハル。
少し照れる。
「そりゃ行くでしょ」
ナオコ。
「……来なかったら」
一瞬、言葉を止める。
「……今、ないかも」
コハル。
「……」
少しだけ、目が柔らかくなる。
コハル。
「じゃあさ」
ナオコ。
「……?」
コハル。
笑って。
「私、ナイス判断じゃん」
ナオコ。
「……うん」
少しだけ笑う。
「……天才」
コハル。
「でしょ?笑」
自然に。
指が絡む。
ナオコ。
「……好き」
コハル。
「急だな笑」
ナオコ。
「……ずっと前から」
コハル。
「知ってる笑」
2人。
静かに笑う。
あの日の距離は。
もう、どこにもない。