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適性検査をしてからしばらくのこと。
今日はマトフさんのお店で初仕事。
リシュナから送られた前掛けを着けて、お店の中に立つ。
でも……「お客さん、いませんね……」
「今日は少々人通りも少ないからね。初日だし、楽にしてくれて構わないよ」
「いいえマトフさん。僕、しっかり稼いでマシェリさんにお金を返さないといけないんで
す! 呼び込みにいってきます!」
「お、おい。大丈夫か?」
「はい。任せてください!」
意気揚々と外に出てみたものの、やっぱり不安だ。アルバイトもしたことがないし。
けれど、せっかく雇ってもらったんだし、ボーっとしてるだけよりは体を動かそう。
「ロロアの装飾、道具店です。色々な商品を取り揃えています。良かったらご覧になるだけ
でも如何ですかー?」
恥ずかしいけど声を出してみる。
通りを歩く人は不思議そうにこちらを見ているが、気になった何人かは足を止めてくれ
た。
やっぱり呼び込みって大事なのかな。
「ここに薬品とかも売ってるかい?」
「はい。売っていますよ。ご案内しますね」
マトフさんに教えてもらったお店の商品。
全ては把握していないけど、種類別に覚えた項目は多い。
特に売れるのは日用品とのことだったので、その辺りは早めに勉強した。
こういうのは学校でも同じで、覚え易いものからしっかり覚えると、テストの点数も上
げ易い。
逆に難しい項目はまとめてチェックを入れて置き、時間をかけて考えて覚えないといけ
なかった。
順序を間違えると容赦なく学校の授業に置いてかれるんだよね……。
「おお。助かったよ。ちょうど切らしてたものが見つかった。この店、宣伝しておくよ」
「本当ですか!? 嬉しいです。有難うございます。またお待ちしてます!」
「いやー。実に気立てのいい娘さんだ。羨ましいねぇ」
「僕、男なんです……」
「おっとこれは失礼……」
やっぱりだ! 何回も間違えられる! でも忙しくて髪を切りにいく暇も無いからどん
どん伸びる一方だ!
どうしよう……借金だらけだし、身だしなみを整える余裕なんて無いや……。
「はっはっは。ファウ君。まだ七歳なんだからそこまで性別なんて、気にしなくてもいい
だろうに。むしろ可愛さを売りにして、商売繁盛させてくれたらいいさ」
「それは僕の心が傷つきますって……あれ?」
もう一度外へ呼び込みに行こうとしたら、外からこちらを見ている亜人の女の
子がいた。
外から見える商品を眺めているが、驚いた顔をしていて、口から二本の牙が覗いている
のが特徴的だ。
髪色は、トーナよりも黒寄りの茶色でサラサラした髪だ。
そして何といっても……頭の上の方にある、ふかふかしている耳が可愛い。
たまにぴょこっとその耳が動いている。
若干褐色肌で、自分と比較すると随分違って見える。
あの耳……確かオオグニ族っていう種族だったかな。
子供のオオグニ族は初めてみた。
マトフさんが呼んでおいでと言わんばかりにウインクしている。
入り口の扉を開けて、声をかけてみた。
「あのー。良かったら中で商品、見てみませんか? お嬢さん」
……あれ? 何かまずいこと言ったかな。
凄く不機嫌な顔になってしまった。
「俺は男だぞ! 失礼だろ!」
「ええーーー!? どこからどう見ても女の子……はっ!」
何て失礼なことを言ってしまったんだ俺は!
自分がされてて嫌だったことを他の人にもしちゃうなんて!
「ご免なさい! 本当に! この通りです!」
「別にそこまで謝らなくてもいーよ……よく、間違えられるし。その、お前は女だろ。名
前は?」
「僕も男なんだけど……」
「ええ!? 嘘だろ。どこからどう見ても女じゃんか……あっ」
「あーははは……なんか、お互い様だね。僕、ファーヴィル・ブランザス。皆からは
ファウって呼ばれてるんだ。君は?」
「俺はランド・ディアス。ラディって呼ばれてる。お前、ここで働いてるのか?」
「うん。今日が初日だけどね。お客さん、あんまり来なくて」
「この店って出来たばかりだろ。すげーいいもの売ってるけど、ちょっと入り辛い
んだよな」
「どのあたりが入り辛いか詳しく知りたいかも……」
「おう。今度な。そーいやお前、年は幾つだ?」
「まだ七歳だよ。ラディ君は?」
「君なんていらねーよ。俺は八歳だ。へへっ。なんかお前とは馬が合いそうだな……俺、買い物途中だったんだ。また来るからよ。入り辛さはそのとき教えてやる。それじゃな!」
「うん。またね、ラディ! ……行っちゃった。呼び込み失敗かぁ」
でも……まさか男の子だったなんて。あんなに可愛いのに。
信じられない。あれなら将来モテモテに違いない。
それにしても……「友達に……なれるかなー……」
この世界に来てまだ一人も男友達らしい友達がいない。
あれ? よく考えてみたら……エーテもトーナも家族みたいなものだ。
リシュナは友達って程の付き合いじゃなかった。
「もしかして僕、友達一人もいないー!?」
あまりの悲しい状況に、思わず外で、そう叫んでしまった。