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眠狂四郎
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上野文
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こはる
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眠りに落ちたランナは幼い事の夢を見た。それは15年以上前、ランナが3歳くらいの頃の記憶の回想シーン。
辺境の街、モーメントに住むランナの一家。父は聖者の医師で、母は聖女の薬剤師。その頃から自宅のリビングを診察室にしていた。
患者を診ている両親の側にいた幼いランナは、そこで少し年上の男の子と出会った。たまに昼間に来る患者の息子だと思うが、名前は覚えていない。
その男子は自分と同じ明るい金髪で、いつも弾けるような笑顔で話しかけてきた事だけは覚えている。
しかし、ある日突然。両親が幼い姉妹を残してどこかへ消えた。街の人から聞かされたのは、両親は亡くなったという事だけ。
幼い姉妹がそれを理解できるはずがない。悲しんだのか、泣いたのかさえ今ではもう覚えていない。
それでも近所の優しい人たちが家族同然に育ててくれたので不自由はなかった。それにポーラと一緒なら寂しくなかった。
あの男の子と会う事もなくなったが、今になって思う。
つい最近、あの男の子に似た金髪と笑顔を見たような……なんならキスしたような……。
そんな妄想のせいか、本当に唇に熱さを感じて夢から覚めてしまった。
ゆっくりと瞼を開けて瞳に光を取り入れようとするが、目に入ってきたのは金色の天井ではなく金髪の男だった。
(え、あれ? あの時の男の子? まだ夢の中かな……)
しかし、あまりに長すぎる唇の熱と強い圧迫で息苦しくなってきた。幼児のキスにしてはテクニシャンで濃厚すぎる。
次第に覚醒してきてランナが瞳を大きく見開くと、ようやく唇が解放される。それと同時に金色の前髪と赤い悪魔の瞳がランナの瞳を独占する。
「おはよう、ハニー。昼寝はベッドでしろよな」
「ヒル……くん……ヒルくん!!」
ニカッと白い歯を見せて笑うヒルの笑顔が眩しくて、ランナも笑顔で片手を振り上げるとヒルの頬を思いっきり叩く。
その衝撃でヒルはソファから転げ落ちた。少し大げさなのはヒルのノリの良さだ。
「おぉい! なんで嬉しそうな笑顔で叩くんだよ、お前はドSか!? 嫌いじゃないけどな!」
「だってヒルくん、遅いんだもん」
本当はキスの照れ隠しだが、やっとヒルに会えたのは素直に嬉しい。そして叩かれても嬉しそうなヒルは性癖を自らバラした。
王妃の自覚がないランナは、ヒルを国王としても夫としても見ていない。夫婦というより友達感覚のバカップルだ。
ヒルは床であぐらをかいて座ると、金髪をクシャクシャと掻いてバツが悪そうな顔をする。
「しかし、本当に呪いが効いてねぇんだな……って、ランナ、どうした!?」
ソファに両膝を揃えて座るランナは、膝の上に両手の拳を置いて顔を伏せている。その両肩は震えていて、拳の上に銀の雫が次々と落ちていく。
ランナが号泣していると気付いたヒルは、慌てて腰を上げてソファに飛び乗ると隣に座る。
「おい、泣きすぎだろ! どうした、何があった!?」
「もう……色々ありすぎで、グチャグチャだよぉ……」
ヒルは慰め方も下手で、ただ狼狽えている。それでも思い当たる節はいくらでもあるようで、ランナの肩を抱いて引き寄せる。
「あぁ、あれか……どうしようもないんだよ。体は1つだからさ」
ランナがなぜ心を乱されるのか。アサがモニカを愛する行為、ヨルがポーラを愛する行為。ランナを苦しめるのは、その愛や行為そのものではない。
今、肩を抱いているヒルの優しい腕も、重ね合ったばかりの唇も眼差しも。全てはヒルの別人格がモニカやポーラを愛して抱いた『体』と同一だという現実。
もしランナも呪いにかかっていれば、そんな疑問も苦しみも持たずにヒルを愛していたのだろう。その方が楽に生きられたに違いない。
「ヒルくんが呪いもかけられないヘタレだから辛いんだよぉ……」
「え!? なんだそれ、逆恨みだろ!」
そうは言うが、呪いの魅了の効果はないのに指輪は薬指から外れない。なんとも中途半端なヒルの呪いは滑稽で、もはや笑えてしまう。
ヒルはといえば、ふざけているようで大真面目な顔をしている。冷淡なアサとも冷酷なヨルとも違う、ヒルの純粋さは不安な心を明るく照らしてくれる。
「でもさ、愛って体じゃなく心に宿るものだと思うんだよな。だからオレの心はランナだけを愛してるぞ!」
「うぅ……ぷっ……ふふ……」
「泣いたり笑ったり、どっちだよ……」
ため息をついたヒルは、気を取り直してキリッと目を吊り上げる。ヒルにはゆっくりしている時間がない。これからの事を簡潔に決める必要がある。
ヒルはランナの両肩に両手を置くと自分の方に向かせる。ヒルの顔が近くて強制的に赤い瞳と視線が交わる。
「ランナ。改めて言う。アサとヨルを殺すためにオレに力を貸してくれ」
ヒルの口から放たれたのは、今もアサとヨルと同じで残酷な願望であった。
コメント
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第9話、読み終わりました!幼い頃の回想とヒルくんとの再会が重なる構成、すごく好きです。「あの男の子に似た金髪と笑顔…なんならキスしたような」からの「まだ夢の中かな」→濃厚キスという流れ、展開が完璧で笑いました(笑)。ヒルくんの「愛は体じゃなく心に宿る」って台詞、核心を突いてるのに純粋で、ランナが泣いたり笑ったりする気持ちがすごく伝わってきました。最後の「アサとヨルを♡♡♡」は緊張感が一気に上がりますね…続きが気になりすぎます!