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LAST

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――……微かな振動を感じる。頬をつつかれているような。何か、柔らかいものが頬に触れている。
ハッとして目を開けた。目の前には見たこともないような綺麗な顔の男の子。が、私の左右の頬に何度もキスをしていたらしい。
「へっ!? 」
彼は私が飛び起きると不服そうにゴロンと横になった。
ぼんやりとした頭と目が次第にはっきりしてくる。そうだ、私……。昨日この子と泊まったんだった。
自分の腕を枕にして恨めしそうにこっちを向く
「何で起こしてくれないんだよ。朝じゃん」
その拗ねたような顔に吹き出してしまった。
「だって、すごく気持ちよさそうに寝てたんだもん」
「まぁ、寝た俺が悪いんだけど。ちぇ、なんだよ」
「……何もしなくて良かったんじゃないの」
クスクス笑うとますます口を尖らせてしまった。
「まーね。ああ、惜しいことしたな。もう時間じゃん。延長する? 」
「しないわよ」
「じゃあ、今からどっか行く? 」
「行かない。ちゃんと寝たいし、家のこともしたい」
「明日休みっしょ」
「そうだけど、調子乱れるんだもん」
あなたみたいに若くないから、と言いかけて口を噤んだ。
「んー、まぁ俺も今日は夕方からバイトだ」
チラ、時計を見る。と、大きなため息を吐いて私に向かって大きく手を広げた。
「何? 」
「ハグ。こんくらいいいだろ」
昨夜のキスみたいに不意を突かれたなら受け入れたけど、自分から動かなきゃならないというのは勇気がいる。
「早くしろよ」
言い方がわがままで笑ってしまう。わずかに近寄るとグイッと引っ張られ、抱きしめられた。ごろん、と転がる。今度は反対側にごろんと転がった。
温かい。弾力と心地よい人の体温が伝わってくる。包みこまれる安心感に何かが満たされる気がした。ずっと恋しかったもの。
しばらくそのままで、黙って彼に抱かれていた。
現実に返ったのは、身支度のために鏡の前へ立った時だった。
まともに寝ていない飲んだ翌朝のすっぴんはひどいものだった。それを若くて綺麗な男の子の前で、至近距離で晒したのだからいたたまれない。
「もうちょっとゴロゴロしときたかったんだけど」
ベッドで一人ゴロゴロしてる彼から文句が飛んでくる。
「あのねぇ、コンディションの悪い素顔を何とか見れる状態にするのに時間がかかるんだってば」
「平気だって。気にするほどじゃ」
「あなたは黙ってて」
この子に言われると倍は腹が立つわ。
ベッドから吹き出す声が聞こえた。
「ね、どっか行こうなんて言わないからせめてどっかで朝ごはん食べて帰ろ。腹減った」
「……わかったわよ」
私が頷くと彼は満足そうに笑い、ギリギリまでベッドでゴロゴロしながら私がメイクするのを見ていた。ああ、もう恥ずかしい。
外に出ると一気に異世界から戻ってきた気分だ。
「近くのカフェでいい? 」
「うん」
朝からカツサンドにかぶりついてる若者を横目にパンケーキを口に運ぶ。
「よく食べるわね」
「あー、うまいよ。食べる? 」
「遠慮しとく。朝から揚げ物は……」
「ゆーて、そんなカロリー変わらないと思うよ、そのホイップ」
「確かに」
でもさ、疲れてたんだもん、甘いもの食べたいじゃない、と心の中で言い訳する。
「この後どうすんの」
「えっと、買い出しに、掃除して、洗濯して、寝不足だから早めに寝るかな」
「ぶれないな。もうちょっと俺といたい、みたいなの無いの」
言われてきょとんとしてしまった。
ずっとこんな生活をしてきて、恋人も社会人だったら無茶のないリズムで会っていた。
「そっか、週明けの事考えたらリズム崩したくなくて……」
「はは、そっか。なるほど、社会人ってほんと忙しいだね」
「……ごめん。えっと、だから……」
年相応の子と付き合ったらどう、って私は思うんだけど。
「わかった」
彼が遮るから、最後まで言えなかった。
わかったって、どういうことだろう。
店から出て最寄り駅まで歩く。歩くスピードは随分とゆっくりだ。不意に手を取られてビクリとしてしまった。見上げると彼はにっこり笑う。
……う、何だろう。調子狂う。
「週明けに、絶対に疲れを残したくないんだね」
「そうなの。でもたまには出かけたりはしたいよ。ほんとにたまにだけど。連休とかあれば」
「ふ、わがまま」
「ごめん……」
この子には今日どこか行ったりする計画があったかもしれない。でも、それを聞いちゃうとそうしなきゃならなくなるのもなぁ、と黙っていた。
「ごめん」
悪かったかなぁ、ともう一度謝罪を口にした。
「何が? 」
「昨日、起こさなかったし。結局あなたにメリットなかったでしょう? 」
「メリット……? 」
「そう、あの、えーっと、すっきりもしなかったし」
濁して言うと、彼はハッと目を見開いた。
「はぁ? 」
「いや、だって、ほら。したくて無理にでも会ったのかなって」
今度は思いっきり顔をしかめた。
「いやいや、俺の脳みそチ〇コかよ! 」
あまりの言葉に慌てて彼の口を押えた。
「ちょっと、なんてことを言うのよ。声、声ってば!」
私の手を振り払ってギッと睨む。
「なんてこと言ったのはそっちだろ! 俺の純粋な気持ちを性欲処理変換しやがって! 」
また彼の口を押えようとする私の手を掴むと、彼はくっくと肩を揺らした。
「ごめん、ごめんって。でもほら若さってそうなのかなって」
「まだ言うかぁ。まあ、したかったけど。春美ちゃんとね。んとにひでえな。すっかり虫扱いだぜ」
「怒ってるのに笑ってくれるの」
「だって、仕方がないだろう。こういうの、惚れた方が負けって言うし」
私は驚いてハッと手を離した。
「あなた、私のこと……好きなの? 」
七瀬広睦は数秒私を見つめて、それはそれは綺麗な顔で微笑んだ。
「さあ」
コメント
1件
朝のベッドシーンから始まる空気感がめっちゃ甘くてドキドキした…!七瀬くんのわがままなのに可愛い感じと、春美さんの年上ならではの気遣い&照れのバランスが絶妙すぎる😭💕特に「惚れた方が負け」からの「さあ」って返し、最高すぎて叫びそうになった!!次が気になりすぎるよ〜〜🌸