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レティシアの剣が、蒼い光を帯びながらセリオへと迫る。
彼女の動きは速かった。かつて幼い少女だったころの面影はそこにはなく、今の彼女は一人の戦士——いや、聖騎士としての力を確かに持っていた。
カンッ——!
鋼の響きが暗い空気を切り裂く。
セリオは咄嗟に剣を振るい、彼女の一撃を受け止めた。
衝撃が腕に伝わる。並の戦士なら、この一撃だけで膝を折っていただろう。
しかし、セリオは揺るがない。
「……力をつけたな」
「悪を討つために、鍛えました!」
レティシアの蒼い瞳がまっすぐにセリオを捉えていた。
彼女の剣は迷いがない。
セリオを救い、魔族を滅ぼす——その意志だけが、刃の中に込められている。
「セリオ、何をしているの? さっさと片付けなさい」
後方で腕を組みながら、リゼリアが退屈そうに言った。
セリオは苦笑する。
「簡単に言うな」
再び剣が交差する。
レティシアは連続で斬撃を繰り出してきた。
その剣は洗練されており、無駄がない。セリオがかつて教えた技術を基盤にしながらも、そこには新たな技が組み込まれていた。
だが——彼女は知らない。
セリオが、すでに“人間”ではなくなっていることを。
「……悪いが、今の俺はもうお前の知っているセリオじゃない」
セリオは剣をひねり、レティシアの斬撃を受け流した。
そして、すかさず懐へ踏み込む。
「なっ——!?」
レティシアの表情が驚きに染まる。
次の瞬間、セリオの剣の柄が、彼女の腹部へと叩き込まれた。
「ぐっ……!」
鈍い音とともに、レティシアの体が後方へ吹き飛ぶ。
それでも、彼女は膝をつきながら必死に立ち上がろうとした。
「く……まだ……私は……」
「もうやめなさい」
リゼリアが一歩前に出た。
彼女の周囲に紫の魔力が渦巻く。
「これ以上やるなら、私も本気を出すわよ?」
レティシアは歯を食いしばりながら、セリオを睨みつける。
「……あなたは……本当に……セリオ様なのですか?」
セリオは答えなかった。
彼が言葉を発するよりも先に、リゼリアの指先から放たれた魔力が、レティシアの意識を奪った。
少女の体がゆっくりと地面に倒れる。
「ふぅ……面倒な子ね」
リゼリアが肩をすくめた。
セリオは無言のまま、静かに剣を鞘に収めた。
レティシアの寝顔には、まだ怒りの気配が残っていた。
彼女が再び目を覚ましたとき——その正義は、どこへ向かうのだろうか。