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愛日
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特務調査局。そこは、異能に関する様々な事件や事故などの依頼をこなし、日々、悪意と戦っている。
けれど中には、ちょっと不思議な出来事に発展する事もある。
今回は、そんな不思議なお話。
それは警察署からの帰り道。
依頼を達成した為、深澤と岩本の二人で報告しに行っていた。いつも、その役を担うのは、局長の深澤とまとめ役の岩本なのだ。
💜「今回もまーた面倒な案件だったなー」
💛「警察からの依頼なんてそんなもんだろ。簡単だったら俺らのとこに依頼なんかしてこないって」
💜「そうなんだけどさー。なんかこう、モヤモヤすんだろ」
💛「まあな。腐食毒使いだから下手に近づけないし、30時間も立て籠もって人質も取った割に、理由は痴情のもつれ……」
💜「最後なんか、みんなドン引きしてたじゃん。ちょっと寝てる警察官とかいたしね」
💛「気持ちはわからなくもないけど……どんな依頼だって引き受けるってのが、ウチのモットーじゃねえの?」
💜「そりゃそう。何が重大な事件になるかも分かんないし、何より、優劣をつけるのって良くないじゃん」
💛「阿部にめっちゃ言われてたやつだろ、それ。最初の頃、ふっかがめんどいっていろんなの跳ねのけるから」
💜「いやだって、学校の花壇が荒らされてた!とか、近所の犬がうるさくて眠れない!とか、神社のお供え物が毎日なくなってる!とかさ。知名度ない時なんてそんなんだっただろ。少年探偵団の時なら良かったけど、特務調査局になってからもそれってさ……」
💛「それでも、困ってる人がいるのは事実で、どんなに小さな依頼も受けていった方が特務調査局の為になるからって言いくるめられたんじゃん。で、結果、全部引き受けるって決めたのは、ふっか。なんか文句あんの?」
💜「ありません。あー……カッコつけて言うもんじゃねーなー」
💛「大丈夫。カッコついてなかったから」
💜「ひどっ!」
そうしていつものように話しながら歩いていて、不意に、ドンッとぶつかりながら二人の間を通っていく人がいた。
急いでいたから前が見えなかったのか、自分たちが話していて気付かなかったのか。
振り返ってその人物を見るけれど、すぐに人ごみの中に消えてしまった。
💜「何だったんだ……?」
💛「さあ……って、ふっか!?」
💜「へ?」
突然の驚いたような岩本の声にそちらを見ると、目を丸くしている岩本がそこにいるのだけれど、その姿はいつもとは違っていた。
💜「えっ、照……だよね? なんか……中学生?」
💛「お前だって高校ん時のふっかじゃん」
お互いにそう言って見つめ合う。
💜「……どういう状況?」
💛「若返った、って、こと……? あ。今の人」
💜「あっ、あいつの異能?! うわ、ぜんっぜんどんなだったか憶えてねーよ!」
💛「……同じく……」
💜「とにかく、憶えてないんなら探しても意味ないよな。一回戻って阿部ちゃんに探ってもらった方が良さそう」
💛「だな……って、戻るって、どこに?」
💜「は? どこって、俺らがいつもいるのなんてあそこしか……あれ? いつもいる場所なんて、あったっけ?」
💛「そもそも、あべちゃんって誰だよ」
💜「さあ? 俺、そんなこと言った?」
顔を見合わせたまま、二人で首を傾げる。
一体、自分たちは今、何の話をしているのだろうか。何も分からない。何も思い出せない。何も―――。
「あー! いたいた!」
そうしていると、急に少年の声が聞こえてきた。
驚いて声の方を見ると、自分たちよりも年齢の低い小学校高学年くらいの男の子と女の子が手を繋いでそこに立っていた。
同じ白いカーディガンを着た、水色のシャツにベージュのパンツを履いた男の子と水色のワンピースを着た女の子。まったく同じ顔をした、双子の男女が愛らしい大きな目で深澤と岩本を見つめている。
