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8月5日であなたは止まって

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8月5日であなたは止まって

3 - 第三章 俺の世界が壊れていく

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2025年08月07日

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第三章 俺の世界が壊れていく

「おはよ、ミナト」


笑顔が怖いと思ったのは、これが初めてだった。


それはもう、100回目か200回目か、数えるのをやめて久しい“8月5日”。

ヒナノの笑顔も、声も、歩き方も、全部が擦り切れていた。


俺だけが、壊れていく。

世界はそのまま、綺麗なまま、繰り返されている。


「お前、今日が誕生日って知ってるか?」


「え? うん……知ってるけど……」


ヒナノが首をかしげる。

俺は笑った。冗談のように。


「へえ、よかったな」


それだけ言って、通り過ぎた。



プレゼントはもう渡さない。

何を言っても何をしても、明日には忘れられる。

俺がヒナノにどんな言葉をかけたとしても、それは全て“リセット”される。


一度、彼女に告白してみたことがあった。

返事は「え……ミナトくん、そういうの、突然すぎて……」

気まずい沈黙が流れて、どちらからともなく会話は終わった。

次の日、また同じ笑顔で「おはよ」って言ってきたとき、

俺は、少しだけ泣いた。


何も届かない。

何も意味がない。


愛おしいはずだった日々が、

ただの記号になっていく。



教室の窓から外を見ていた。

青い空が、まるでCGみたいだった。

「空って、こんなに嘘っぽかったか?」と、独り言みたいに口に出して、笑った。

ヒナノが、心配そうに近づいてきた。


「……大丈夫? 最近、やっぱり様子おかしいよ?」


「ヒナノ。お前って、いっつもそれ言うよな」


「え?」


「“最近おかしいよ?”って。何回目だよ、そのセリフ」


「……何言ってるの?」


「もういいって。分かったから。お前は何も気づかないままでいい」


ヒナノは、声を出せなかった。

目だけが、何かを言いたそうに揺れていた。

でも、どうせ。明日になれば、また全部なかったことになる。


だから。

だから俺は、言ったんだ。


「世界って、壊れるときは音もしないんだな」



その夜、俺はヒナノの家の前にいた。

家族構成も、誕生日の過ごし方も、全部知ってる。

何回も繰り返してきたから。


2階の部屋の明かりが灯っていた。

たぶん、あそこにヒナノがいる。


俺はポケットに手を入れて、小さなナイフの柄を握った。

……まだ殺すわけじゃない。

ただ、触っているだけ。確認しているだけ。


だけど、このとき、頭の中で確かに芽生えていた。


「お前を消せば、終わるんじゃないか」


って。


そのときの俺はまだ、それが“思いつき”だと思っていた。

まさか、後でそれが“真実”だったと知るとは知らずに。

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