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「異世界の力……?」
緊急で呼び出された俺とロスタリアは、ブライト局長の元に行き、今回下された緊急指令の詳細を聞いた。
「そう、この前の井筒団蔵が意識を取り戻し、早々にこう言い放ったんだ。『もう手術はやめてくれ。侵略者の力はもう望まない』とな……」
その発言に、妙に思い当たる奴がいた。
その名は、局長から出された。
「今回、俺たち三人だけに下された緊急指令は、『船橋・LU・緑と、その庇護下ある三名の身柄の拘束』。お前たちが何度か出会している、鯨井・LU・優。あの蒼炎だ」
「しかし、どうして急にそんな命令が……? 確かに、どこにも属していない異端な奴らだが、あの三人は別に何の悪行も行ってはいない……」
しかし、俺は言いながらも気付いてしまっていた。
「どうやら、蒼炎のあの能力は、UT変異体訓練時には見られなかったものらしい。同様に、テレポートで蒼炎を補佐しているルリアールさんも、調査したところ、UT技術の研究に参加した記録は一枚も出てこなかった」
「つまり、あの二人は”異世界の力を扱っている”ということになるわけだな」
「そうだ。そして、蒼炎の出生に関与しているのが、件の緑殿であり、UT特殊部隊への配属がされなかった後の引き取りも、前代未聞だが行っている。ここに対し、緑殿は最初から知っていて、悪用しようとした疑いがかけられている」
俺が「しかし」と遮る前に、局長は続けた。
「しかし、お前たちも、彼らを信じたくはないか? 俺も個人的に、ルリアールさんとは友人でな。あの子が悪事を考えてるとはどうも思えんのだ。だから俺たちがすることは……」
――
俺は、鮪美の鋭い突きを避け、反撃に振り下ろす。
キィン!!
刃と刃は、けたたましい音を立てて鳴り響く。
互いに険しい顔を浮かべ、額に汗を流す。
そんな中、痺れを切らせた鮪美は、一歩退いて叫ぶ。
「ふざけんじゃねぇ!! 本気で戦え!! お前は蒼炎の剣士なんだろ……何故、蒼炎を出さない……!!」
「あ……? お前如きな、蒼炎なんか出さなくてもぶっ飛ばせるだけだっつーの!」
しかし、言い争いながらも分かっていた。
互いに、互いを殺す気がないことを。
ルリとロスタリアも同じようで、攻防を繰り広げてはいるが、お互いにどこか力を出し得ない様子だった。
「お前こそ……本当に俺をしょっぴいて、ここで罪人として裁く気があんなら……ぶった斬れよ……」
「はっ、そうしてぇのは山々だがな、お前相手だと能力が出なければ一太刀を浴びせることは難しい。俺の能力『死線』は、死を感じた時に発動する。しかし、お前といくら対峙しても、死線は一向に見えてこねぇ」
その言葉に、俺はつい口を紡ぐ。
(そうか……コイツの能力は死線を感じた時にしか発動しない……。俺が蒼炎を出さないことや、一歩引いて戦ってることも、それで分かられちまうのか……)
「なら、出してやるよ……蒼炎……!! いつまでもここにいる訳にはいかないんだ」
ボゥッ!!
俺は挑発に乗るままに、蒼炎を纏わせる。
(やはり蒼炎を出したか……。となると奴は……”黒”)
「オラ!! 行くぞ!!」
ガッ!!
勢い良く鮪美に飛び出した俺、鮪美は今までとは違う、真剣な眼差しで剣を構える。
しかし、
(死線が発動しない……? 奴は蒼炎を出しているのに……!)
バキッ!!
俺が狙ったのは、鮪美の刀だった。
蒼炎の纏った刀であれば、上から叩き付けるだけで相手の不意をつけば剣は簡単に砕ける。
「これでもう、戦いは終いだろ」
鮪美はただ黙って、砕けた剣先を見つめていた。
そして、上空に手を伸ばした。
「ロスタリア!! 戦闘は終いだ!!」
その合図で、ロスタリアも静止し、ルリとの攻防も静かに収まった。
鮪美は静かに、鋭い眼光で俺を見遣る。
「お前にとってあの婆さんは……なんなんだ?」
俺は刀を鞘に収めながら、静かに答えた。
「親だ」
鮪美はそのまま微動だにせず、少し微笑んだかと思えば再び睨み付け、背を向けた。
「お前ら、テレポート出来んだろ。すぐに行け。あの婆さんには……抹殺命令が出されている」
!!
