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とが
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「イタリア王国なんよ〜」
「…あーあ。こんなにボロボロ!」
足早に駆け寄ってきては
顔や手、首を遠慮なしに触られる。
裏切り者。
一体、何の用だ?
米帝は何を考えてコイツを呼んだ?
「かわいそ〜…」
「あ、日帝ってさあ!」
「ナチのこと好きだったよね?」
「………」
「答えてよ!ま、知ってるからいいけど」
「じゃあ…どこまで行った?」
「……は?」
「喋った!ねえ、キスは?」
「それとも…もっといいことした?」
何の話をされているのだ。
訪ねてきて、再び会わされて、この話。
目的もなにもかも、分からない。
頭が混乱してしまいそうだ。
「もー…答えてくれなきゃわかんない!」
「答えないなら答えないなりになるけど」
「……いいってこと?」
「貴様。どういうことだ」
「まず、質問に答えて」
「…私とナチスはただの仲間だった」
「それ以上でも、以下でもない」
「へえ。そう…嘘つくんだ」
「僕が裏切ったから?教えたくない?」
「実はもう、ナチから聞いてるんだ〜」
によによと気味悪く笑う、その顔。
気色が悪い…吐き気がしてきそうだ。
嘘をついたのは確かだが
お前の言う通り、
お前に話す筋合いこそないものだ。
口角を上げたまま、話し始める。
「愛し合ったんだって?」
「傷の舐め合いみたいだね…ねえ?」
「…僕の相手もしてよ、日帝」
すぅ、と目から光が消える。
奴が私の方へ首を傾けたのだ。
不気味な紫色。ナチスと、同じ色。
なるほど。
…死んだ方が、マシだった。
眩しい白の軍服をあいつは脱いでいく。
この脚のせいで、逃げることもできない。
屈辱だ。
ああ、恐ろしい、獣の瞳。
「ねえ、悔しい?屈辱的?」
「恨むなら僕じゃなくてアメリカにして」
「……」
「あは!良い目…絶望してる…」
「あんなに頑固で、諦め悪かったのに!」
レザーの手袋をつけた指が輪郭をなぞる…
厭らしく、不気味な顔だ。
随分と嬉しそうに笑うじゃないか。
私の気など知らずに。
黒光りするブーツが私の足を跨ぐ。
小さな窓から僅かに雨音が聞こえてくる。
「…舐めてよ。やったことあるでしょ?」
「……嫌だ、…と言ったら?」
「アメリカには悪いけど、拳銃がある」
「銃口を咥えてもらうことになるよ」
「嫌だ」
「…」
腰から抜いた真っ黒な銃。
大人しく口を開いて、その銃に噛み付く。
面白くなさそうなため息が聞こえる。
カチ、と軽く引き金が引かれる音…
僅かに押し出された空気が口蓋に掛かり
仄かな火薬の臭いが口腔に満たされる。
虚しい音…
弾は込められていなかったらしい。
銃身を口から引き抜かれる。
「アメリカに怒られちゃうんよ」
「…日帝は知らないだろうけどね」
「アイツは、日帝のこと気に入ってるよ」
「は。気持ち悪い…」
「お前が私に気があるなら、少し手伝え」
「…なにをするの?」
「私の舌を引き出して、摘んでいてくれ」
「舌切り?だめなんよ…」
「アメリカに怒られちゃう」
「いくじなし」
「私はお前や米帝の相手など」
「…死んでも、しなくない」
「知ったこっちゃないんね」
「でも…可哀想な日帝!」
「情は掛けてあげるんよ〜」
その長い足の節を折り曲げ、
すっと身体を屈ませる。
吐息が掛かるほど、顔が近い。
薄い香水の匂い…吐き気を催す臭い。
鼻の先が触れ、頬に指がいやらしく這う。
唇に暖かく柔い、薄皮越しの…肉の感触。
一度離れ、ふたたび口が付けられる。
頭をよじって抵抗しようとも
骨ばった硬い手が真正面へと押し戻す。
僅かなリップ音が耳に届く。
短い接吻を幾度も繰り返され、
その度に唾液で濡れてゆく唇も
口から漏れ出て、掛かる息も
全部全部、全部…気持ち悪い!
