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LAST

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言葉は胸を甘く疼かせ、とげが刺さったようにいつまでも残った。
家に帰ると、いつもどおり週末のルーティン。一通りの家事を済ます。
こころ、ここにあらずだった。
『さぁ』
って何?
彼の笑顔が頭から離れない。
そりゃあ、私のこと好きだろうな、なんて思ったことないけど。でも、じゃあ、何であんな事言うの。完全に翻弄されていて『さあ』に傷つく自分もいて。『惚れた方が負け』に期待を寄せている。
片付けもそこそこにソファに腰掛け、ため息を吐いた。
眠いはずなのに、眠れそうもない。
なんなの、あの子――。
ブブッとスマホが震えて顔を上げた。
七瀬広睦からだった。
『性欲と恋情の区別はついてる』
ぶっと吹き出してしまった。根に持ってるし、続けて送って来たジト目にのスタンプが面白かった。
『ごめんって』
つまり、これは、あなたの恋情なの?そう聞きたいのに勇気が出なかった。だけど、いくらか心のもやは晴れていた。あー、なんだかんだ今日一日あの子の事を考えて過ごしてしまった。
これ、本当にまずい気がする。そう思って思い出した。私は――結婚がしたい。
あの子に離婚歴があるってこと。ピンと来なくて昨夜は一瞬忘れていた。……違う、夕べは私も少なからず浮かれていて頭が回っていなかってってこと――。
そうだ、紙だけの問題だとしても。あの子、結婚してたんだった。
どんな人だったんだろう。
これきりにするなら気にしても仕方がないはずの事が気にかかる。ああ、もう。結局感情がぐちゃぐちゃだ。
ただ、私の心の中で七瀬広睦はころころと表情を変え、最後にはドキリとする笑顔を浮かべる。そのたびに私は胸のとげが疼く気がした。
――結局私は日曜日も七瀬広睦のことばかり考えて過ごしていた。つまり、週末のだいたい。
彼からは特にあれ以来連絡はなかった。以前言ってた通りそう恋愛に依存しないタイプらしい。それか、私にさほど興味がないか。
一般的に好みが偏らないほどの容姿だ。モテるに決まっていて、私に執着する必要もないような子だ。
休日は何をしているんだろう。夏明けにはバイトもやめるって言ってた。バイトをやめてあとはどうするんだろう……。
先を考えない関係では必要ない情報なのに、気になる。知ってどうするのって思うのに、気になる。ダメだ、このままじゃダメ。
明日は仕事だから今日は家にいようって決めてたのに。
立ち上がり、部屋着からお気に入りの服に着替えた。髪も整えてメイクもしっかりして出かける。家にいると色々考えすぎてしまう。気分転換に街に繰り出すことにした。ウィンドウショッピングでもして考えすぎる時間を失くそう。気分転換しないと。
電車に揺られ、外の景色の手前、ガラスに映る自分を眺めていた。
めかし込んでも年相応の姿が映っていた。
街の雑踏は部屋の静寂より今の私には快適だった。
いつもよりカジュアルなブランドを覗いては意識があの子に向いていることを思い知らされた。
ああ、まずいまずい。
色んな人とすれ違う。小さな子供を連れた夫婦、家族連れ、親が私と同い年くらいだ。そう、私はあっち側の年だよね……。ふと、学生だろう団体とすれ違う。賑やかな雰囲気に若さが滲んでいた。
そうだよね、あの子はあそこにいる側の人間で……。
不意に追っていた目が留まった。
向こうも私を目で追い、しっかりと目が合うと目を見開き、ふいっと顔を逸らし、その子たちと雑踏に消えて行った。
あの子だった。
無邪気に友達と笑う、七瀬広睦がそこにいた。彼がいる場所だった。
目、逸らされちゃったな――。
そりゃあさ、友達に『彼女』だって紹介してくれるとは思ってなかったけど。私を見つけて駆け寄ってくれるとも思っていなかったけど。
虚しさが胸をかすめる。
あれが普段の七瀬くんで、普段の彼の居場所。
あのグループには短いトップスから華奢なお腹が出た女の子もいた。私の友人たちとは全然違う……。私はもう一生人前でお腹は出せないな……。
……何してるんだろう。重くなった足を引きずるように歩いた。何で落ち込んでるんだろう、私。
せっかくだから、何か美味しい物でも食べて帰ろうかと思ってたのに。
何か買って帰らないと家に何もないのに。
街中のベンチに意味もなく座る。
用事もなく、気分転換にもならないなら帰るべきなのに。明日は仕事なのに。
「うぉい、明日仕事だから家にいたいんじゃなかったんですかぁ? 」
上から声がして飛び上がった。
「七瀬、くん」
「あー、まぁそうだけど。誰か待ってるわけ? 」
「ううん、ちょっとウロウロしたくなって家出て来たんだけど、疲れて休憩ちゅう……」
何で言い訳がましくなるんだろう。だって彼の目がじっとりしているから。
「んじゃあ、一人? 今からも」
「うん。あ、七瀬くんは友達」
「彼女見つけたから帰るつって別れたけど」
親指の先で指した方向を見るとさっきのコたちがこっちを見ていて、七瀬くんは手で追い払うジェスチャーをした。
「え、彼女……」
そう溢すとイラッとした表情をした。
「んだよ、彼女だろうがよ」
「あ、それ、なんだけど。言ったの、友達に」
「言うよ、何で」
「恥ずかしくないのかなって」
七瀬くんは大きなため息を吐いた。
「なぁ、暇なら会わねぇ? どうかな。今の時期は特に。まだ全然コミュニケーションとれてないじゃん」
「どうして私と付き合うのかわからないよ。無かったことにすればいいのに、どうしてあなたが引き留めるの」
そうだ、最初からこう聞けばよかったんだ。
コメント
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「うわー、この回、やられた…」 七瀬くんの『性欲と恋情の区別はついてる』のライン、笑ったけどめちゃくちゃ効く。主人公が年齢とか自分の立ち位置を雑踏の中で突きつけられて、目を逸らされた瞬間の虚しさがすごく伝わってきた。あのギャルグループの華奢なお腹の描写、何気ないけど刺さる。 「彼女」発言で怒る七瀬くんも面白くて、やっと核心に近づいた感じがする。この距離感、どう転ぶか気になる。