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1年後︰

1年前、紬は3位の結果に終わり、6級への昇格は叶わなかった。しかし、彼女の心には「必ずもう一度挑戦する」という決意があった。

それからの1年間、紬は黙々と練習を重ねた。朝早くからリンクへ行き、ジャンプを繰り返し、スピンの精度を磨き続けた。時には孤独を感じることもあった。それでも、氷の上での彼女の目には迷いがなかった。凍くんはもう別の級の大会に進んでおり、ここにはいない。だからこそ、今は自分自身のために、ただひたすらに努力するしかなかった。

迎えた大会当日。結果発表の時が来る。「第1位、空色紬選手。」6級へ昇格——ついに、彼女はこの壁を越えたのだ。

大会が終わった後のロビーは、まるで時間が止まったかのように静かだった。紬はベンチに座り、手のひらをじっと見つめる。1位になった。それでも、胸の奥にある感情は複雑だった。

「なぁー空色。」

不意に声がかかる。紬が顔を上げると、同じ学校のスケーター・山口健太が立っていた。彼は薄く笑いながら、紬を見下ろすように言う。

「お前、一年前は『青月 凍』に負けたんだったな。今頃優勝できても遅いったらありゃしない。」

その言葉に、紬は一瞬目を伏せた。唇を噛みながら、か細い声で返す。

「……でも、やっと……勝てたから……。」

健太はあざ笑うように肩をすくめた。「は?だから何?結局、凍には勝ててねーだろ?」

その瞬間、ロビーの空気が変わった。

足音もなく、鋭い視線が健太の背後から突き刺さる。圧倒的な威圧感が空間を支配し、温度が一気に下がったように感じられた。

「お前……何級?」

冷たい声が響く。健太が振り向くと、そこには凍が立っていた。整った顔には感情の欠片もなく、ただまっすぐに健太を見つめている。

健太は一瞬、言葉に詰まったが、すぐに吐き捨てるように答えた。「は?4級だけど?」

凍はふっと鼻で笑った。「ふーん。お前はまだ4級でも、こいつはもう6級。お前はこいつを馬鹿にする価値は一ミリもねぇよ。」

言葉は淡々としているのに、凍の圧はさらに増していく。健太の表情が険しくなった。「勝手に他人が口挟んでんじゃねーよ。お前空色の何者だよ。」

凍は一歩前に出た。「こいつは俺の恩人であって、ライバルだ。4級のお前が7級の『青月 凍』に向かって偉そうな口は叩いてられないよな。」

健太は唇を歪める。「なに!?お前ら付き合ってんの?」

凍はバカにしたように目を細める。「付き合ってるように見える?べつにそれでもいい。だってそんなのどうでもいいしな。」

その声にはまるで興味がなかった。凍は健太を見下ろしながら、静かに言う。

「こいつをからかうんならまず俺に勝ってからにしろ。クッソ汚いスピン飛ぶお前、『山口 健太』が、表現力が良いこいつを侮辱する必要はないしな。」

健太は歯ぎしりしながら凍を睨んだ。しかし、その目にはわずかな恐れが宿っていた。

紬は、そんな凍の背中を見つめながら、自分がどれほど成長したのかを実感していた。健太は悔しそうに歯ぎしりしながら凍くんを睨んだ。しかし、凍くんの冷徹な威圧感は変わらず、健太の肩に重くのしかかっていた。

「……チッ。」

健太は舌打ちし、何か言い返そうとしたが、凍くんの鋭い視線に飲み込まれた。やがて苛立たしげに肩をすくめると、ゆっくりと後退しながらロビーを出て行った。

彼の姿が完全に消えたあとも、ロビーにはまだ凍くんの圧が残っているかのような静寂が続いていた。紬はゆっくり息を吐き、凍くんの顔を見上げる。

「……ありがとう。」

凍くんは何も言わず、ただ真顔のまま紬に視線を向けた。だが、その目には、言葉にしなくても伝わる何かが宿っていた。



再開の誘い︰

健太が去ったあと、紬はふと凍くんの姿を見上げた。

「……ん?」

彼の背が高くなっている。驚いて思わず口を開く。

「凍くん、今の背は何センチ?」

凍くんは少し眉をひそめ、静かに答えた。「一年ぶりにあっていきなりそれはびっくりするけど、156cmだよ。出会ったときより5cm伸びた。」

紬は目を見開いた。

「私ですら151cmなのに。そんなに伸びていいな。」

凍くんは特に気にする様子もなく、視線を別の方向へ向けていた。紬はそんな彼のそっけない態度にも慣れていた。だから、自然に話を続ける。

「そうだ。明日、スケートまた一緒に滑らない?」

凍くんは少し考えたあと、淡々と返した。「良いけど、お前、もう6級なんだから俺と同じところに来るだろ。」

紬はその言葉を聞き、ふっと笑う。凍くんは何も変わらない。冷たく見えて、ちゃんと相手の立場を理解している。

「うん。行く。」

明日、また氷の上で彼と並ぶ。それだけで、どこか安心するのだった。


つづく

氷上の音なき旋律

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