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8月5日であなたは止まって

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8月5日であなたは止まって

2 - 第二章 気づいたのは俺だけ

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2025年08月07日

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第二章 気づいたのは俺だけ
朝、目が覚めた瞬間に、分かった。


──また、今日だ。


部屋に差し込む日差しも、スマホに表示された日付も、何もかもが昨日と同じ。

というか、「昨日」も「今日」もない。

ただ、8月5日だけが、何度も上書きされている。


最初は勘違いだと思った。

寝ぼけてたんだろう、とか、疲れてたんだろう、とか。

だけど、3回目で確信に変わった。

これは「デジャヴ」なんかじゃない。


世界が、同じ日を繰り返してる。



3度目の8月5日。

ヒナノは、また「おはよう」と言って、同じタイミングで笑って、同じようにクマのキーホルダーをもらって喜んだ。


4度目には、俺が先回りして「今日、誕生日だよな?」と声をかける前に、ヒナノが言った。

「今日、なにかある気がするんだよね〜!」って、笑いながら。

その“予定調和”すら、もう俺には気味が悪かった。


5回目、6回目。

どれだけ違う行動をしても、夜になればまたベッドの中で目が覚める。

朝日がカーテン越しに差し込み、スマホの画面に「8月5日」と表示されている。


……俺以外の誰も、この異常に気づいていない。



「ミナトってさ、最近ちょっと変だよね?」


教室で、クラスメイトが笑いながら言った。

「寝不足? 顔色悪いよ?」

ヒナノも、心配そうに俺の顔を覗き込む。


その目すら、何度も見た。

この表情も、何十回と繰り返されている。


「……うるさいな」


声が、少しだけ尖った。

思ったよりも冷たい響きだった。


「え……?」


ヒナノが、一瞬だけ固まった。

だけど、どうせ明日にはまたリセットされる。

謝る必要も、気遣う必要もない。

どれだけ冷たくしても、どれだけ無視しても、ヒナノは明日にはまた笑って「おはよう」って言ってくる。


「いいよな、お前は。何にも知らないで……」


その言葉だけは、声に出さなかった。



世界のどこかに、このループを止める鍵があるはずだ。

……そう思って、いろいろ試した。


学校をサボってみる


誰かに「ループしてる」って告白してみる


橋の上から飛び降りてみる


神社でお祈りしてみる


全部、無駄だった。

目を覚ませばまた、8月5日。


永遠に続く夏の一日。

終わらない誕生日。


やがて、俺は思い始める。


──これは祝福なんかじゃない。呪いだ。



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