イギリスは午後のティータイムに命をかけている。そのことをフランスはよく知っていたし、それゆえに、わざと午後三時ちょうどに彼の家を訪れた。
「モンシェリ〜♪」
ワイン片手に、まるで自分の家のようにドアを開けて入ってくるフランスに、イギリスはげんなりした顔を向ける。
「おまえ、アポは……?」
「そんな無粋なもの、私の国にはないのよ〜。それよりティー、まだ?」
フランスはソファに座り、靴を脱ぎ、勝手にクッションを抱いている。
イギリスはため息をつきながらも、キッチンへ向かい、ティーポットにお湯を注いだ。
「なにしに来たんだ。まさか本当に茶が目当てじゃないだろうな」
「それもあるけど、ちょっと退屈してたのよ。ドイツは真面目すぎるし、アメリカはうるさいし。で、思ったの。“退屈”と言えば君だって」
「褒めてるつもりか、今のは」
ティーと一緒にビスケットをテーブルに並べながら、イギリスは眉をひそめた。
それでも、ティーカップはフランスの前にきちんと置かれていた。
「……サンキュー。ちゃんとレモン入れてるわね。愛を感じるわ〜」
「殺意なら感じてろ」
フランスは紅茶を一口すすり、ふっと目を細める。
「……でもさ、こうして静かにお茶できる相手って、意外と貴重よね」
「俺はおまえが静かだったことなんて一度もないと思うが」
二人は顔を見合わせ、少しだけ笑った。
ティーカップの中で揺れる紅茶の色と、赤ワインの深い色が、窓から差す西日で重なった。