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寮は一人一人に用意され、正門から見て教室の奥地に、高層マンションのように広がっていた。
それぞれ、1〜3年生A〜Dクラスまでの、合計12層にもなる壮大なマンションとなっていた。
寮で自分の部屋を確認し、粗方の荷物の受け取りを済ませると、疲労感からか、ヒノトは直ぐに寝落ちた。
「んが……ベッドじゃねぇや……ここ……」
朝四時、ソファで寝てしまっていたヒノトは、中途半端な時間に目が覚めてしまい、ベッドに向かうが、完全に目が覚めてしまい、上着を羽織り、飲み物が買える外の中央ホールへと足を運んだ。
「あ、おはようございまーす」
自動販売機の側には、ガタイのいいゴミ回収のおじさんらしき人物がゴミを纏めていた。
「うす……」
小さな声で返答されたが、なんの気無しに、ヒノトは飲み物を買い、自室へと戻り、入学式の時刻まで待った。
入学式が終わり、1年Cクラスへと向かうと、「よっ」と、リゲルが軽い挨拶で出迎えた。
「寮のベッド、すっげぇ寝心地いいのな」
「俺、昨日ソファで寝ちゃってさ」
そんな、他愛無い会話も束の間、ソワソワと少しずつ友人関係が築かれていく最中、途端に教室は静まり返る。
「嘘だろ……」
「噂では聞いてたけど……このクラスかよ……」
そして、小さな声で周囲は騒めき出す。
クラスへ入って来たのは、赤い瞳を宿した、ツインテールの小柄な女の子だった。
「なんだ? アイツ、なんかあんのか?」
「俺も実物を見たことはないから恐らくだが……あの子、噂の『魔王の娘』だと思うぞ……。あんな真っ黒な髪、魔族でなければ考えられないしな……」
この世界では、魔法属性ごとに髪色が変わる。
その女の子は、真っ黒な黒髪だった。
「へぇ、じゃあ闇魔法使えんのかな! 凄ぇな!」
「ハハ、ヒノトは魔族相手にも変わらないな。でも、発動の代償に人の命! とかだったら怖ぇな」
アハハ、と笑っていると、魔王の娘はヒノトの隣の席に腰を掛けた。
「お前、魔王の娘なんだって? 凄ぇな! 勇者パーティに捕らえられて、まだ小さかったからって保護してもらったんだろ? なあなあ、闇魔法使えんのか!」
ヒノトは、なんの気無しに話し掛けるが、魔王の娘はリアクションどころか無反応で答えた。
「無視かよ……。まあいいけど! どうせ俺は魔法すら使えないから、関係ねぇもんなー!」
「ヒノト……あんま関わらない方がいいかも知れないぞ。あの子、噂じゃ人嫌いなんだそうだ。誰が話し掛けても無視して相手にしないんだってよ」
魔王の娘は、そのまま淡々と、誰からも話し掛けられることはなく、授業に集中して取り組んでいた。
昼休み、ヒノトとリゲルは食堂へ向かう。
食堂も三箇所点在しており、高級レストラン仕様から村の定食屋まで再現され、その人それぞれの金銭面に合わせた計らいがされていた。
そのせいか、村の定食屋仕様の食堂は、人があまりおらず、がらんとしていた。
「なあ、ヒノトはパーティ編成どうするか決めたか?」
「ああ、決めてる! 俺が前衛のソードマンだから、やっぱ勇者パーティと同じ編成、前・中・中・後の王道編成にしたいんだ!」
「ハハッ、やっぱりヒノトは編成まで勇者パーティを参考にするんだな。でも、理想ばかりも言っていられないぞ。メンバー探し、しないとだからな。俺は気のいい奴らと組めたらいいんだけどな〜」
そう言いながら、リゲルの家では滅多に口にしなさそうな、イケガエル定食を躊躇いもなく口に入れた。
「へぇ、初めて食ったけど美味ぇな!」
ガタン!!