「もー。万里ったら、急に走ったら危ないよ?」
「ごめんね、千里。でもでも、ほら! お兄ちゃん達いたよ! ちゃんと見つけられたよ!」
「うん。偉いね」
「えへへっ」
優しい表情で頭を撫でる、千里と呼ばれた男の子。
撫でられて嬉しそうに笑っている、万里と呼ばれた女の子。
💜「えっと……誰?」
「僕は矢波千里だよ。こっちは双子の妹の矢波万里」
💜「千里くんと、万里ちゃん……って、そういうことじゃなくって」
💛「俺らになんか用?」
「うん! 大事なもの、見つけに行こう!」
💜「……へ?」
「万里、急に言ったって分からないよ」
「あ、そっかぁ。えっと。お兄ちゃん達の大事なものをね、一緒に見つけようと思ったの」
💛「大事なもの? 俺らの?」
「そう! こっちこっち!」
手招きをしてから走っていく千里と万里。
訳が分からずにもう一度、顔を見合わせて、それでも今は行くしかないか、と後を追って行った。
そうして向かった先は、大きな公園。
木々が立ち並ぶ中にある、白い人工石でできた大きな滑り台。左右に階段がついていて、広い中央部分はどの角度からでも中央に向かって滑れるようになっていて、上に広がって半円を描いている。
💜「ここ……」
「紫のお兄ちゃんは知ってるよね?」
💜「うん、知ってる。みんなで少年探偵団を作って、よくあのてっぺんのとこで話してた。集まれる場所ってここくらいだったから、依頼の話とか、どういう活動をしてくのかとか、いっぱい話したわ」
見える景色が、当時のものと重なる。学校が終わってから、ダッシュで来た公園で、階段を駆け上って行って、ランドセルから出したノートに深澤が鉛筆でメモをして、佐久間が横からワーワー口を出して、渡辺が時々鋭い事を言って、宮舘が静かに頷いていた。
💛「へぇ、そんなことしてたんだ」
💜「俺らも子どもだったし、学校も違ってたからさ。家でそんな話するのも違うし、ちょっと秘密基地っぽくて気に入ってたんだよね」
💛「こんな堂々とした秘密基地あるか?」
💜「その辺が小学生っぽいだろ」
💛「確かに」
「万里もね、千里と一緒にいっぱい公園行ったんだよ!」
「こういう大きいところは楽しいよね」
「ねーっ」
無邪気に笑い合う双子。
その笑顔は、見ているこちらまで気分が高揚してくるようなもので、深澤と岩本にも笑みが浮かんだ。
次に向かったのは、中学校。
部活をしている学生たちの声を遠くに聞きながら、正門から入ってフェンスに沿って歩いて行くと、校庭の外れにそれはあった。
高いフェンスに囲まれた屋外プール。
白いコンクリートでできた八段ほどの階段を上ってプールサイドに立つ。
微風がわずかな波を作り出し、太陽の光を反射してキラキラと輝いているプールを見下ろした。
「わぁ、キレーだね!」
プールサイドにしゃがみ、プールの中を覗く万里。
「あ、万里! あんまり近づいたら危ないよ!」
繋いだままの手をしっかりと握り、離れるように引っ張っている千里。
何をやってるんだと、はしゃぐ万里と止めようとしている千里を見ていた深澤はそこで、岩本がただ一点を見つめている事に気が付いた。
💜「照? どうした?」
💛「……この学校……俺と阿部が通ってたとこだ……」
💜「えっ、そうなの?」
💛「阿部、もうこの頃には異能あって、電子の異能のせいで水が苦手だからプールはいつも、そこのプールサイドから見学してた」
道路側のプールサイドの端に設置されている、申し訳程度の幅の短い日よけが数メートルほどあり、先ほど入って来た階段の傍を岩本が指さした。
そこに、体育用のジャージとTシャツを着て膝を抱えて座っている、中学生の阿部の姿がぼんやりと見えている。
楽しそうにプールに入って授業を受けている生徒たちの姿も浮かぶ。
💛「けど、理由は先生にしか言ってないから一部の男子がふざけてからかって、阿部のことプールに呼び出して、突き落としたんだ」
