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こんなにすぐに泣くなんて情けない。でも我慢しようとしても出てくるんだ。
リアムが僕の髪を撫でながら何度も謝ってくれる。
「悪かった…フィルに聞いてから触れるべきだった。怖かったのか?」
「怖くないっ…嬉しかっ…た。でも…これ以上は…」
「わかった。なにか理由があるのだな?フィルがいいと言うまで触らないし詳しくは聞かない」
「うん…ごめんね」
リアムが少しの間、僕の顔を見つめてから「なあ」と口を開く。
「ずっと考えていたんだが。正直に教えてほしい。記憶を失くす前の俺は、フィルと会ったことがあるのだろう?」
「……うん」
「やはり」
リアムが顔を近づけた。
紫の瞳に、情けない顔の僕が映っている。
「フィルを見ていると懐かしい気持ちになるんだ。俺かフィルが、どちらかの国を訪問して王城で会ったのか?それとも街中で会ったのか?」
僕は顔を伏せた。
本当のことを言いたい。だけどリアムには自力で思い出してもらいたい。
「言えない…。リアムにはちゃんと思い出してほしいから。ただ一つ言えることは、僕はリアムに助けられたんだ。リアムのおかげで今、生きてるんだよ。だから…ありがとう」
ボソボソと呟いて、袖で顔を拭く。
リアムが慌ててタオルを持ってきて、僕の濡れた顔を優しく拭った。
「強くこすると赤くなる。そうか。俺とフィルの出会いは良いものだったのだな。そうか…何としても思い出したくなってきたな」
「うん…ゼノが言ってたように、近々思い出せるといいね」
「ああ」
リアムが笑って、顔を洗ってこいと僕の背中を押した。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった僕は、素直に頷いて、手をかざすと水が出る台がある部屋へと入る。入る直前にリアムに目を向けると、真剣な顔で自分の手のひらを見ていた。
どうしたのだろうと不思議に思いながら、顔を洗って備えてあるタオルで拭く。洗う時に毛先も少し濡れたので、タオルで拭いてハッとした。タオルに茶色の染料がついている。そうか…リアムが手のひらを見ていたのは、染料がついて汚れていたからだ。リアムは僕の髪をよく撫でていた。その度に手に染料がついていたかもしれない。きっと、僕が髪を染めていることに気づいている。
目立たないように染めていたのだけど、もうリアムにはバレてもいいかな。戦場で会ったのは一瞬だったけど、本当の僕の姿をよく見れば思い出してくれるかもしれない。
僕は今夜、リアムに銀髪を見せようと決心した。
今夜にリアムに銀髪を見せると決めたけど、その後に再び髪を染めなければいけない。だからゼノに染料をもらいたくて「取ってきたい物があるから部屋に戻りたい」とリアムに頼んだ。
「なら俺も一緒に行こう」
「一人で大丈夫だよ。リアムは休んでて」
「しかし」
「捕虜の僕に王子がついてたら変に思われるよ。それにゼノがいる部屋は近いから。すぐに戻ってくるね」
「わかった。誰かに声をかけられても無視していいからな。気をつけろよ」
「リアムって心配性だね。ふふっ、知ってたけど」
僕は笑って部屋を出た。
少し歩けばゼノのいる部屋はもう見えている。足早に進み、扉の外から声をかけようとして、いきなり背後から肩を掴まれた。驚いて瞬時に振り向く。僕の目の前に、金髪碧眼のどことなくリアムに似た男が立っている。
もしかしてこの人は…。
「あの…何かご用ですか?」
「見慣れない顔だが、確かリアムの隊にいたのを見かけた。誰かの部下か?」
この宿に来て、僕はシャツにズボン、丈の長い上着に着替えた。イヴァル帝国の軍服を脱いでいてよかった。
そしてリアムの隊にいた者は、僕が捕虜だと知っているけど、クルト王子は知らない。リアムがクルト王子とクルト隊の者には話すなと言ってくれたので、まだ知られていないはずだ。
僕は少し頭を下げて答える。
「はい。ゼノ様にお世話になっております」
「ふーん。いつから?」
「つい最近です」
「若いけど剣の腕前は?」
「人並みには…」
「魔法も使えるのか?」
「少しは」
「おまえ、名は…」
「クルト王子、こちらで何をしてらっしゃるのですか」
質問攻めにあい困惑していると、声を聞きつけたらしいゼノが出てきた。よかったと安堵した次の瞬間、聞き覚えのある声がして心臓が凍りつく。
「クルト王子は俺と待ち合わせをしてたんですよ。寝過ごしてしまって急いでいたら、おもしろいことになってますねぇ」
「ネロ、おもしろいこととは?」
「クルト王子、この人は…」
「おまえっ」
ゼノの後ろにいたトラビスが飛び出してきた。僕の腕を引いて背後に隠し、ネロを睨みつける。
ネロはクルト王子の隣に並ぶと、声を出して笑った。
「あははっ!なんであんたまでここにいるの?あーでもそっかぁ、側近の一人は今死にかけてるもんね。彼の代わりかぁ。あ、ねぇ、もしかして彼は死んじゃった?」
僕の顔が引きつる。ネロはラズールのことを言ってるのだ。そうだった。目の前にいる二人は、我が国を陥れようとした男と僕を殺そうとしてラズールを傷付けた男。
どうやら僕は、怒っているらしい。自分でも驚くほどの低い声が出た。
「死んでないし死なない。必ず助かる」
「なんで?あ、もしかして薬を入手したんだ?そこのゼノに頼んで?」
「違う。おまえに話す必要はない」
「そんなこと言うなよ。あんたは俺と親友になりたかったんだろ?」
「もういい。早くここを立ち去れ」
「えー?冷たいなぁ」
「ネロ」とクルト王子が僕とトラビスを見たまま話す。
「おまえはこの者を知っているのか」