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「サラはさぁ。マジメ過ぎるのよぉ」
引き続きベッドで横になったまま、リズに色々と悩みを聞いてもらっていた。
するとこんな風に、可愛そうな子を見るような顔で言われてしまった。
「そうかなぁ? 普通だと思うけど」
「もっとねぇ、てきとーに聞いておけばいいのにぃ」
「適当って、大事な話とかはどうするのよ」
「たとえばぁ?」
と言いながら既に、リズは自分の爪を眺めはじめた。
次は何色にしようか、なんて考えていそうだ。
「た、たとえばさ。人間から『お前は魔族だろう!』って言われたら?」
「えー。そうなんだぁ? って言うかな~」
「しょ、証拠はあるぞ! しらばっくれるな!」
「んふふ、それでぇ?」
……えっと。
このまま、寸劇を続けるのかしら?
「ま、魔族は敵だ! 今すぐ斬り殺してやる!」
「え~? こわぁい。私のこと、ころしちゃうんだぁ」
――う~ん。騎士団長なら、こんな感じよね。
「け、剣のサビにしてくれる!」
「じゃあ……お別れよねぇ。とか言いながら、転移しちゃえばいいじゃない? 私よりサラの方が、上手いんだしぃ」
「え。あぁ……なるほど?」
話になってないけど、確かにリズはいつもと変わらない。
「でしょぉ? サラはどーせ、魔族だったら何なんですか! とか言ってそぉよねぇ」
「そ、そこまでケンカ腰じゃなかった……わよ」
リズはケタケタとひとしきり笑ってから、私を見た。
寝返りして、こちらを向いた拍子に金色の髪がひとすじ頬に掛かったのと、上目遣いとが相まってなまめかしく感じる。
リズは本当に美人だから、女の私でもドキっとしてしまう。
「今度はいやらしいコト考えたぁ」
「か、考えてないわよっ」
「分かりやす過ぎてぇ……ちょっと、心配なレベルねぇ」
本気で心配そうな顔をされると、心に刺さるものがある……。
「ど……どうしたら……いいかな」
「フフッ、カンタンなのに。アナタ自身の可愛さを、もっと自覚すればいいのよ」
リズは甘い笑みを浮かべていて、けれど言葉は、少し真剣だった。
「か、かわいいって……」
「鏡を見てる時は、自分で見惚れてるクセにぃ」
そう言ってまた、ケタケタと笑う。
「わらいすぎ!」
――いつそれを見られたんだろう。
恥ずかし過ぎて、とっさに枕で顔を隠してしまった。
「アハハハ、でもほらぁ、恥ずかしがってないで聞きなさい」
枕で半分顔を隠しつつ、聞くつもりはあると目で訴える。
「あなたが相手にしているのは、人間でしょぉ?」
「うん」
「それも、男よねぇ」
「そう言われたら……そうね」
「あのねぇ、何のために夢魔の魔法、教えたと思ってるのよ」
実は、このところ人間との接触が増えているからと、教えてくれていた。
「あっ……、えっ、でも……」
「使っていいのかじゃなくてぇ。使うの」
精神に作用する魔法を、おいそれと使っていいものかという倫理観は……リズにとって不要なものらしかった。
それでも、気が咎めることだから確認はしておこうと思った。
「リズは、普通に使ってるの?」
「場合によるけどぉ……あなたはいつでも使うつもりで、ちょうどいいんじゃない?」
私がバカ正直に、誰彼構わず使うようになったら、責任取ってもらおう。
「サラ……言っておくけど、場合による。って私は言ったからね?」
「うっ」
「何考えてるかくらい、目を見たら分かるわよ……サラもちょっとくらい、わかるでしょぉ?」
「……たぶん?」
そう言うと、リズは大袈裟なため息をついて、「慣れなさい」と言ったままお昼寝を決め込んだ。
「な、なによ……私だってうまく出来るし……」
――次に商工会会長と話す時は、私もやってやるわ。
……とは言ったものの、黒髪センター分けは解任になって、次に話すとしたらウレインだろうから……使わなくて済みそうだけど。
そんな「悪巧み?」をした次の日には、ウレインからまた、面会の申し込みがあった。
ホテルも存分に使えばいいのよというリズの言葉に流されて、ベッドでごろごろしている時にドアフォンの呼び鈴が鳴ったのだ。
髪に寝グセがついているから、後ろでシェナが隠れながら、髪をギュッとしてくれている状態で通話に出たけど。
それにはたぶん、ウレインは気付いていなかったと思う。
ドアフォンのモニター越しの感触だけど、わりと深刻そうな顔をしているままだから。
私なら、気付いたらふき出している。
「ただ、面会と申しましても先に、個人的にお話したい事がございまして……」
ウレインにしては、歯切れの悪い。
「分かりました。では、下に降りますね」
「ありがとうございます。それでは、聖女様の良いタイミングでお越しくださいませ」
そう言って、通話は終わった。
――うん?
「私の良いタイミングで?」
「お姉様。ウレインは見抜いています」
「そっか…………。これからは、起きたらちゃんとする」
本当でしょうか。という、シェナの小さなひとり言は、聞こえなかったことにした。