平穏な昼食時、突如としてキッチンから大きな物音が聞こえ、二人は咄嗟に目を向ける。
そこには、大柄の男に睨まれ、アワアワと震えた食堂のおばちゃんの光景が目に止まった。
リゲルは、昨日の前例を思い出し、咄嗟にヒノトに声を掛けようとしたが、既にヒノトはいなかった。
「ヒノト……お前は首を突っ込まずにはいられないんだな……」
「なあ、おばちゃん。どうかしたのか?」
おばちゃんは、震えながら「魔物……魔物……」と、ブルブル震えてしまっていた。
「アッハハ! 学寮に魔物なんているわけないじゃん!」
そう目を向けると、目の中が真っ黒な、黒髪の男を目の当たりにし、『魔族は髪が黒い』ことを思い出す。
「お前も、魔族の生徒だったのか?」
しかし、ヒノトはなんの気無しに話し掛けるが、男はその言葉にハッとした顔を浮かべる。
「お前……俺が怖くないのか……?」
「怖くねぇよ! あんな朝に作業してるもんだから、暗くて回収のおじさんかと思ったけど、中央ホールでゴミ片付けてたの、お前だったろ?」
「ああ……今朝、早くに飲み物を買いに来てた……」
「ゴミ掃除する奴がさ、怖い奴な訳ないじゃん!」
そう言うと、ヒノトは男にニカっと笑った。
そして、男が握り締めていた食券を見つけると、おばちゃんに代わりに差し出し、料理を受け取り、二人でリゲルの席まで戻った。
「なあなあ、名前教えてくれよ! 俺はヒノト! こっちの赤髪はリゲルな! 俺たち二人とも一年!」
「おう! よろしくな」
リゲルも、内情が伝わると、気さくに挨拶を交わした。
「俺は……グラム……。グラム・ディオール。二年……」
「うげ……先輩!! す、すみません……中央ホールに居たから、てっきり一年生かと……」
「いや、いいさ。むしろ、普通に接してくれた方が……嬉しい」
「そうか……? じゃあ、グラムだな! 改めてよろしくな!」
ヒノトとリゲルの会話が弾む中、淡々と昼食を食べるグラム。
そんな中で、会話の矛先はグラムへと向かう。
「なあ、グラムの職業って何?」
「え……俺は……一応……シールダー……」
その答えに、ヒノトは目を輝かせる。
「シールダー……ってことは、後衛だよな! なあ、グラム! 俺のパーティメンバーになってくれよ!」
その言葉に、グラムは箸をカタンと落とした。
「あ、俺……なんかまずいこと言った……?」
次第に、グラムの瞳からは涙が零れ落ちた。
「グラム……? 大丈夫か……?」
「こんな俺と……本当に組みたいのか……?」
「ああ! ゴミ回収を進んでやるようないい奴だ! 勇者になる俺のパーティにピッタリだろ!」
グラムは、我に返り、涙を拭って箸を持ち直した。
「俺は……学寮を辞めようと思っていたんだ……」
「えぇ、なんで……?」
「俺も、ブレイバーゲームに参加したかった。その為に練習してきた。でも、こんな見た目のせいで、メンバー勧誘どころか、魔族だなんだと避けられるようになっていたんだ……」
「でも、その黒髪、魔族なのは本当なんだろ?」
「いや、この髪は何故か黒いが、俺は岩魔法を使う。本来は茶髪のはずだが、暗く変色しただけなんだ……」
重い空気感の中、やはりヒノトは笑い飛ばした。
「な〜んだ! だったら解決だな! これからは俺たちがいるし、俺とブレイバーゲームも参加できるし、交友関係だってさ、笑顔の練習でもしてみようぜ!」
その言葉に、グラムはおろか、リゲルまでもが呆然と、その言葉を身に受けていた。
「へへー、リゲル! メンバーは俺の方が先に見つかっちまいそうだな!」
「あはは、お前には敵わねぇよ……」
ニヤけた顔で、リゲルは食事を済ませた。
――
グラム・ディオール - シールダー : 岩
*黒髪で強面なことから、魔族と勘違いされ孤立していた二年生。ヒノトのパーティメンバーとなる。