リゲルと初対面ながらに意気投合し、互いに気さくに話し合える性格から、自然と二人の足は共に正門に向かった。
「でっけー! やっぱ凄ぇな! 王国!」
「ハハッ、ヒノトは王国近郊に来るのは初めてか?」
「そうなんだよ! 俺、すっげぇ外れの村から来たんだよな〜! だからデカい建物も初めてだ!」
リゲルは、王国郊外の街出身と話したが、どうやら王国近郊にはよく来ていたようだった。
ヒノトがあちこち目を輝かせながら校舎に向かう中、リゲルはニコニコとその光景を眺めていた。
暫く歩くと、二人は長蛇の列を見つける。
「あそこで最終手続きらしいな。王国内の連中は既に済んでいるはずだから……すげぇな。郊外の新入生だけでもこんなに集めたのか……」
「なあなあ、俺たちも早く並ぼうぜ! 同じクラスだったらいいな!」
ヒノトは、足早に掛けて行った。
やれやれ、と、リゲルもその後を追う。
長蛇の列に並ぶ中、リゲルからこの街の美味しい食事処や、学生寮の設備、なんと今期は王族の息子が同級生で入ってくる話など、様々な情報を教えられ、ヒノトは一つ一つを嬉々として聞いていた。
「その王子が、これまた神童のソードマンと言われてて、将来有望だって騒がれてて……。どうした? ヒノト?」
さっきまで夢中になって話を聞いていたヒノトは、遠くをぼんやりと眺めていた。
「あれ……何やってんだろ……?」
「ああ? なんだ……? って……げっ……!」
そこに見えたのは、さっきまで話に出していた、キルロンド王国が王子 レオ・キルロンドがいた。
しかし、何やら辺りを囲んで騒然とさせていた。
「貴様、それでは私の勧誘を断るのだな……?」
「滅相もありません……。レオ様のお誘い、至極嬉しく思うのですが、私めは既に故郷の友人とパーティを組んでおりまして……その……」
その言葉に、王子レオは短刀を突き付ける。
「ならば、貴様に入学する権利を与えない」
「そ、そんな……!」
そんな殺伐とした空気感の中、ヒノトは飛び込んだ。
「おい、ちょっと待てよ!」
ヒノトは、なんの躊躇いもなく王子の肩を掴む。
その瞬間、その光景を見ていた全員の口が開く。
王子レオも、同様に、身が固まる。
「貴様……なんと不躾な……」
過去に味わったことのない不遜な態度に、レオはワナワナと肩を震わせる。
「この私が、どれだけ偉いか分かってるのか!!」
我に帰ったレオは、ヒノトのことを突き飛ばした。
「分かってるよ……さっき聞いた。お前、この国の王子様なんだろ? でも、ソイツを入学させないなんて権限、持ってないだろ。悪いこともしてねぇのに」
「お前……? 権限……? 私の指示を聞かなかった、これがこの国で一番の有罪だ!! この国を支えているのは私たちだ!! その指示に逆らうのだから当然だ!!」
その殺伐を越えた緊張感の中、全員の顔に不安の色が伺える中、ヒノトはスッと立ち上がる。
「いや、この国を支えてんのは『お前の父親』だろ」
遂に、レオの怒りは限界値まで達する。
「ハハ……ハハハハ……。ここまで愚かな民がこの国にいようとはな……。のさばらせるのも職務怠慢と言うもの。貴様、名を名乗れ。生涯の汚名として語り継いでやる」
そう言うと、その剣先はヒノトへと向けられる。
「ああ、いいぜ。俺の名はヒノト。ヒノト・グレイマン。お前みたいに威張ってる奴の言うことを聞かないとこの国にいちゃいけねぇなら、こっちから願い下げだ」
そして、ヒノトもまた、父から預かった短剣を王子レオへと向けた。
「貴様もソードマンか……。ふふ、強制退国させる前に、神童と呼ばれる私との格の違いを思い知らせてやる」
そう言うと、レオは上空へと飛び上がる。
“雷鳴剣・稲光”
ゴウッ……! と、レオの上空は曇天の空が広がり、中ではバチバチと雷の音が鳴り響く。
「さあ、今なら土下座すれば許してやるぞ!!」
レオは、その剣先を雷鳴の響く上空へ突き上げる。
「や、やべぇよ……ヒノト……! 謝っちまえ!!」
ただ呆然と見ていたリゲルも、咄嗟にヒノトを抑えようとしたその時 ――――
ボンッ!!
