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第二章 気づいたのは俺だけ
朝、目が覚めた瞬間に、分かった。
──また、今日だ。
部屋に差し込む日差しも、スマホに表示された日付も、何もかもが昨日と同じ。
というか、「昨日」も「今日」もない。
ただ、8月5日だけが、何度も上書きされている。
最初は勘違いだと思った。
寝ぼけてたんだろう、とか、疲れてたんだろう、とか。
だけど、3回目で確信に変わった。
これは「デジャヴ」なんかじゃない。
世界が、同じ日を繰り返してる。
*
3度目の8月5日。
ヒナノは、また「おはよう」と言って、同じタイミングで笑って、同じようにクマのキーホルダーをもらって喜んだ。
4度目には、俺が先回りして「今日、誕生日だよな?」と声をかける前に、ヒナノが言った。
「今日、なにかある気がするんだよね〜!」って、笑いながら。
その“予定調和”すら、もう俺には気味が悪かった。
5回目、6回目。
どれだけ違う行動をしても、夜になればまたベッドの中で目が覚める。
朝日がカーテン越しに差し込み、スマホの画面に「8月5日」と表示されている。
……俺以外の誰も、この異常に気づいていない。
*
「ミナトってさ、最近ちょっと変だよね?」
教室で、クラスメイトが笑いながら言った。
「寝不足? 顔色悪いよ?」
ヒナノも、心配そうに俺の顔を覗き込む。
その目すら、何度も見た。
この表情も、何十回と繰り返されている。
「……うるさいな」
声が、少しだけ尖った。
思ったよりも冷たい響きだった。
「え……?」
ヒナノが、一瞬だけ固まった。
だけど、どうせ明日にはまたリセットされる。
謝る必要も、気遣う必要もない。
どれだけ冷たくしても、どれだけ無視しても、ヒナノは明日にはまた笑って「おはよう」って言ってくる。
「いいよな、お前は。何にも知らないで……」
その言葉だけは、声に出さなかった。
*
世界のどこかに、このループを止める鍵があるはずだ。
……そう思って、いろいろ試した。
学校をサボってみる
誰かに「ループしてる」って告白してみる
橋の上から飛び降りてみる
神社でお祈りしてみる
全部、無駄だった。
目を覚ませばまた、8月5日。
永遠に続く夏の一日。
終わらない誕生日。
やがて、俺は思い始める。
──これは祝福なんかじゃない。呪いだ。