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#恋愛
水無月 京
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いよいよ社長選が迫ってきた。
実際に投票権を持つのはパートナーの数十人だけで、数千人の社員は直接的には関係がない。
だけど、この一連の活動が“影響ない”かというとまたそれは別問題で。
「最近、要らん議論が増えましたね」
近くの座席に座っていたシニアマネージャーが大きなため息をつく。元々精悍な顔立ちだったけど、今は何だか疲れて見える。
「そうなんですか」
どうしましたか?と控えめに尋ねてみれば
「あの憎き社長選のせいですよ」
と吐き捨てるからこれは相当ストレスが溜まっているように見える。
「何が一番しんどいんですか」
「そうだな…プロジェクトの契約を巻くタイミングで、結構色んなユニットのパートナーが貢献を主張してきて、ユニットの功績をつくろうと必死っすね」
「ザ・社内政治じゃないですか」
尋ねた身で申し訳ないけど、あからさまな政治に乾いた声が漏れ出てしまう。
社長候補の動きを見据えて、何なら当選後の自分のポジションを意識して、今のうちにプロジェクトをどれほど獲得できたか実績づくりに励んでいるらしい。
「本当にね。誰もクライアントにも、現場のメンバーにも目を向けてないんだもん」
困っちゃうよ。
シニアマネージャーとして、実質的な現場の責任者を担うことが多いであろう彼。その彼の発言ともなれば現場に結構影響が出ているのかもしれない。
「何か、大豆生田さんに依頼したり、改善を頼めることはありませんか」
ちょっと出過ぎた真似かもしれないけど、私が間接的に伝えることはできるはずで。何か目の前で疲弊するシニアマネージャーの力になれないだろうかと、考えを巡らせていれば。
「ああ、大豆生田さん?彼だけは平常運転よ」
彼は苦笑いしながらコーヒーを流し込む。
「逆に、彼ぐらいなんじゃないの?あんなにいつも通りな人」
「…へえ。想像つく気はしますけど」
「でしょ」
ようやく少しだけ明るい笑顔を見せてくれるシニアマネージャーは、「ああいう人珍しいよね」と呟く。
「優秀な人ほどポジションとか地位には拘らないのかなあ」
「なんか理解できる気はします」
「だよねぇ」
一種の世捨て人と言うかねぇ。あ、やば俺会議じゃん。
ごめんね、とこちらに目配せをして、慌ててパソコンをつかんでどこかの会議室に走り去っていく彼を見送り、再びパソコンの画面に視線を戻す。
こちらこそ、余計なお喋りをしてしまったかな。
とはいえ。
最近この手の疲弊じみた言葉はとてもよく聞く。この間たまたまコンビニで出会った梓も似たようなことを言っていてげっそりしていた。
ピコン。
画面上にある、チャットのアイコンが明滅し、控えめな通知音を鳴らす。
アイコンをクリックして画面を開いてみれば、
「あ…」
相手は伊藤さんの秘書だった。
最近すっかり音沙汰がないから、会食のスケジュールを立てるのが列後してしまっていた。
いや、そういうと秘書失格でしかない。どちらかというと、催促があるまで寝かせておいた、というのが正しい。
とはいえ、豆さんが忙しいのもまた事実で。あの夜ディナーに行けたことは、今思い出しても奇跡のようなものだった。
「●月●日、19時からxxにて会食をセットさせていただきました」
場所を決めてくれと言われていた気がしたけれど、彼女が手配までしてくれたようだった。
「ありがとうございます」
お礼を打ち込み、別途送られてきたインビテーションを確認する。会食の場所は、オフィス周辺かと思いきや、新宿の賑やかそうな場所にある高級そうな和食店だった。
「めずらし」
呟きながらインビテーションを閉じる。
豆さんにも後で報告しないとな。今日も個室は空っぽだ。確か昨日から関西のクライアントをいくつか訪問して、関西企業で作っているコンソーシアムにも顔を出して。
挙句、大学主催のビジネスコンテストの審査員も務めて帰ってくるとかで、相変わらずの過密スケジュールだった気がする。
交通手段や宿泊先を手配する関係上、おかげさまで大阪・梅田や淀屋橋を中心として関西圏の地理にはだいぶ詳しくなってしまった。
「最近は大阪駅の北エリアの再開発がどんどん進んで行くたびに別の場所になってるわけよ」
だからいつも迷子になるよねー、と。
気鋭のベンチャーや、老舗企業のイノベーション部隊が好んで集う土地になりつつあり、豆さんが足繁く通わざるを得ないエリアになりつつあるらしい。
「へぇ、良いですね」
「今度一緒に行く?」
ネットで調べてみても、思ったよりもゆったりした雰囲気で緑も多くて案外リラックスできそうな場所に見える。
「はは、機会があればぜひお願いします」
豆さんと出張に行くなんて夢のような機会、いつかあれば良いけど。