そう言うと松下は、突然黒板の所のチョークを手に取った。
「お前ら、うるせえんだよ!」
そして教室の後ろで騒いでいる、クラスでもバカでお調子者の千葉に向かって、それを全力で投げつけた。
するとチョークは弧を描く事なく、一直線に千葉に向かって飛んで行き、オデコに直撃した。
千葉は驚きと衝撃で後ろによろめきロッカーに頭を強打した。
「いってーなぁ…‥誰だよコノヤロー!」
「何か文句あっか? 千葉っ!」
松下は再びチョークを手に取り、千葉にそれを見せつけていた。
「せっ‥先生、違いますよ。先生に言ったんじゃありませんよ。それに僕は先生の言う事なら何だって聞いちゃう良い子なんですからね」
「そうか…なら肩を揉んでもらおうか」
「はい、喜んで!」
そして、お調子者の千葉は休み時間の間中、松下の肩を揉まされていた。
僕は気になる事があり、教室を出ると他のクラスの中を、それとなく探っていた。
1組…2組…僕のクラスの3組は飛ばし、4組…5組と順番に見ていったが、僕の知りたい事の答えは見つからずにいた。
「あれっ!? 紺野さん…‥」
誰かに呼ばれたので振り返ると、僕の知りたい答えは意外にも向こうからやって来た。
「佐藤さん…‥」
妹の亜季さんで間違いないよな?
「妹の亜季です」
僕が不安そうな顔をしていたので、亜季さんは直ぐに答えてくれた。
「何組ですか?」
「5組ですよ。紺野さんは確か3組でしたよね。葵ちゃんと一緒ですね」
「えぇ、まぁ…‥」
「それよりどうしてここに? 何か用事でも?」
「・・・・・」
“あなたが何組になったかが知りたくて1組から順番に探していました”とは流石に言えなかった。
「えっ!?」
亜季さんは何かに驚いた様子だった。
そして何故か頬を赤らめていた。
「どうかしましたか?」
「いぇ…何でもありません」
「はぁ…。用事は済んだんで、もう教室に戻ります。学校が終ったら…‥」
もっと話がしたかった。
一緒に帰ろうと誘おうと思った。
でも、姉の葵さんと帰ると思ったので誘うのはやめた。
「わざわざ…ありがとうございました」
亜季さんは笑顔でお辞儀をすると教室の中に戻ってしまった。
それにしても亜季さんの言った“ありがとう”とは、何に対しての“ありがとう”だったのだろう?
僕は首を傾げながら教室に戻った。
そして自分の席について考えた結果…後悔はしたくないので、やっぱり誘う事にした。僕らしくなかった。こんなに積極的になれる自分に驚いた。