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魔王のいなくなった世界。
そこに訪れたのは、真の平和ではなく、魔族軍の解体により戦意を失くし、商売にもならず、危険も伴う冒険職に就く者の急速な減少だった。
それにより、まだまだモンスターや、危険な思想を抱く魔族の残党を危惧した国々は、学業の中に、剣術学、魔法学など、基礎戦闘知識を取り入れ、更に、『ブレイバーゲーム』という四人パーティでの競技を発足させ、国々のトップになったチームには、名誉ある功績を与えるシステムを取り入れた。
小さな村、キルロンド王国の隅、森に囲まれたハイス村に生まれたヒノトは、絵本の中の現実に存在した伝説の勇者に憧れ、今、王国近郊の学校へと入学する。
「本当に一人で大丈夫……?」
ヒノトの母は、心配そうにヒノトを玄関まで送る。
父は、窓越しにタバコを吸っているのが見えた。
「ちょっとあなた! 見送りくらい……」
しかし、母の声は遮られる。
「男が旅立つ時はな、言葉なんて要らねぇんだ」
そう言うと、父は口から白い煙を吐き出した。
「ああ、そうだな……。俺、行ってくるぜ……! 絶対、伝説の勇者みたいになってやるんだ!」
いつものヒノトの元気な声に、母は微笑んだ。
「無理しないで。歯はちゃんと磨いて、夜更かしはしちゃダメ。難しい教科もしっかりと……」
「母さん……」
ヒノトは、母の肩にそっと手を置いた。
手からは、温かい空気が漏れ出していた。
「ふふ、そうね。言葉は要らないのよね。元気で行ってきなさい! ヒノト!」
ヒノトは、笑顔で母のことを見つめた。
しかし、やはり『言葉は要らない』なんて、心配性の母には出来ず、去って行く背中にまた声を掛ける。
「ヒノト! 最後に、絶対忘れちゃダメ! 何があっても勇者なら笑ってみせるのよ!」
その声に、ハッとすると、ヒノトは振り返る。
「分かってるよ! 勇者になるんだからなー!」
「フッ、青二才が……」
そんなことを呟く父の目は、少し潤んでいた。
少しでも多くの学生を増やしたい国からは、希望者に馬車を手配し、馬車に乗ること約五時間。
田畑を超え、山々を超え、雑木林を抜け、更にはヒノトが目を輝かす、豪華な街々をも抜けた。
「着きました。『キルロンド学寮』になります」
「ありがとうございました!」
馬車から降りると、ヒノトは目を輝かせる。
その大きな学校は、村随一の大きさを誇る教会を遥かに凌ぐ大きさを誇り、大きな口を開けた。
「すげぇ……今日からここの学生かよ……!」
「ま、厳密には『明日から』だがな」
背後からヒノトに声を掛けたのは、馬車から降りてきた背丈の少し高い、赤髪の少年だった。
「おお! お前も新入生か!?」
「まあな。俺はリゲル。よろしくな」
すると、リゲルはニカっと手を差し出した。
「ああ、俺はヒノト! ソードマン志望だ!」
ニカっと笑い、リゲルに握手を返した。
「お前も『ブレイバーゲーム』参加者か! 俺もソードマン志望なんだ! 同じチームは組めないが、お前には負けないぜ! ちなみに、得意魔法はなんだ? 俺は『炎魔法』が得意なんだ!」
少し俯き、ヒノトは真っ直ぐな目を向けた。
「『魔法が放てない』ことが俺の特技だ……!」
「『魔法が……放てない……?』」
リゲルは、反復してヒノトの言葉を唱える。
この世界は、魔法を放つ、魔法で生活する、それが当たり前の世界だった。
そんな中で、魔法が放てないと言うことは、劣等生もいいところだった。
「それ……本当だとしたら、ブレイバーゲームなんか……」
「いいや……」
心配そうに見遣るリゲルに、笑顔を向ける。
「俺は、強いぜ……!」
その眼光に、リゲルはゾクっと背筋を凍らせる。
「アッハハ! なんか分かんねぇけど、強いのか! ならやっぱ、負けねぇ! 最初に話し掛けたのがお前でよかったよ、ヒノト! ライバルとして、改めてよろしくな!」
「おう!」
今度は、二人は拳と拳を合わせた。