プールサイドに立った学生服の阿部がプールに落とされ、必死にもがく姿が見えるようだ。
💛「一緒に帰る約束してたのにいないから阿部のこと探して、プールの方に行ったって聞いたから来てみたらそれで、溺れそうな阿部見て、俺、思わずプールの水、全部蒸発させてさ」
💜「えっ!? そんなことできんの!?」
💛「普段はできねえよ。でも多分、キレてたから。阿部を助けるのに必死でやって、一気に蒸発して気付いたら蒸気の中で阿部を抱っこして立ってた感じ」
💜「……ヤバ……」
💛「《能力過負荷-オーバーロード-》して、髪の先が炎っぽくなって、火傷みたいな亀裂も入ってたからかさ、やった奴らみんな、腰ぬかしてその場で土下座してたわ」
💜「そりゃそうだよ。見た目だけなら魔王じゃん」
💛「……その後から、裏で煉獄の魔人って恐れられてたの知ってる。すげーやだった」
💜「まあ、照の中身を知ってる俺としては、超似合わない二つ名だと思う。あ。照が阿部ちゃんのお兄ちゃんみたいになったのって、そっから?」
💛「多分? 同い年だけど、やっぱどこかほっとけないっていうか、さ。そっからちょっと過敏になって阿部にやりすぎって怒られたのは憶えてる」
💜「分かる気がする」
話しながら、水をバシャバシャと手でかき混ぜては千里にかけている万里の姿を見つめる。
今でも阿部と岩本の関係は変わっていないように思う。いつも岩本は、一歩引いたところから阿部を優しく見守り、何かあれば阿部を守っている姿をよく見ているから。
💜「そういや、オーバーロードした時ってどうしたの?」
💛「俺は熱が上がり続けるから、霊泉から流れる滝ってのがあって、そこで滝行を一日やって治した。異能が効かない水だから、蒸発もしないしずっと冷えてんの」
💜「一日中滝に打たれるとか……俺は無理だわ」
💛「しょうがないだろ。他に方法ないんだから」
異能力者が、自分の限界値を超えて異能を使った際に起こる能力過負荷-オーバーロード-は、それぞれの異能力に合わせた症状が出る。その状態で抑えれば問題ないが、更に異能を使おうとすると飽和暴走状態となり、命にかかわる。
だから異能を使い続けた際には、先ず疲労がきて、その次にオーバーロードの症状、それから飽和暴走と段階があるのだ。
異能力者となった場合、その対処方法を知らなければならないのだから。
💛「ふっかは? オーバーロードの時、どうしてんの?」
💜「俺? 俺はふーちゃんと全力バトル」
💛「……え?」
💜「オーバーロード状態だと、暴走したふーちゃんに勝てば終わるんだよ」
💛「ふっかじゃなくてふーちゃんが暴走すんだ」
💜「そうらしい。よく分かんないけど、二回やって二回ともちゃんと勝ってるし、その後、ふーちゃん力尽きてシマエナガみたいになんのめっちゃ可愛いよ」
そんなふーちゃんは、今日は深澤のところにはいない。
💜「あれ、ふーちゃん、何でいないんだっけ?」
💛「家じゃない?」
💜「うーん、置いてくことなんてないんだけどな……」
何でだろうと思いながらも、千里と万里がプールから降りて行ってしまうので、深澤も岩本もその後を追って行った。
着いた先は、ボウリングやスポーツができる施設の前。
💛「あれ? ここのボウリング場」
💜「あー、あれだ。俺と照が大ゲンカした時の」
💛「あったなー、そんなこと」
💜「高校の友達と遊んでて、俺が照の事を紹介したいから顔だけ出せって言って、照が絶対やだ!って駄々こねてさ」
💛「はあ? お前がしつこかったんだろ。何で知らない上級生ばっかのとこに行かなきゃなんねえんだよ」
💜「仲良いから話したかったんだよ。俺も照も学年は違うけど同じ学校だったし。5分だけじゃん」
💛「嫌なものは嫌なのっ」
💜「で、結局、来い行かないで30分くらい揉めたんだっけ」
💛「はあ? 1時間だから」
「お兄ちゃん達、そんなことでケンカしちゃったの?」
💜「そ。そんなことで大ゲンカ。でも、照とケンカしたのなんて、あれが最初で最後だよな」