「ルリ!! 学!! 早く行くぞ!!!」
そのまま、一呼吸も置かずに俺たちはルリのテレポートで家まで向かった。
「いいんですか? 命令違反なんてしちまって……」
「ふっ、何……お前もこっちを望んでた口だろ? 違反者どころじゃねぇ……反逆者になるぞ。いけすかねぇ特殊部隊の連中と、真っ向からやり合えるんだ」
「流石は死神さんだ。考えることが恐ろしい。まあ俺も、そっちの方が、俄然燃えますがね……」
――
緑は、待ち構えていたように、タバコを咥えながら古い友人を待っていた。
「お久しぶりです、緑さん。まさか、私が貴女を処刑しなければならなくなるとは思いませんでした」
「そうかい? 私は薄々気付いてたさね。もし私が罪に問われるとしたら、処刑人はアンタになるってね」
そう言う太々しい態度の緑に、白銀の女騎士は、静かに白銀の槍を自らの前に立てる。
「弁明は……しないのですね……」
「弁明はしないが、もし話をさせてくれる時間をくれるのなら、少しだけ昔話に付き合ってくれるかい?」
白銀の女騎士は、姿勢を変えずに頷いた。
「いいでしょう。五分間だけ許します。貴女にとっての最期の五分、思い残しのないようにお話しください」
緑は、タバコの煙をふわっと吐き出した。
「あれは、私がまだ、UT技術とやらに何の関与もなく、スカウトを受けなかった頃だね。雪の降る真冬の路地に、子供が捨てられてたんだ。私も別に、神様でもなければ、余裕のある富豪でもないからね、見捨てようとしたのさ。もちろん、拾って警察に届けはするつもりで近付いてみたんだけどね」
「それが……鯨井・LU・優……ですね」
「そう。近付いて見てみると、その赤ん坊は小さな侵略者に囲まれてたんだ。真冬の中、服も着ていないのに、凍死することもなく、侵略者からエネルギーを吸っていた」
「彼は異世界の者だと、認めるのですね……?」
「不気味だろ? 侵略者からエネルギーを吸い取り、雪の降る真冬でも生きながらえている赤ん坊さ。私は飛んで逃げたよ。関わらない方がいいと、本能がそう感じたのかもしれないね」
そう言いながら、再びタバコを口に咥えた。
「しかし貴女は……彼を持ち帰った……」
「気まぐれじゃないよ。私も夢を見ていたのさ。もしかしたらこの子を人の手で育てたら、異世界とこの世界との架け橋になって、今の侵略者の脅威から怯える生活を変えられるんじゃないか、ってね……」
そして、胸ポケットから取り出した小さな灰皿で、灰をぎゅっぎゅと押し当てる。
「私をここで始末するのは構わない。こんなことをお偉い方に隠してたんだからね。でも、あの子は……優の無事だけは約束してくれないかい? あの子は確かに異世界から来た子だけど、私が育てた地球の子。異世界の力は使えるかもしれないけど、人の為にその力を使える子なんだ。試してくれていい。ババアからの最後の頼みってことで、あの子達を試験して、生かしてやって欲しい」
ズッ……
緑が言い切った直後、白銀の女騎士は、何の躊躇いもなく、その鋭い切先を押し当てた。
「ちょっと……指揮官殿……まだ話の途中だったんじゃないでしょうか……?」
「私は初めから、”五分”と伝えていたはずだ。それに、緑さんはタバコで時間を測り、私に伝えたいことをしっかりと残した……。他の隊士たちにも伝えてくれ。『緑の庇護下にあった三名は、殺さずに捕えろ』と……」
そうして、一人の隊士を他の隊士の元へ向かわせる。
一人残った、白銀の女騎士は、地に伏した緑の姿を見遣る。
「昔と何も変わらないんですね、貴女は……」
そんな中だった。
「お前……何やってんだ……」
震えた声で現れたのは、テレポートしてきた優と、ルリ、学の三人が駆け付けた。