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中等部2年生。元貴と滉斗の身長差が少しずつ開き始め、元貴の持つ中性的な透明感と、滉斗の増していく騎士のような佇まいが、クラスの中でも「公式」として定着してきた頃のことです。
国語の授業で扱うことになったのは、繊細な愛と絆を描いた名作物語。
「病を抱えながらも懸命に生きる少女」と、「彼女を陰日向から支え続ける不器用な少年」の物語です。
「少年役は、もう満場一致で滉斗だよな」
教壇に立つ先生も、クラスメイトも異論はありませんでした。鋭い目つきの中に時折見せる優しさが、役柄にぴったりだったからです。問題は、ヒロインの少女役でした。
「誰がやる……? かなり儚げな雰囲気じゃないと難しくね?」
クラスの女子たちが顔を見合わせ、少し気後れしている空気の中、クラスのムードメーカー的存在の男子が、ニヤリと笑って声を上げました。
「……元貴でよくね?」
「えっ、僕!?」
不意に名前を呼ばれた元貴が、驚いて肩を跳ねさせました。
「だって、元貴なら儚い感じも完璧だし、何より滉斗の隣にいて一番しっくりくるの、元貴じゃん! 性別とか関係なく、この物語の空気感、この二人そのものだろ!」
その言葉に、クラス中が「あぁ……!」「確かに!」「それ以外考えられない!」と一気に沸き立ちました。
「……おい。元貴に無理させるなよ。女の子の役だぞ」
滉斗が少し低い声で釘を刺しました。しかし、当の元貴は、耳元のノイズキャンセリングヘッドホンをそっとずらし、少し頬を赤らめながら滉斗を見つめていました。
「……ひろと。僕、やってみたいかも」
「もとき?」
「このお話の女の子、僕にちょっと似てる気がして……。それに、ひろとが支えてくれる役なら、僕、安心してできると思うんだ」
元貴の真っ直ぐな瞳に、滉斗はため息をつきながらも、降参するように髪をかきあげました。
「……わかった。お前がやるなら、俺も全力でやる。……絶対に、お前のこと守りきるからな」
この配役の噂は、瞬く間に高等部5年生の涼架の耳にも届きました。
「ええっ! 二人で主役!? しかも元貴がヒロインなの!?」
放課後の共用ホール。涼架はいつになく興奮した様子で、二人の前に豪華な差し入れを広げました。
「すごいよぉ! 脚本読んだけど、これ最後の方にすごく感動的なシーンがあるじゃない。……よし! 舞台演出と演技指導は、この『藍林檎学園の表現王』こと僕に任せて!」
「涼架さん、出しゃばりすぎ……」
「いいじゃない、滉斗! 記念すべき初舞台なんだから、僕も全力でサポートするよ!」
涼架はすでに「元貴をどうやって一番可愛く見せるか」という衣装プランまで頭の中で練り始めている様子でした。
その日の夜、寮の204号室。
消灯前の静かな時間、二人は向かい合って台本を開きました。
「……『君が隣にいてくれるだけで、僕は強くなれるんだ』。……あ、これ、僕のセリフ」
元貴が少し恥ずかしそうに読み上げると、滉斗が深い声で答えます。
「『……俺がいなきゃ、お前はダメだろ。ずっと、ここにいろ』」
「……ひろと、それ、台本に書いてないよ?」
「あ、悪い。……つい、本音が出た」
練習なのか、それとも日常なのか。
二人の境界線が溶け合っていくような、特別な演劇の授業が始まろうとしていました。
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