何かの爆発音が響いた時には、ヒノトの姿はそこから消えていた。
「ヒノト……?」
「やっぱ魔法使えんのいいなぁ! 流石は神童って呼ばれるだけの魔法だ! すげぇ!」
ヒノトは、上空、レオの眼前に迫っていた。
「き、貴様……! 一体、何を……!!」
体勢を崩すレオに、ヒノトは体勢を整え、剣を横に、薙ぎ払う構えを取る。
「さあ、王手だぜ。どうする、王子様」
苦い顔を浮かべながら、レオは雨雲を消し去った。
シュタッと、二人同時に地面へと降り立つ。
睨み付けるレオと、ニコッと微笑むヒノト。
「貴様は、公式戦で必ずこの私が討つ。今回の無礼は、その時の貴様の首までお預けにしてやる」
そう言い残すと、仕様人を引き連れて去って行った。
次第に、王子の去った安堵から、周囲の生徒たちも散り散りに立ち去って行った。
「お前……無事だったから良かったが、本当に強制退国とか入学阻止とかされてたら、どうすんだ……?」
心配そうに話すリゲルに、ヒノトは笑って答えた。
「ああ、アレな。実は大丈夫って保障があるんだよ」
「王子に逆らうまでならまだしも……剣先を向けるってのは、王族への殺害予告みたいなものだぞ……。それでも、その保障ってのが言い切れるのか……?」
不安気なリゲルを他所に、ヒノトは王城を見上げた。
――
ヒノトが物心付く頃、口数の少ない父は、珍しくヒノトを呼び出し、数人分のお茶の準備をしていた。
テーブルには、茶色く小汚いローブを着た、父と同じ年代くらいのおじさんが座っていた。
「おう、来たか、ヒノト。挨拶しろ」
「あ、ヒノト・グレイマンです……。えっと……」
「ハハ、急に押し掛けてすまないね。私はラグナ。気軽にラグナおじちゃんとでも呼んでくれ」
「おっす! ラグナおじちゃん!」
「ハッハッハ! 父に似ない愛想の良い子じゃないか! 母の良き遺伝を継いだかな?」
すると、父は渋々とお茶を置き、頭を掻いた。
「やめてくれ。毎晩うるさくて敵わないんだ……」
「で、父さん、この人誰?」
「ああ、父さんの昔の冒険者パーティの仲間だ。お前が『魔法が使えない』ことについて相談したくてな」
「私も、君のお父さんも、長いこと冒険者をしていたが、まるで前例がないことだ。君にとってはコンプレックスに悩んでいる事かもしれないが、私は非常に興味深い」
――
ヒノトは、王城に手を翳す。
「それで……ヒノトの父さんと国王様が……昔の冒険者パーティで一緒だったのか。凄ぇな……」
「まあなー。いつも汚いローブで来てたから、王様って知ったのは、この学寮を薦められた時なんだけどな」
「なるほど。国王直々の盾があるから、王子に対してもあの態度……まあ、普通はしないと思うけど……」
そんな、呆れた顔を示すリゲルに、ヒノトは言葉を遮って列に戻る為に足を進める。
「でも、例え知らなくても、俺は止めてた。だって、『真の勇者』なら、見過ごせないだろ?」
ニカっと笑う純粋なヒノトに、何故かリゲルの不安は飛ばされており、「まったく」と、ヒノトの後を追った。
「とんでもない奴に話しかけちゃったみたいだな」
「誰のことだよ!」
ソードマン ヒノト、ソードマン リゲル、共にCクラスへと入学。
――
ヒノト・グレイマン - ソードマン
*前例のない『魔法が放てない』人間として生まれる。
*伝説の勇者に憧れ、王国学寮に入学した。
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