「ねぇ翔太、俺の事好き?」
ある日の夕方…オレンジ色に染まった部屋の中で佐久間が俺に聞いて来た
「えっ…いきなり何の話?」
突然の問い掛けに俺が驚いて返答に困っていると…
「ごめん、良いや…やっぱ忘れて」
そう言った佐久間は切なそうに笑っていた
◇◆◇◆
それからしばらくして、急に周りが騒然となる
【佐久間が行方不明になった…】
昨日まで、一緒に笑って仕事をしていた佐久間の失踪の知らせ…
最近忙しく働いていた佐久間の失踪に、仕事に大きな穴が開くかと思われたが…
関わっていた全ての仕事はキッチリと終わらせてあり
今の所、大きな支障は出ていないとの事…
「自身による計画的な失踪なのか?」
仕事全てを把握して…最低限、周囲に迷惑が掛からない様にしてからの行動は
周りの事を大切にしている佐久間らしいと言えなくもない…
マネジャーから、LINEを送り既読は付いたものの返信が来ないと聞かされた
それから4日経ち…突然渡辺のスマホに、佐久間からのLINEに届いた
リーダーの岩本でもなく、LINEを送ったマネジャーでもない…
渡辺は、何故自分なのかと不思議に思いながらもそれを読んだ
【心配掛けて、すいません。決着が付いたら必ず戻ります。】
【決着】とは何の事か…渡辺は佐久間にLINEを送る
【とにかく会って話がしたい。他の人間に会いたくないのなら俺1人で行くから、場所と時間を指定して欲しい】
渡辺の問い掛けに戸惑ったのか、その日は返答が無かったものの…
翌日に思い直したのか、場所と時間を指定して【必ず1人で来て欲しい…】そう最後に一言添えてあった
◇◆◇◆
「久しぶり…って言っても、まだ5日ぶりだよな」
指定された部屋の中で佐久間はちゃんと待っていた
切なそうに笑う顔に、何かの不安が見てとれる…
「佐久間、一体…」
渡辺が声を掛けようと口を開くと
「俺ね…お前が、翔太の事が好きなんだ…」
目を見つめられて告白された
◇◆◇◆
渡辺の事を好きになったきっかけは、ある芽の出ない事務所の先輩に…俺が絡まれ嫌がらせを受けていた時の事…
「根暗のお坊ちゃんが、粋がってんじゃねぇよ!グループの為に性格変えるだぁ?無駄だろ…そんなの」
反抗できない様に威圧して、背の小さい佐久間を上から見下ろし脅して来る
「何してるんですか!俺のグループのメンバーに何か恨みでも?」
その時、止めに入ってくれたのが渡辺だった…
「これは、その…」
先に入った渡辺から見れば、その男は後輩で…態度を変えて焦り始める
「まだ佐久間に何か用?」
ジロリと睨みを効かせてそう言うと、慌てて逃げる様に去って行った
「……佐久間、怪我してないか?」
放心状態の自分に心配そうに問い掛けて来る渡辺に、いつしか心奪われ恋をした
けれど、それを打ち明ける事など出来なくて…今までずっと胸の中に押し込んで来た
◇◆◇◆
「俺の事が好き?」
突然の告白に、驚いている渡辺
「ただの【好き】ならまだ良いけど…俺の【好き】は、今じゃそんな生優しいものじゃない…」
「?」
「ドラマで恋人同士になった共演者に嫉妬でキレそうになってみたり…お前の事を閉じ込めて…自分だけのモノにしたいって考えてる自分が居て…どうにかなりそうなんだ」
「!」
「このままだと、暴走して翔太の人生…滅茶苦茶にしてしまう。そんなの俺、嫌なんだ…」
涙を流しながらそう告白する佐久間の姿を、渡辺は【いじらしい】と感じてまう…
「だから、もう少し…もう少しだけ待って欲しい。いつか自分の気持ちに決着が付いて、翔太と前みたいに笑い合える様になったら…絶対、皆んなの所へ戻るから…」
そんな日が、いつ来るのかは分からない…
でも今のままでは側に行けない…翔太の全部、俺が壊してしまうから…
「それでも良いよ…」
「!」
渡辺は蹲った佐久間に近付き抱き締める
「佐久間がそんな事にならなくても良い様に、2人で一緒に考えよう…」
「でも、俺…」
「大丈夫。俺が付いてる」
佐久間は、縋る様に抱き付いて…その日は、いつまでも泣き続けた
◇◆◇◆
楽屋の中でメンバー達と笑い合う佐久間…そしてその傍らには渡辺の姿…
結局、渡辺の説得に応じた佐久間は事務所に戻り…
佐久間の失踪は【長期休暇】と言う事にされ、今も支障なく働いている
こんなにスムーズに仕事復帰した佐久間は、本当に【病んで】いたのだろうか?
失踪していた期間が1週間にも満たない事から、ニュースにも世間にも一切バレずに騒がれる事もない
それは偶然なのか、はたまた渡辺を手に入れる為の罠なのか…
売れっ子の佐久間の失踪は、事務所によって圧力が掛けられ…全てが闇の中に葬られた
ただ渡辺はいつも佐久間の側に居て、彼を見守る様に笑っている…
これは仕組まれた必然なのか、それともただの偶然か
その真実は今だ事情を話そうとしない、本人だけが知っている…
コメント
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ちょっと🫰しました🩷💙