ウレインは深刻そうな雰囲気を出さないように、細心の注意を払っているように見えた。
ホテルの二階にある豪華な応接室に通されて、大理石のテーブルを挟んで向かい合ったその印象は、間違いなさそうだ。
「このホテルは、どのソファも座り心地がいいですね」
彼が主導してくれると思っていたけど、私をじっと見たまま喋ってくれない。
「ウレイン……?」
会長に戻ると言っていたのが、上手くいかなかったのだろうか?
「あ、いやこれは、失礼致しました。私がお呼びしたというのに」
どんな時でも、スマイルのポーカーフェイスを崩さないと思っていたのに。
「私の顔に、何かついてますか?」
急いで顔を洗ってきたから、そんなハズはない……ハズ。
「コホン。……聖女様、それでは単刀直入にお伺いします」
「ええ」
――あ、そうか。
ここに来て彼は、私が魔族であるというのを、黒髪センター分けから聞いたんだ。
「聖女様が魔族であられると、前会長から引継ぎを受けました。それで、その、それは事実なのか……というのを、今一度ご確認させて頂きたく思っております」
「……そうでしたか」
やっぱり、そういう反応になってしまうんだというのが、ちょっと寂しい。
――人間と魔族は、仲良くなれないんだ。
「ええ。魔族です。でも……」
でも私は、元は人間だったし、同じ転生者じゃないですか。
喉元まで――いやもう、あとほんの少し息を吐けば、その言葉が出たはずなのに。
「でも?」
「……いえ。何でもありません」
口から先に出られたのは、ため息だけだった。
ホテルも出て行かないと。
自分から出るつもりだったのに、ここに来て追い出される形になるのは、釈然としない。
「そうですか……やはり、魔族というのは本当なのですね」
「黙っていたのは謝ります。でも、そうと知られたら人間は皆、攻撃してくるから。私は別に、争う気なんてないんですけどね……」
私が魔族だったから、ここまで強力な治癒魔法を使えるのに。
聖女様と勝手に崇めて、勝手に持ち上げておいて、魔族だと分かったらこれだ。
人間というのは、本当に身勝手な――
「――聖女様。それでは報告にあった、魔王の奥様というのも、本当なのですね」
「そうですよ。あの人の妻です」
「なんと……」
その彼の態度に、私は魔王さまに危害を加えるつもりがあるのかと、反射的に思った。
「ウレイン! もしもあの人に何かを企んでいるなら、私であっても人間を許さないから!」
身を乗り出して、声を荒げてしまった。
でも、私を嫌うだけならともかく、あの人によからぬことをするなら――。
「ち、違います! 聖女様に、魔王……殿への、お取り次ぎをお願いしたいのです!」
その言葉と、咄嗟にかぶりを振る彼の仕草に、私は乗り出した身を引いた。
「……取り次ぎ?」
仮に暗殺を企てているとしても、人間の力でどうこう出来るはずがないし……。
「一体、何をするつもりで――」
「せ、聖女様。我々は和平のためのお話がしたいのです! 国としての意向とは別ではありますが、商工会は魔族と和平協定を結びたいのです!」
「わへぃ……?」
――わへいって、何だっけ。
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