「…こっち向いてよ」
「日帝、僕はこんなに…こんなに…」
「やさしくしてやってるのに」
「黙れ」
「貴様の都合で世界は動いてなどいない」
「世界じゃなくって、日帝の心!」
「アメリカみたいに傷つけてないんよ」
「…何がだめ?昔は、…仲間だった」
「裏切り者に情が湧くとでも?」
「笑わせるな。この、鬼畜が」
「…そういうところは変わってないんね」
「でもね、日帝」
「立場っていうのも弁えた方がいい」
夕闇に潜む化け物ような、恐ろしい瞳。
変わらない。
裏切り者のお前も、鬼畜米帝も。
邪な心が頭を支配する哀れな生き物だ。
最早、人などではなく獣。
人の言葉を流暢に話す、化け物だ。
私を組み伏せ、見下す顔は笑っている。
楽しそうに。
翳るその顔に昔の面影など無く。
せめて私にくすぶる欲や愛があるのなら
ひとつ慈悲でも寄越してくれればいいのに
我ながら甘えた考えだ。
これもまた、罰なのかもしれないな。
欧米や欧州の者共はやたらと抱擁を好む。
コイツも同じらしい。
私の身体を後ろからきつく抱きしめて
軍服越しに腹や胸を撫でる。
くすぐったい感覚が続く…
こんな事をするくらいなら早く終わらせろ
…なんて、心から願うばかりだ。
「ねーえ、脱がせちゃってもいい?」
「……勝手にしろ」
「じゃ、遠慮なく」
無理やりに抱き起こされ、
ボタンを外される。
こんなの、名誉とは程遠い行いだ。
行う方も…行われる方も。
長ズボンとインナー1枚姿の此奴の体温が
丁度今脱がされた服の下…
素肌に、直接伝わる。
臀部と腰の間に当たるモノの感覚に
今までに無いほどの気持ち悪さを覚える。
下着の上から臀を揉まれ
不快さから思わず、足で奴を蹴る。
するとすかさず臀を思い切り叩かれる。
…想像以上に、痛い。
「だめなんよ。歯向かっちゃ…♡」
「日帝には負け犬がお似合いなんね」
紅潮した頬がより彩度を増している。
右手に着けていたレザーの手袋を外す…
その下は、皮膚が溶けたような見た目で
私の左半身と似たような質感をしている。
「おそろい。デコボコで、ピンク色」
「これはナチに焼かれたんよ〜」
愛おしそうに、左手で火傷の痕をなぞる。
その後、私の背の傷も撫でる。
僅かな裂傷から、大火傷の痕まで。
くまなく…全て見尽くすように。
その指は段々と
肩から背、背から腰…川のように下る。
仙骨の上でその指は止まり、
そこを指でトン、と打つ。
「ナチはいっぱい話してくれた」
「…なにせ、お薬を沢山飲ませたからね」
「特に日帝の話が多かったんよ?」
「…それは、嬉しいことだ」
「ナチは日帝の声が好きだったんよ」
「鈴を転がしたような声…ってね」
「甘くて、もっと聴きたくなるんだって」
「…私はそんな声ではない」
「違う違う!行為中の話なんよ!」
「…ああ、気になって仕方ないんね」
「僕はちゃんと、これ持ってきたんよ」
小瓶に入った、白みがかった薬剤。
それが何であるのかなど知りたくもない。
大きめなコルクが引き抜かれ
奴の指にその薬剤が掬われる。
軟膏くらいの柔らかさのようだ。
「下着下ろして、四つん這いになって」
「…もう!さっさと諦めてよ!」
「私の事を気絶させてからやればいい」
「全て簡単に事が進むはずだ」
「事をするのが目的じゃないんよ!」
「愛し合いたいの!…ね、お願い」
「僕、明日処刑だから…最後くらい…」
「はあ?明日処刑だと?」
「私の処刑はいつだ」
「処刑はもう済んだことになってるんよ」
「日帝が生きてるのはアメリカの厚意!」
「最悪だ」
「ねえ、それで!僕に情は湧いた?」
「……そっぽ向かないでよ」
「可哀想だが、…」
「お願い…」
「僕はまだ、日帝に傷一つ付けてない」
「これを誠意って受け取ってくれない?」
「…今の私の立場を教えてくれないか」
「今?…存在しないことになってる」
「だから立場も…0どころかマイナス」
「奴隷どころの話じゃないかも」
「…お前が私を傷付けないメリットは?」
「…慈悲?同情?…仲間だったからかも」
「やっぱやめ!好きだからかな」
「…くだらない」
「……くだらないよ。ぜんぶ…」
「好き…僕のこの気持ちも…」
「日帝には関係ないこと…なんね…!」
「やめろ。泣かれても困る…」
「…イタリア、…」
「僕の名前を呼んだんね」
「…嬉しいんよ、もっと、呼んで…」
「……」
この気持ちはどう言葉にするのだろう。
触れて、慰めてやりたい。
しかし此奴は…あのイタリア王国だ。
泣きじゃくる小さな子供を目の前にして
あやさずにいるような。
そんな、心苦しさがある。
頬を濡らすその涙を拭うことを躊躇い、
その背をさすってやることすら…
私には…
私は…
此奴は。
悪魔か、天使か。
本心か…演技か。
全て嘘なのかもしれない。
しかし。
率直に向けられる愛の言葉を
純粋無垢で透明な涙を
誰が、無視していられるだろうか。
これは犯した罰への償いか?