💛「確かに。俺らもまだ子どもだったんだよ」
💜「それが今じゃ夫婦並の阿吽の呼吸ってな」
💛「夫婦じゃねえし」
💜「またまたー。まんざらでもないくせに。結婚するなら誰? で俺のこと選んでんじゃん」
💛「あいつらの中でなら、だろ。まあ、ふっかとは考え方とかも合うから気兼ねしなくて良さそうではある、けど」
💜「俺も照って答えたし、相思相愛ってやつ?」
💛「調子乗んな」
バシンッと頭を叩かれつつも、どこか嬉しそうな深澤。
こういうやり取りは、昔から変わらない。
それから、千里と万里に連れられてやって来たのは、スノードロップと書かれたカフェのあるビルの前。
💜「そうだ。俺ら今、特務調査局やってんだった」
💛「何で忘れてたんだろうな」
言いながらビルを見上げる深澤と岩本の姿は、すでに元の大人のものへと変わっていた。
振り向き、千里と万里を見る。
💜「いろいろ連れて行ってくれてありがと。おかげで助かったよ」
「ううん! 僕らは想い出届け屋さんだから!」
💛「想い出、届け屋さん?」
「そうなの! 万里はね、千里と一緒に、みんなが忘れちゃった想い出を届けるの!」
「僕も万里も、お兄さん達の想い出を辿ってたんだよ」
「すごい? すごい?!」
キラキラとした目をしている万里に、岩本は腰をかがめてその頭を撫でる。
💛「凄いね。本当に助かった」
「えへへっ」
「お兄さんたち、また想い出をなくしたら僕らが見つけてあげるね!」
💜「大丈夫。大切な想い出だから、もうなくさないよ」
「そっか。それなら安心だね!」
ニッコリと千里が笑い、同じように万里も笑った。
手を振る千里と万里に手を振って、深澤も岩本も事務所に向かう階段を登って行った。時刻は夜7時。すでに5時間が経っていた。
ドアを開ければ、そこにはSnowManのメンバーの姿がある。
🤍「おかえりー!」
❤️「ふっかも照も、遅かったね」
💚「そろそろ、二人に連絡しようかって話してたんだよ」
💜「心配かけてごめん。ちょっと、二人で想い出巡りしてた」
💙「は? 仕事中になに遊んでんだよ」
🩷「うわ、翔太に言われてんじゃん」
🖤「俺はいいと思いますけどね。ふっかさんも岩本くんも、いつも率先していろいろやってくれてるし」
🧡「せやね。あ、ちょうど新作の豆で挽いたコーヒーあるで。二人とも飲むやろ」
💛「サンキュ」
💜「ちょうど飲みたいと思ってたんだよ! 康二、気が利くじゃん」
🧡「せやろせやろ! もっと褒めてええんやで」
💙「自分が飲みたかっただけだろ、調子乗んな」
🧡「たまにはええやん!」
楽し気な声と笑い声が事務所内に響き渡る。
肩に乗ったオコジョ姿のふーちゃんを撫でながら、深澤は思った。ここを、自分が作った事は正しかったのだと。
この居場所をずっと守り続けたいと、改めて感じる出来事だった。
「いかがでしたか?」
特務調査局のビルを眺めていて、ふと、隣に立った女性から声を掛けられて見上げた千里。
「あ! お姉さん!」
「千里様と万里様の願いには近づけました?」
「うん! 万里もね、今日は一緒にいろんなところ回ったから、とっても嬉しそうだったよ」
ニコニコとしながら、繋いだ自分の右手を見つめる。
「そう。それは良かったですわ」
「お姉さんも嬉しいの?」
「ええ。わたくしは、皆様の願いが成就するのを見るのが何よりも嬉しいのです」
「そっかぁ。じゃあ、僕もちゃんと願いを叶えなきゃ」
「千里様の想いの強さがあれば、できますわ。万里様も同じように思っていらっしゃることでしょう」
「そうだね。いろいろ教えてくれてありがとう、お姉さん」
「どういたしまして。では、わたくしは行きますわね。会える日を楽しみにしておりますわ、特務調査局の皆さま」
言って、女性は特務調査局を見上げると、ロングスカートの裾を右手でそっと持ち上げ、左手を胸に当てて優雅に頭を下げた。
去っていく女性に手を振る千里。
離した手の先に万里の姿はなく、透明な炎のような陽炎が千里の隣で揺らめいていた。