心を埋め尽くす、この気持ちは偽善か?
この愛さえ、贖罪の道具に過ぎないのか?
ああ。
そうだ。
偽善だとも。
贖罪のための、偽りの愛だとも。
私が、抱かれることが嫌なように
此奴は死ぬことがなによりも嫌なのだ。
同じかもしれない。
私も、此奴も。
「…そう泣くな…イタリア」
「……死にたくないんよ」
「もういっかいだけ…愛されたいんね…」
「私が……愛して、やる」
「…だから…」
「……それは、…うれしいんよ」
「…甘えたいんね。でも、…でも…」
「私の気が変わらない内に」
「さっさと済ませた方が、貴様のためだ」
お前がこの私に傷を付けなかった誠意を
私は慈愛にして返そう。
施しを受けたら、返すのが礼儀だ。
それが私の美徳だった筈だ。
此奴が私にどこまで望むのかは分からない
地べたに倒れ込み、
奴の黒いインナーを引っ張って
好きにしろ、と伝えること。
それが私の限界だ。
「…ほんとに、…いいんね?」
「……ごめん。ごめんなさい…」
涙に濡れた、睫毛を見ていた。
その奥で揺れる瞳を見ていた。
それ以外、何も見たくなかった。
孔に潤滑剤を塗りたくられる感覚。
遠くから匂う、雨の匂い。
耳を澄ませば聞こえる。
しと、しと…雨が地を打ち、雲が泣く音。
「…ッ……ふ、…」
「にってい……にってー…♡」
「……ぅ、…」
痛い、とも言い難い…
かといって悦いものでもなく。
多少の気持ち悪さ。
後は、腹の中を暴かれる感覚…それだけ。
稀に呟かれる言葉の数々は
どうしても、薄っぺらく感じられる。
何が違うんだろうか。
ナチとこの行為をした時は
えも言えぬ快感を得られた筈であった。
私を“愛”してくれているのは
…多分、同じなのだろうが。
この硬く冷たい地面と置かれた現状が
どうも、酷い違いなようで。
あの暖かく柔らかな布団と
閉じきったカーテンの色。
あれらさえあれば、
私も此奴を上手く愛すことができたのか?
手の指を一本ずつ絡ませて
視線を合わせる。
段々と早くなる律動、此奴の息の音。
潤む目から雫がひとつ。
ふたつ。
遠ざかる靴の音の反響。
部屋には悶々とする湿気が満ちる。
目元を真っ赤に腫らして
彼奴は部屋を出ていった。
最後に私へ遺した言葉は…感謝だった。
最期に残した温もりは、抱擁だった。
不思議と、それらはわざわざ嫌悪する程
気持ち悪いものではなかった。
…絆されたか?
我ながら、随分と大人しくなったものだ。
心に染みをつくる、一抹の重苦しさ。
絡まった指が解ける寂しさのような。
雨は降る。降り続ける。
夕暮の静けさを台無しにして。
夜に鳴くはずの虫の声すら掻き消して。
白んだ光が部屋に射し込む頃
遠くからカラスの鳴く声が届く。
雨は止んだ。
消え入るように止んだ。
ぴち。
屋根の縁に残っていたのだろうか。
朝。
最後の雨の一粒が、地へ落ちる音。
遠くで鳥が飛び立つ。
木々が噂を広める。
一際強い風がこの牢へ吹き込み
空き缶をカラリ、と鳴らした。
コメント
1件
第2話、読ませていただきました。イタリアの「処刑前の最後に愛されたい」という切実な願いと、日帝の「施しを受けたら返すのが礼儀」という揺らぎの間で交わされる、痛くて苦しいやり取りに引き込まれました。ラストの雨の一粒の描写が、すべてを静かに受け止めているようで、余韻が深いです。この関係がどこへ向かうのか、続きが気になります…!